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93 魔物も多種多様

 女王個体が逃げてこなかったか、それから街に通常個体のテッソが溢れていないか確認してみたけど、どのスポットからも女王は現れておらず、またテッソも発見されていないようだった。

 やはりコマレちゃんたちが倒したので全部だったんだろう。


 私たちが見て回っていないエリアもあるのでそこにはぐれ・・・のテッソがいないとも限らないが、いたとしても数はごく少数に違いなく、少なくともテッソを無尽蔵に増やす女王は確実に排除できているのだからあとは街の力だけで充分に駆除が叶う。と、ギルドの職員たちは言っていた。


 ところでその女王に取り付いて……いや寄生して? 操っていた大口テッソはなんだったんだろうか。


「女王よりも上位と思われる大きな口を持つテッソ、ですか。そのような存在は寡聞にして存じません。おそらくは異常個体と思われますが……」

「異常個体?」

「はい。種類を問わず魔物には時折そういった、従来の生態や能力とはまったく異なった特徴を持つ個体が出てくるのです。亜種と称される魔物の多くは特殊個体の出現がその始まりとされていますね」


 ほほー、そうだったのか。てことは穴ノールとかも、ノールの中に何故か生まれた異なった生態を持つ個体が自分の群れを作ったりしたのが誕生の経緯だったりするのか。じゃあ大口テッソがそんな感じで増えたらどうなっちゃうんだ……女王が子分のポジションに収まって大量増殖するとか? 


 そうだとしたらえらいことだ、テッソが出る度に国を挙げての大駆除作戦を発令しなくちゃならなくなるぞ。


「いえ、異常個体の定着はそうそう起こることではないので……絶対にないとは言い切れませんがそう気を揉むことでもないかと」


 恐ろしいもしもを心配する私に職員さんは苦笑混じりにそれが杞憂であると教えてくれた。なんでも生息数が多いだけにゴブリンなんかの亜種はそれなりにいるし有名でもあるけど、それらにしたって通常のゴブリンとそこまでかけ離れているわけではないとのことで……逆に普通から外れていればいるほど世代を跨ぐのは難しくなる傾向にあるんだとか。


「ハルコさんの話によれば大口はあまりにも通常のテッソと差が激しいですからね。ハルコさんが倒したその個体だけの突然変異で終わっていると思いますよ」


 と、物知りなコマレちゃんもそう言うからにはそうなんだろう。つまり、大口の血を引くテッソがいたとしてもその特徴まで引き継いでいるとは考えにくいってことらしい。なーんだ、それなら安心だね。


「あれ? でもワイバーンとかはゴブリンみたいにたくさんはいないけど、ブラックワイバーンやらレッドワイバーンやらで別れてるよね。これってどういうことなんだろ」

「ワイバーンに関してはドラゴンとの区別のための名称ですので。名前は似通っていても実質、ブラックワイバーンとレッドワイバーンはまったく別の魔物なんですよ。近縁種に違いはありませんが交配もできませんからね」


 別のギルド職員さんが私の疑問に答えてくれた。へー、そうだったのか。色分けでわかりやすくしてるだけであって、ワイバーンって名前だからってテッソと女王テッソみたいな一個の種族ではないんだな。


 ここら辺、魔物の知識を最近になって一から仕入れている私たちにはちょっと理解が難しい部分もあるな。でもこの世界の人たちにとっては何も難しくない、っていうか当たり前のことでしかない。いちいち噛み砕いて説明したりされたりしなくても皆がわかりきっている常識でしかないんだろう。


「ということは、亜種扱いされていない魔物は名称が共通していても基本、別種であると覚えておけばいいのでしょうか」

「はい、まさしく。例えばゴブリンには大ゴブリンや木ゴブリンが亜種にいますが、同じくゴブリンから派生したグレムリンに関しては別種です。こちらもワイバーンの例と同じく、両者間での交配は不可能となっております」


