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94 試練の旅路は完了っすよ

 時刻は夕暮れが迫る頃。役場とギルドの人たちは夜通し作業を行うとのことだったが、それに私たちが手伝えることはないのでバーミンちゃんの待つホテルへと帰還。


 半日ほどを宿から出ずに休養に当てた彼女はすっかり調子を取り戻したようで、ロビーで元気に出迎えをしてくれた。ギルドからホテル経由でそろそろ私たちが戻ってくることを知らされていたらしい。


「バミっち回復早いねぇ、もう連日の疲れが取れたのー?」

「へへ、腐っても獣人っすからね。怪我とか疲労の治りはこれでも早いほうなんすよ。それより、皆さんこそお疲れさまっす! どうだったっすか最後の試練は」

「めっっちゃ大変だった。ちょっとテッソを甘く見てたよ……テッソそのものっていうか、魔物の理屈の通じなさをね」

「な、何があったんすか?」


 そこで私たちはホテル内のレストランへと移動して宿泊代に組み込まれているディナーを頂きながら、地下水道での死闘(主に死にかけたのは私だが)の様子と、それでも無事に任務を完遂できたことをバーミンちゃんに報告した。


 途中、私が大怪我を負ったあたりを聞きながらハラハラしていた彼女はふと今の私がピンピンしていることに気付いて「あれ?」みたいな顔をしたけど、すぐに何かに腑に落ちたみたいに頷いてそれきり不思議そうにはしなくなった。いったいどういう理解の仕方をしたのかな、バーミンちゃん? 


 まさか私が死にかけて即復活するのが当たり前みたいに受け入れてないよね。さすがにそんなの慣れっこだと思われてもしんどいよ? 本当ならちょっとした怪我だって嫌なんだから、私。


 まあとにかく絶品のステーキ(上等な牛ヒレって感じ)を食べながら諸々のことを話し終えると、バーミンちゃんはいい笑顔を見せた。


「やったっすね皆さん、これで試練の旅路は完了っすよ! あとはドワーフタウンに寄って王都へ帰るだけっすね」


 ただ、試練の突破は三つとも迅速であり、移動にもそこまで時間をかけてきていない。ということでドワーフタウンだけでなく、儀の巡礼で挨拶に向かうべき最後の一箇所、魔闘士ギルド本部があるアーストンという街にも寄れるかもしれない。と、バーミンちゃんは自作(!)の地図を指でなぞって進路の候補を複数示しつつ言った。


「どうするかは国王様の判断次第っすけどね。ってことで今から自分ギルドに行って通信機借りてくるっす!」

「王城に報告するんですね」

「ウチも一緒に行こうか~?」

「いえ、自分だけで大丈夫っす。ナゴミさんはどうぞ休んでてくださいっす!」


 いつもの早食いで誰よりも先に皿を空にしているバーミンちゃんはそう告げてから颯爽と出ていった。


 うんうん、ちゃんと元気が戻っているようで何よりだ。昨日だってそこまでへこたれていた感じはなかったけど、こうして休んだあとと比べるとやっぱりちょっとだけ活力に薄れていたなと改めてわかるね。本当にちょっとだけだから、彼女自身から言われないと疲れてるなんてちっとも思えなかっただろうな。


 私たちに余計な心配をかけまいと元気溌剌を意識して演じていたんだろうか? だとしたら水臭い。けど、立派だなとも思う。


 バーミンちゃんを案内人に指名したルーキン王の人選は的確だ。過去にはバロッサさんから指導を受けていたことも、ゴドリスさんを始め王城の兵士がいい人ばかりなのも、さすがは王様だけあって人を見る目が確かすぎるね。


