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第14話 幕間 ミレイナの恋心

 マレン様は、寝付くのがとても早いです。

 二時間おきに様子を見ていますが、寝相も良くうなされることもほとんどありません。その上、女性を連れ込むことは一切なく、私やムーンさんにもお誘いはございません。

 コウモリに彼を尾行させましたが、彼が女性のいるお店に出入りすることは一度もなく街中やギルド協会内で女性に話しかけられるとムッとしたように話を切り上げてしまう。

 全くと言っていいほど女性の影がない。


 お強く、容姿も良く、性格も良い。

 最近では一番の冒険者でファミリーのボス。恐ろしい龍を倒した強者。彼が望めば多くの女性が群がること間違いなし。


 多くの人はモテてしまえば、パートナーを取っ替え引っ替えしたり欲を満たすだけの相手を多く持つこともあるはずだ。私が高級ホテルでメイドをしていた時、毎日違う女性を夜に連れ込む殿方や、逆に毎日別の殿方の部屋に訪れるメイドはたくさんいたのだから。

 金・肉欲。


 マレン様はどちらにもあまり興味がなさそうだった。


「ポテチ……」


 と時折寝言をいいますが、なんのことやら。


 私は、先代当主・ザック様と人間の母の間に生まれた子。母は私を産んですぐに亡くなり、周りに求められて再婚したザック様は新しい奥様とうまくいかずロンナ様を残してその女性は去って行きました。

 人間の血が混じった私にお父様は「好きなことをやって、好きな人を作って幸せになりなさい」とおっしゃいました。

 最初は、私が純血のヴァンパイアじゃないから嫌われているのかと思って反抗もしましたがあれが「愛」だったのだと私は理解しました。


『最後のチェリーは二人で分けなさい』


 お父様は最後まで食料を私たちに譲って、死んでいきました。衰弱する自らではなく私とロンナ様のために。命を投げ打たれた。彼は最後に私の母に会いに行けるのだから辛くなんかないと笑って、息を引き取った。

 私は、それを見ていることしかできませんでした。

 私は、ただゆっくりと訪れる死を待つだけでした。けれど、どこからともなく現れた彼が私たちを救ってくれたのだ。


 すやすやと眠る横顔はどことなく不安げでそれでも優しさが感じられた。強い正義感と圧倒的な武力、魔力。それでいて、彼は何か暗いものを抱えていた。まるで異世界から来たような不思議な人は、私の命を救い、大好きな父とファミリーたちの仇をとってくれた。

 それどころか、毎日血を分け与え役割をくれて見ず知らずの人間のために危険を冒してお金を稼いでくれる。


 そっと、眠っている彼の頬に手を添えた。


——あぁ、私は貴方にどうやって恩を返したらいいの?


 彼は、私になにも求めない。誘惑にも乗らない。その上、もっと私の負担を減らそうとかいう。彼は、圧倒的な力の持ち主なのにどうしてこんなにも自己犠牲的なのだろう? 無欲なのだろう?

 ゾゾスファミリーと対峙する数々のファミリーたちはもっと傲慢で欲まみれだった。あの高級ホテルにくるような上級の客ですらメイドに手を出したり、そのメイドも金のために男と寝る子もいた。

 知性のある生き物だからこそ己の欲に溺れ、倫理に外れたことをする。だからこそ、自分の欲を抑えてでも相手を思いやれる人が魅力的に見える。


 恋愛なんてしたことがない私は、どうやって彼に気持ちを伝えたら良いのかわからない。

 でも、命を救ってくれた恩を返したい、今も命を繋いでくれた恩を返したい。そんなふうに言っても彼は「必要ないよ、毎日掃除してくれてるじゃないか」なんて笑うんだろう。


「無償の愛を受け取るのがこんなにも苦しいだなんて」


 そっと彼の頬に唇を寄せる。起こしてしまわないように、静かに。

 体の奥が熱くなって、心臓がおかしな動きをしている気がする。すぐそこにある彼の大きな手に触れたくて、触れて欲しくて……でもそれをぐっと我慢する。

 荒くなってきた息を整えながらもう一度、彼の頬にキスをして離れた。


 もしかして、故郷に愛する人がいるのだろうか。それとも私が人間ではないからあしらわれているのだろうか。

 私はこのファミリーのメイドとしてボスやみなさんを支えるべきなのに。彼の子はもっと高貴な女性に産んでもらうべきなのにこんなこと……



——「好きなことをやって、好きな人を作って幸せになりなさい」



 かつて父は私に言いました。

 私は、彼のためになりたい。そして、彼がこちらを向いてくれるのなら……彼と幸せになりたい。まったく振り向いてくれないけれど、好きでいるのは私の自由ですよね、きっと。


「うーん、ポテチがない。ポテチがない。俺のポテチ」


 珍しくうなされている彼を見て思う。


——ポテチとはなんでしょうか


 彼が夢にまで見ているものなら私が、探さなくては。

 今日も眠れない夜になりそうね。


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