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97 待ち伏せ

 どうもみなさまごきげんよう。私です、ハルコです。

 ドワーフタウンを目指す道中、いきなり現れた魔族に絡まれてけっこうマズい状況です。


 何がマズいって、初撃を受けたバーミンちゃんの容態が危ういってことと、それをどうにかするためにコマレちゃんがかかり切りになって戦力から抜けているってこと。


 そして一番はやっぱり魔族が例の称号を名乗ってることだろう──今代の四天王を表す肩書きである「四災将」。その重みはスタンギルと戦ったことで私もよくよく知っている。


 ロードリウス。スタンギルを友と呼ぶこの新たな魔族は、疑うまでもなく超のつく強敵だ。

 それでいて単独で行動していたスタンギルと違って、こいつは手下と見られる他の魔族も二人引き連れているのが余計にマズい。


 魔族が、三人もいる。対するこちらは四人。コマレちゃん抜きでも数の上では勝っているんだからなんとかなるだろう、なんて楽観的には考えられない。何せ魔族はモノが違う。身体能力も魔力量も人間を遥かに超越した、ヤバい種族。その生来に持つと言われる征服欲や破壊衝動と相まって非常に危険な存在であり……人類種の天敵なのだ。


 同じく、人間よりも種族的特徴として優れた肉体を持っている獣人なんかは生まれながらの戦士の種族であると紹介されているが。それで言うなら魔族はさしずめ生まれながらの処刑人ってところだろうか。


 そもそもまともに戦っても、戦いにならないのだ。それくらい魔族は理不尽に強い。だからこの世界には勇者がいるんだろう。理不尽に対抗するための理不尽として。


 ……その一人が私だっていうのがなんとも笑えないポイントなんだけどさ。


「どうしたね? 何故答えない。何も難しい問いではなかったはずだ。スタンギルを倒した者は誰か、と訊ねているのだよ」


 睥睨。という言葉がピッタリの上から目線を寄越しながらロードリウスは、「ああ、それとも」と思い付いたように私たちの後方、馬車のあるほうを手で示しながらこう続けた。


「それを為した者はあそこにいるのかな? ならば諸君らに用はないが」


 ──仇討ち? それが目的で襲ってきたのか、この男は。


 態度といい物言いといい、とても仲間がやられたからってその無念を晴らすべく闘志を燃やすようなタイプには見えないんだけど。でもわざわざ、目の前に勇者が並んでいて、それを承知でいながらあくまでスタンギルを倒した人物にだけ拘るからにはそうとしか思えないよね。


 なんにせよコマレちゃんを標的にさせるわけにはいかない。だんまりを決め込むのはここらが限界だ。


「スタンギルと戦ったのは私だよ」

「命を奪ったのは、私」


 私が名乗り出れば、間髪入れずにカザリちゃんもそう言った。それを受けてロードリウスは「ほう!」と面白そうに私たち二人をじっくりと検分するような目付きで眺めてくる。


「なるほど、スタンギルを討ったのは二人か。であれば私も二人同時にお相手させてもらおう」


 二人同時。勇者を複数、一度に相手すると宣うロードリウスに恐怖はない。緊張すらも感じさせない余裕綽々さだった。


 こいつ……仮にも同格の仲間が殺されているっていうのに、自分が負けるかもなんて微塵も考えてない感じ? そりゃあ、勝てる自信とか算段があるからこそこうして襲ってきてんだろうけど、それにしたってあまりにも大胆不敵というか、傲岸不遜というか。それが魔族らしさだって言えばそれまでかもしれないが。


 にしたって、初めて私たちの前に姿を見せた魔族であるザリーク。あいつだって大胆不敵というワードがよく似合う奴ではあったけど、そんなあいつでも勇者が何人もいるって知ったらビビッてたっていうのに。そりゃザリークに関しては初見だからこその驚きもあったこととは思うし、そのザリークから事前に情報を得ているに違いないロードリウスとは一概に比較できたものではないとも思うけど──。


