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9 お手並み拝見

 翌日。天気のいい早朝にログハウス裏の庭でバロッサさんは言った。


「あたしの下に近く勇者が訪れることは夢に見て知っていた。昨日も言った『女神のお告げ』ってやつだ。夢の中で慈母の女神様はあたしに勇者の指南を言い付けられた。つまり、戦う力を持ちながらそれの扱い方を知らないあんたらに薫陶を授けろってこったね」


「教師役になれってことですか。うへー、よくそんなのタダで引き受けましたね」

「ふん、やらいでか。お告げに逆らうってのは魔族に与するも同じこと。協力を拒んで勇者の身にもしものことがあれば人類一巻の終わりなんだからね」


 じゃあ拒否権はないも同然なのか。私だったらそんなのますますげんなりしちゃう。


 せめて報酬でもあるなら別だけど、バロッサさんが言うにはお告げの対象に選ばれること自体が大変な名誉であって、見返りを求めるのが間違っているんだとか。そう言う割にはあまり嬉しそうにも誇らしそうにもしていないのが気になったが、とにかく女神の言う通りにするつもりはあるようだった。


「あの、差し支えなければ夢に出てきた女神様の容姿に関して教えていただけますか」

「容姿を教える? そりゃ無理だね。意地悪言ってんじゃなく、あたしの夢じゃ女神様は霧の向こうにいるみたいにぼんやりとした影しかお見せになられなかった。声だって遠くから響くようにはっきりとはしなかったんだ。あんたらは女神様と直に対面したって話だが、そいつは勇者だからこそ許される特権さね。叶うことなら同じ体験がしたいと羨む奴は大勢いるよ」

「む……そうですか、ありがとうございます」


 コマレちゃんは大人しく礼を言ったが、その顔付きは考え込むそれだった。


 今の質問はあれかな? 私たちが見た女神とバロッサさんの夢の女神が同一人物か確かめたかった感じ? 

 それわかるわ~、まったく信用ならんもんねあの女神。慈母の女神なんて呼び名が世界的に広まってるっぽいのが信じられない。実はこの二人がまったくの別人だったとしても私は驚かないよ。むしろ納得しかないわい。


 なんて言っても、バロッサさんがはっきりと顔を見たわけじゃないっていうなら確認のしようがないんだけど。コマレちゃんも残念そうだ。


「いきなり指南と言われてもこんな老骨に何ができるのかと疑問に思っていることだろう。だがこう見えてもあたしには人を育ててきた経験がそれなりにあるもんでね。女神様もそこを見込んでお選びになられたんだろう」


 というわけだ、と一通り語り終えたバロッサさんは私たちの顔を順々に眺めて言った。


「女神様のお達しに否やがないのはあんたらも同じだろう? あたしの指南を受けるのは決定事項だ。幸いここらには危険な魔物もいないし腰を据えて鍛えられる。さ、まずは現時点での力の程を見させてもらおうかね。何ができて何ができないか。何を知っていて何を知らないか。それを把握しないことには鍛えようもないからね」


 含蓄ある教師らしい物言いだった。人を育てた経験があるっていうのは嘘でもなければ伊達でもなさそうだと、学校の先生に他の生徒たちよりもお世話になっている自覚がある私には確信が持てた。

 うん、昨日の時点でわかっていたことではあるけど、やっぱりバロッサさんはいい人だな。間違いない。


 突然力を見せろと言われて皆は戸惑っている。特に考え癖のあるコマレちゃんと用心深そうなカザリちゃんあたりが渋っている気配をビンビンに出しているが、ここは胸襟を開く場面だと私は思う。