「ふー、ごちそうさま。残念だけどもう食べられないや」

「二百グラムはあるステーキを五皿も平らげて言うことじゃない」

「もう治っているとはいえ大きな怪我をした直後によくそれだけ食べられますね……」

「怪我したら余計に食べちゃうんだって。血が足りてないからさ」


 一応、職員さんの紹介でギルド内の勤務医さんに軽く診てもらいはしたんだけど、外傷もなければ内傷もなしってことで本当にただ見られるだけで終わったんだよね。


 つまり治癒術は施されていないし、貧血気味なのもそのまま。治す傷もないのに治癒術を受けるのはおすすめしないって言われたからそこは別にいいんだけど、今にして思えば軽い栄養剤くらいは貰ってもよかったかもな。


 どうせこれから食事だし、食べれば体調も戻るだろうとそっちは私から断ったんだよね。でも一キロも肉を摂取したっていうのにまだ疲労感というか、体が重い感じは抜けてない。ちょっと見通しが甘かったかな? なまじもう傷がどこにもないだけに私自身が自分のやられっぷりを正しく認識できていない可能性がある。


「それは一キロもお肉を食べたせいじゃないの、ハルっち? 胃もたれしてるんだよきっと」

「なんのなんの、このくらいで悲鳴を上げるほど私の胃袋は軟弱じゃないよ。ていうかそれ、怪我もしてないのに四皿食べてるナゴミちゃんの言えたこと?」

「えへ~」

「いやえへ~じゃなく」


 相変わらずの健啖家っぷりに軽く呆れていると、それを見てカザリちゃんとコマレちゃんも呆れたように肩をすくめていた。なんぞ? そりゃ食べた量で言えば私のほうが多いけどこの場合はナゴミちゃんのほうがすごい食いっぷりでしょ。ね、そう思うよねシズキちゃん。あ、ノーコメント。そうですか。


 せっかくステーキをお代わりし放題なんだからお代わりしないのはおかしい。それぞれ百グラム一皿しか口にしていないコマレちゃんとシズキちゃんは損をしている。その点、一度はお代わりして合計三百以上は食べてるカザリちゃんは見所がある。そもそも普段私やナゴミちゃんに隠れて目立たないけどカザリちゃんは好物だと露骨に食べる量が増える隠れ食いしん坊だ……と食後に頼んだアイスクリームっぽい冷たいデザートを楽しみながら熱弁を振るって、カザリちゃんのアイアンクローを食らっているところに、バーミンちゃんが戻ってきた。


 はやっ、もう報告終えてきたんだ。


「おかえりなさい。バーミンさんもデザートどうですか」

「あ、いただくっす! でもその前に王城からの指示なんすけど、ひとまずはドワーフタウンに向かうこと以外は考えなくていいそうっす。アーストンにまで立ち寄るかはドワーフタウンを出るときにまた改めて考慮することになったっす」


 あーそうなんだ。試練の旅が順調に快速で終わったなら、儀の巡礼もついでに終わらせちゃうのもいいアイディアだと思ったんだけど……どうせそっちもアーストンで最後なんだしさ。でもルーキン王の判断は思ったよりも慎重だった。


 でもそうだね、ここトラウヴでこそ何もなかったけど第一と第二の試練然り、ザリーク然り、今回の魔王期はあまりにもイレギュラーが多いわけだから。既に何度も予定が変更されていることもあって「思ったより順調だから」なんてノリだけで勇者をどう動かすか決められはしないだろうな。


 ってことで私たちには当然、その決定に否やはなく。どっちにしろドワーフタウンへ赴くことに変わりはないんだからやることも同じだ。


「今日はもう遅いっすし、皆さんもお疲れだろうっすからとーぜん出発は明日に回すつもりっすけど……後のことを考えてなるべく早く出たいと思ってるっす。朝一のチェックアウトでも大丈夫そうっすか?」


 その質問に皆は私のほうを見た。あ、私が一番疲労困憊だからか。まあお風呂で沈没してたらそりゃ心配にもなるか。でも、これからしっかりと眠れば何も問題はない。この怠さも明日にはなくなってるだろうって予感がする。なので答えは決まっている。


「もち、オッケー! 早いとこドワーフタウンでお楽しみアイテムを貰っちゃおうぜ!」



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