 それらを踏まえてもやはり、不気味だ。

 この男にはスタンギルともザリークともまた違った、別種の怖さがある。


「ふむ、となると端のお嬢さん方には用がなくなったわけだ。かと言って決着までの間をただ手隙とさせてしまっては申し訳がない。ちょうどここに私の部下も二名いることだし、良ければ彼らと楽しんでいてくれたまえ」

「ふーん。四対三で戦るってことだ?」

「当然! そのために私はここで君たちを待っていたのだからね」

「何故、待ち伏せができたの」


 カザリちゃんが問う。そこは確かに気になる部分だ。魔族には人を洗脳する術を使えるのがちらほらといるみたいだけど、だからって私たちの情報を得るのは至難だろう。それをするにはもちろん誰彼構わずとはいかず、王城の人間を狙わなくちゃいけないからだ。


 ザリークがレイクさんを操ったみたいに一市民を狙うのならまだしも、そういった事態に万全の備えをしている(とルーキン王が言っていた)王城関係者を駒や手先に変えるのは現実的な案じゃない。というかそれができるならとっくにもう連合国は魔族の手に落ちているだろうしね。


 それにそもそも、私たちの行動予定はめちゃくちゃフレキシブルに変更が加えられまくってるのだ。仮に王城の誰かから、他の誰にも気付かれずに情報を入手することができていたとしても、これだけポンポンと変わるスケジュールをその都度に把握するなんて無理がありありだ。


 なので余計に疑問なんだよな。ロードリウスはどうやって待ち伏せなんかができたのか? まさかこれも魔族の能力か何かで、私たちの行動を先読みしたとか……? だとしたら激ヤバなんだけど。


「何故、というほどの謎でもないだろう? スタンギルの死は魔王様に伝わっている。それが勇者の仕業であることはほぼ確実……であればこうして、エルフタウンとドワーフタウンの中道に期待を持つのはそう分の悪い賭けではない。実際に諸君はここを通りかかったわけだからね」


 待ち始めたその日にやってきてくれたのは幸運だった、とロードリウスは笑う。


 う、そういうことか。魔族側が勇者の行う儀の巡礼について──その意味とか手順とかを──どこまで正しく把握しているか定かではないけど、エルフタウンに寄ったからにはドワーフタウンにも寄るだろう、程度のことは予測できていたわけだ。


 で、ドワーフタウンを目指すにあたって高確率で通る街道に張り込んでいたと。これは、途中でトラウヴで試練に挑みつつも最大限に先を急いだ私たちと、ロードリウスの脳内のただ真っ直ぐドワーフタウンへ向かう私たちの移動速度がイヤな具合に噛み合ってしまったっぽいな。


「このポイントは街が遠い中間地点。それでいて比較的に利用者も少ない道ときている。邪魔は、入らない。まさしく勇者諸君を出迎えるに打ってつけの場所だ──と、そう立案したのは私ではなくザリークだがね」


 おっと訂正、イヤな噛み合いをしたのはロードリウスとではなくザリークとだったみたい。あいつが私たちの目的地や、そのために四、五日もすればここを通過するだろうと推測してロードリウスに伝えたってわけだね……まったく余計なことをしてくれるなぁ。


 自分はさっさと退散しといて仲間をぶつけるのには躊躇がないとか、いかにもザリークらしい。


「では互いにひとつずつ質問に答え合ったことだ。そろそろ始めると──」

「あ、待って。その前にもう一個だけ。なんで手始めに御者を狙ったの?」


 カザリちゃんに続いて私も気になったことを訪ねてみれば、見得を切ろうとしたのを中断されてロードリウスは若干不満そうにしながらも。


「それもわざわざ訊ねるほどのことかね? まずを奪うのは基本だ」

「だからって貴重な初撃を、勇者以外に使うもの? 私だったら戦力を一人でも早めに潰すけどな。不意打ちなら足回りを狙うのは第二射からでも遅くないし」

「ふ、そこは見解の相違と──目的の差異だね、お嬢さん」


 ……目的の差異?



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