「大丈夫だって! とりあえずは言う通りにしてみようよ。バロッサさんが良い教師かどうかお手並み拝見しようじゃないの」

「ど、どの目線にいるんですかハルコさんは」

「私はいつでも私の目線だけど?」

「言いようのない説得力がある」

「褒めるな褒めるな。何も出ないよ?」

「褒めてない」


 何故か私に対して慄いているコマレちゃんと呆れているカザリちゃんのリアクションに疑問を感じつつも、まあとにかくやってみようという雰囲気になったのでヨシとしよう。


「──何ができるか、という点はコマレにも不透明ではありますが」


 そう前置きしつつ先陣を切ったコマレちゃんの前に出した手の先に、魔法陣の壁が浮かび上がった。これは昨日も見た、シズキちゃんの黒いやつをガードした技だ! 咄嗟にできちゃったみたいなことを昨晩は言っていたのに再現もバッチリらしい。


 ちな、私にもできないかと全身に力を込めたり大声で叫んでみたりしたけど無理だった。そしてすっとんできたバロッサさんにやかましいとまた頭を叩かれた。泣きっ面に蜂だった。


「障壁、それも陣付きのご立派な代物だね。これを感覚でやってんのかい?」

「は、はい。あと、こういうこともできます」


 障壁とやらを消して、代わりにコマレちゃんは上に向けた掌から火を出した。ライターくらいの火力ではあるけど、いくらちっちゃくても何もない手から火が燃えだす様はハッキリ言って異様で、ぎょっとしてしまう。だけどコマレちゃんにとってはこれもまだ序の口でしかなかったようで。


「そして、こうですね」


 今度は両手を出して、その上にぽわっといくつもの球体が浮かび上がった。火の玉以外にも、水の玉、土くれの玉、渦を巻く風の玉。それらがぐるぐると円を描いてコマレちゃんの手の上を回っている。


 わーおなにこれ、マジックショー?


「こいつは驚いた。クアドラプルとはね……それも基本属性を網羅とはとんでもない」

「えっ、コマレちゃんって今そんなすごいことしてるんですか」

「ああ、あたしもお目にかかったことがないからね。流石は勇者様ってところか」


「だってさ! よっ、コマレちゃん! 超天才! 我らの頭脳!」

「なんですか急に、その雑なよいしょは」

「いやぁ、そこまで言われるくらいすごいなら今の内に媚びを売っとこうかと。お零れに預かりたいじゃん?」

「だとしたらその明け透けさをどうにかすべきですね……」


 ハルコはちょいと静かにしようか、とバロッサさんに低めの声で言われて私をお口にチャックをする。でも私の性格上、そこまで長くは持たないからちゃちゃっと見ていってほしいな。


「じゃあ次はウチだねぇ。ウチは魔闘士? っていうのの才能を貰ったよ」

「ほう、魔闘士か。何かそれらしい自覚はあるかい」

「えっとね。なんとなくだけど体が頑丈になってる気はするかな~? あと、手とかに力を入れるとこうなるんだ」


 むん、とナゴミちゃんが握った拳がうっすらと光る。昨日カザリちゃんが見せた真っ白で眩しい光とは違う、なんていうか無色透明な光だ。それを見たバロッサさんは納得したように頷いた。


「確かに、やってることは魔闘士のそれだね。一部位だけに魔力を集わせるには鍛錬が必要なはずだが、あんたも感覚だけでやれてるってわけだ」

「ま、魔力ですか。やはりコマレたちは魔力を使えるようになっているんですね……!」


 興奮を抑えきれない様子でコマレちゃんが目を輝かせている。


 そっか、チートとかいうものすごいパワーを貰って主人公があれこれと活躍するのが最もテンプレだ、とコマレちゃんは解説していた。そういうのをよく読んできたってことは、そういう話が好みだってこと。そしてそれが現実になっているんだから彼女としてはワクワクもするだろう。


 わかるよ、詳しくない私でもバロッサさんの寸評にはちょっと心が踊ってるもん。

 特に魔力なんて言葉の響きだけでもこう、なんだか震えるものがあるよね。


「ナゴミの魔力を知覚できていないやつはいるかい? ……いないか。だったら全員に魔力を扱う才があるのは間違いないね。さあ、残る三人の力も見せてもらおうか」



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