 またぞろファンタジー知識にウキウキになったコマレちゃんが興味津々に訊ねれば、職員の人は丁寧な解説付きでそれに応じてくれた。わかりやすくて助かるね。


 ついでの説明によると大ゴブリンや木ゴブリンとは字面の通りに通常のゴブリンよりも大きい個体と、木の上を生活圏にするゴブリンのこと。そんでグレムリンはゴブリンよりも更に非力で体も小さいが悪知恵が働き、人の道具をなんでも使いこなしてしまうほどの知能と器用さを持つ厄介な魔物なんだと。


 ただのゴブリンでも人の武器とか防具を利用するくらいのことはするが──私も短剣装備のゴブリンと戦っているからそれはよく知っている──なんとグレムリンは魔道具なんかも利用して人を襲うのだ。あらまぁ、それは確かにとんでもない知能だね。さすがに魔石に魔力を込める技術はないみたいだけど、使い捨てにしたって魔物が魔道具を使ってきたら相当な脅威だよ。なので、貧弱ながらにゴブリンよりも危険度の設定が高くされていると。


 魔物も多種多様だねぇ。街中に住んじゃうテッソにも驚かされたけど、もしもグレムリンが人里に入り込むと、またそれが魔道具がたくさん流通している都会であればあるほど、テッソの氾濫どころじゃない被害になりそうだ。そうなると災害だねもはや。


「テッソほどじゃありませんがグレムリンも群れる魔物ですからね。そこも、精々がグループでしか行動しないゴブリン種とは異なる特徴です」


 そう締めたところで、休憩させてもらっているトラウヴの魔術師ギルド支部に街頭人さんが到着。依頼達成の報告を耳にして大急ぎでやってきたようで、彼は大粒の汗を額から拭いつつ顔をくしゃくしゃにしていた。それは感激によるものだ。


「ありがとうございます、本当にありがとうございます勇者様方!」


 そう何度も頭まで下げてお礼を言う街頭人さん。市民から怪我人を出さずにテッソを駆除できたことが本当に嬉しかったんだな。女王までいる大きな群れだと調査結果を聞かされたときにはどうやっても犠牲者が出るのは避けられないと覚悟していただけに、今回の結果は僥倖以外の何物でもないのだと彼は言った。


 試練の地に選ばれて一月ほどテッソにノータッチだった期間は痛し痒しだっただろうけど、まあ結果的には私たちが駆除を請け負って確かに良かったんだろう。

 単に大きな群れってだけじゃなく、女王が四体もいて、大口という異常個体までいたんだから、もしも市内の戦力だけで対応を敢行していたり、仮に国の兵士を動員したとしても当初の予想通り犠牲が生じるのは免れなかったに違いない……とはコマレちゃんの談だが、私もそう思う。


「なんだか皆さんバタバタしてますけど、まだ何かするんですか?」

「これから夜通し魔術師ギルドと魔闘士ギルドが連携してテッソの生き残りがいないか調査し、必要なら追加駆除を行うことになっております。その後は薬品を使って洗浄作業も……テッソは不潔ですし、その体臭が残っているとまたテッソが巣を作りやすいとも聞きますから」


 うえ、テッソにはそんな習性もあるのね。つくづく街に良くない魔物ですな。


 私たちも地下水道から戻った際にはいの一番に身を清めることを勧められて既に準備&貸し切り済みだった入浴施設に案内されたけど、それは単に汚水の傍で戦った汚れを取るってだけじゃなく、私たちの体にもこびりついているであろうテッソ臭をなくさせるのも目的だったのかもしれない。


 ちなみに仕事終わりのひとっ風呂は最高でした。疲れた体にお湯が染みわたって気持ちいいなんてものじゃなかった……既に眠気がマックスだった私は結局そこで気絶めいた眠り方をしちゃって、湯に沈んでいたところをナゴミちゃんに引き上げられた。


 近くに彼女がいてくれてよかったよ。危うく魔物や魔族との戦いに生き残っていながら銭湯で命を落とすとこだった。

 ある意味じゃいい死に方かもだけど。



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