第16話 高額クエスト
「お疲れ様でした、熊さんは無事で?」
ミレイナは少し心配そうに首を傾げる。熊にさん付けをする感じなんか都会っぽくて可愛い。
ちなみに俺が前世で住んでいた田舎では「熊」はとても怖い存在でもあったのでとても新鮮だ。俺の実家がある付近は結構野生動物が多く友人が迷い込んだ猪に突進されて足を骨折したことがあるくらいだ。
俺はサルに追いかけまされたことがあって若干のトラウマを持っていたが、都会では動物園にわざわざサルを見にいくと聞いて驚いたことを思いだした。
「あぁ、母熊も無事だよ。なんでも熊族の長とか言ってたかな」
「そうでしたか。ゾゾスファミリーは森の動物たちとは仲が良かったので……ザック様は無類のもふもふ好きでしたから」
「人間は危害を加えるかもと心配していたがそのつもりはないと約束してきた」
「マレン様はお優しいですね」
——俺も、いうてもふもふは好きだからな!
「あっ! もう熊ちゃん帰っちゃいました?!」
と慌てて裏庭からのドアをあけたのはムーンだ。彼女は木の籠にたくさんの野菜を詰め込み、慌てて収穫したのか頬には泥がついている。
まんまると太ってみずみずしい野菜たちは綺麗に水洗いされている。昨夜使った成長魔法のおかげで収穫可能になっていたようだ。素晴らしい魔法の力。
「あぁ、だいぶ前に」
「残念。美味しそうなお野菜選んだのに〜。可愛い子熊ちゃんに食べさせたかったわ。もう一回抱っこしたいわ」
「もふもふ……でしたね。また会えるでしょうか」
すっかり仲良しのミレイナとムーンは少し残念そうに肩を落とす。ちなみに、俺もあの可愛い耳のついた後頭部、しかもハチミツの香りを漂わせたもふもふの子熊と過ごしたい……破壊的な可愛いさだった。
「さて、ちょっと二人に相談があるんだが、いいかな」
***
ロンナはお昼寝の時間、大人三人は食堂でミレイナが入れた高級な紅茶とムーンが焼いたにんじんのパウンドケーキで話し合いを始めた。
「この依頼を受けようと思っているんだが……どう思う?」
俺がテーブルに置いたクエスト依頼書、俺の向かい側に座っていた二人は覗き込んだ。
『呪いの解除 報酬10万ゴールド及び娘を女中奉公、または結婚相手として提供します』
「俺は、別に嫁が欲しいわけじゃないが。どうも引っ掛かってな」
ミレイナとムーンは先ほどまでの穏やかムードとは打って変わってピンと空気が張り詰めている。
「呪いの解除の報酬に女性を……? しかも提供って……ものじゃないのだから」
不快感を露わにしたミレイナの横でムーンが眉間に皺を寄せる。
「あの、このレッドファミリーって私知ってます。いわゆる貴族みたいな立ち位置の古いファミリーで血縁者しかいないとか」
「へぇ、そういえばムーンさんは実家がお金持ちなんだっけ」
「あぁ、いえ貴族とかではありませんが……父が事業に成功しただけで。それで一度父の付き添いで社交会に行ったことがあるんですがそこでレッドファミリーについて聞いたことが」
ムーンはちょっと恥ずかしそうに頬を赤くしながら実家の説明をしたあとに、そう言った。
「でもさ、そんな貴族が娘を俺に渡すようなことするか? 俺は確かに強いしここのところいろんなトラブルを解決したり悪い奴を豚箱にいれたりはしていたがお貴族様が政略結婚を考えるような相手ではないと思ってるが」
「ミレイナさん、私はこの案件……受けるべきだと思ってます。だって、なんか……すごく嫌な予感がします」
ムーンは隣に座っているミレイナに言った。ミレイナは「嫁、嫁」と小さく呟きながらもコクコクと首を縦に振る。
「嫌な予感、か……」
「はい。あの……私の勘違いかも例ないんですけれど私が参加した社交会でレッドファミリーとして紹介されたのはボス、ご婦人、御令息だけでした。私もご挨拶しましたが、まさか御令嬢がいるなんて全く知らなかったんです。もしかしたら、長い間呪いに苦しんでいるのかも」
「もしくは、長い間虐げられているか……じゃないでしょうか」
ミレイナの意見に俺は同意する。大事にしているのなら娘をクエストの報酬になんかするか。
「そうかもしれないな。俺はまだ結婚する気はない。だから、嫁にはしないけどこの女中奉公ってつまりはメイドさんだよな? まぁうちのファミリーでのんびりやってもらおうか。うん……」
「はい、報酬10万ゴールドで一人の女の子を救える上、新しいファミリーメンバーです。良いところのお嬢さんなら家庭教師もできるかもしれませんし。マレン様、頑張ってください」
高額なクエストを受けるのには正直ワクワクするが、この件に関してはちょっと嫌な予感がしていたのでワクワクというよりもザワザワしていた。




