第10話 クエスト依頼BOX
「どうした? ミレイナさん」
朝、食堂に向かって廊下を歩いているとメイド服姿のミレイナがぽつんと立っていた。彼女は手のひらに何か布のようなものを載せてニコニコ、いやニヤニヤしていた。
「失礼いたしました、マレン様」
「なんか嬉しそうだな?」
「はい。これみてください」
彼女は俺のように歩み寄ってくると、手のひらの上に乗せていたものを見せてくれた。白いシルクのつやつやした布でできた巾着袋で可愛らしいピンク色のリボンが結ばれている。そして、ほのかに清涼感のある香りがした。
「これは……?」
「サシェっていうものだそうです。ムーンさんが私に。うふふ、なんでも虫が苦手なハーブを調合してくださったそうで……これをポケットに入れておくだけでも虫が寄ってこないんだとか」
「よかったな」
「私、誰かにプレゼントをもらうなんて本当に久しぶりで嬉しいんです。ムーンさん、前のファミリーであまりよくない立場だったと聞いたから彼女にはのんびり過ごしてほしいですね」
以前、ミレイナは「すぐに新しい人を信用できないかも」と言っていたが、ムーンは人の懐に入るのが得意らしい。彼女はかなり思いやりがあり洞察力が鋭いように見えたから当然の結果かもしれない。ただ、ムーンは前のファミリーで十分に気を使って尽くしてきたはずだからここではのんびりして、良いタイミングで恋愛でもして落ち着いてほしいという気持ちもある。
「あぁ。ミレイナさん、今日はクエスト多めに受けてくるから少し遅くなるしみんなで先に夕食を食べ始めちゃってくれ」
「あら、あまり無理をなさらないでくださいね」
「ありがとう、行ってくる」
***
ギルド協会に着き、俺はクエスト課へと向かった。今までは、掲示板に貼られたクエストを受けていたが、せっかくファミリーに入ったんだし「クエスト依頼BOX」を設置することにしたのだ。
「ゾゾスファミリーのマレン様ですね。クエスト依頼BOXを設置にあたって、募集するクエストの条件をいくつか指定できます、報酬額、クエスト内容、依頼期間などこちらの資料にいくつか希望条件をご提示下さいね」
俺の担当のお姉さんは、小人族の人でカウンターに合わせてやけに高い椅子に座っている。かなりテキパキとしていて、見惚れるくらいの仕事の捌き具合だ。
「ちなみに、この条件から外れている依頼でも数日でしたらストックは可能ですがしておきますか?」
「どうしようかな。うちのファミリーは現状動けるのが俺1人でして……」
「なるほど、では高額なもののみストックしておきましょうか。それではBOX設置の手数料は初回100ゴールド、その後は月間50ゴールドとなります」
「はい」
担当のお姉さんは何やら資料を見ながら眉間に皺を寄せる。そして、パラパラとめくってから俺の方に冊子を開いた状態で渡してきた。
「これ、過去三日間の記録なんですが。マレン様宛にきているものなんです。結構あるでしょう? ですからクエスト依頼BOX設置と同時に、ファミリー募集の依頼も出してみては?」
「ファミリー募集ですか」
確かに、冊子を見るとここ三日間で結構な数のクエストが俺宛にきているようだった。どれもこれも報酬は1000ゴールドを超える高額だったし、せめてもう1人俺と同じように戦えるやつがファミリーにいたら資金繰りも楽になるだろう。
「そうですよねぇ。ちなみに、ファミリー募集の掲示をするのってどんな感じですか?」
「この募集書類がBOXに貯まるので、定期的に回収して気になる人に声をかけてもらう感じです。なお、依頼掲示は一ヶ月500ゴールドです。厳しく条件をつけて書類を選別するサービスもあってその場合は倍の料金になりますよ。きっとゾゾスファミリーは人気になると思うのでオプションサービスをつけておくことをお勧めします」
お姉さんはぐっとカウンター越しにこちらへ寄ってきて声を顰めて続ける。
「ちなみに、クエスト依頼BOXとファミリー募集掲示の担当者に私を指名してくださればより細かい条件で選別いたしますよ。あぁ、指名料が別途500ゴールドずつかかるんですけどね」
彼女のセールストークは素晴らしいもので、俺はあれよあれよと彼女を指名する書類にサインをしていた。なんか、大学生の時、スマホを機種変した時の感覚を思い出した。まじでセールストークがうまい人に捕まるとこうやってサインしちゃうんだよなぁ。
「ありがとうございます。今後ともよろしくお願いいたします。それでは、今日はいくつかクエストを持っていかれます?」
「あぁ、じゃあ『赤ゴブリン退治 1000ゴールド』と『鬼トゲガエル退治 2500ゴールド』、あとは『ボーンホース捕獲 1000ゴールド』を受けます」
「お噂通りどれも高難易度ですね。はーい、こちらで受理しちゃいますね。どうぞ」
「どうも、じゃあまた明日クエスト見にきます」
「はい。それでは、明日こちらにいらしたら『アカリ』をお呼び下さいね。あっ、私の名前ですよ。私はドワーフ族のアカリといいます。ここへ務めてもう五年になりますのでそこそこの中堅ですね。ご指名いただいた分精一杯がんばるのでよろしくお願いいたします!」
シゴデキな担当と握手をして俺はほっと安心した。THE ビジネスライクでドライで信頼できる気がする。
「よろしくお願いします」
「じゃあ、今日の午後からクエストの選別とファミリー募集の掲示を始めますね」
彼女は丁寧にお辞儀をすると俺が立ち上がったのを合図にカウンターの奥へと引っ込んでいった。
今日だけで3500ゴールド、まぁまぁか。あとは、環境部に寄って世話話でもしてクエストへ行こうかな。




