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88 どんな魔物よりも怪物

 やってることの意味がひとつもわからん。

 私をスルーしてわざわざ網の中という危険地帯に自ら飛び込んでいくのも、そしてその中に捕らえられている味方に噛み付くのも、まったくもって意味不明の行動だ。


 え、アレって噛み付いてるよね? もしかして見間違い? ……いややっぱ噛み付いてるわ、めちゃくそ牙を突き立ててるわ女王の頭に。ヌメヌメした体表にドロドロした緑っぽい色の血が流れてきてるもの。


 ってか、テッソの血って緑なんだ……女王だけの特徴なのかもしれないけどますますエイリアンっぽさが際立つな。魔族だって血は赤いっていうのにさ。ということは、あの赤い目は血走ってるわけじゃなくて元からそういうデザインってわけだね。うーん不気味。

 

 なんて呑気に考えてる場合ではなかった。もしや同士討ちかと都合のいい展開を期待した私を嘲笑うようによろしくない異変が起き始めている。


 噛まれたことで女王の顔が……というか形相がハッキリと変わった。元々知能が高い割にはまったく理性を感じさせない顔付きだったのが、もっと荒々しく狂気的に。六本の手足にも力みが入ってさっきよりも太く、網の糸から伝わるパワーがどんどん上がっていっている。


 マズい、網が破られかねない。女王は宙吊りなので多少暴れたところでぐるぐる巻きの糸を切り裂いたり千切ったりはできないはず、だったのだが、これはもう多少の暴れ方では済まない。さっきまでの女王とはまったくの別物だ。それくらいに力が引き上がっている。


 まさかこれが大口テッソの狙いか!? 懸念として挙げた未知の強みがまさに発揮されてしまったのかもしれない。内心で舌を打ちつつ新しい糸、それとミニちゃんを追加で巻き付けて大口テッソごと捕獲し直そうとしたが……一手遅かった。


「ギィッチュァアアッ!!」

「うっそでしょ!」


 補強は間に合わず、女王は明らかにさっきより伸びた手足を全開に広げることで糸の拘束を引き千切ってしまった。その力強さ、もはや私を見ているのかも判然としない真っ赤な眼球が飛び出している様からは、一個の生き物というよりも生物兵器的な……戦うことだけに能力の全てが注がれたような歪さと怖さを感じさせられる。


 もちろん、そうさせているのは大口テッソだ。


 女王が汚水に落ち、だけどすぐに水を掻き分けるようにして通路へと上陸。勢いあまって壁に激突して止まり、そして私のほうへと向き直る。

 大口テッソを王冠のように頭に乗せた女王テッソの荒れ狂う姿は、これまで見て来たどんな魔物モンスターよりも怪物モンスターだった。


「そういうことか……」


 大口テッソの一連の行動の目的が、読めてきた。最初こいつは女王が捕まってる網の根本にいた。今にして思えばあれは当初、網に侵入してこんな風に女王を操る? つもりだか強化するつもりでいたんだろう。


 でもその前に私に気付かれた。しっかりと目が合ったことで計画変更。そのまま女王の網に入っても目的を邪魔されて自分も捕まってしまうだけだと判断してひとまず私に襲いかかった。


 その狙いは、奇襲が上手くいって私を始末できれば上々。そうでなくても私が避けるなりなんなりでアクションを起こして女王から気が逸れる、もしくは距離が開けば次に良し。私の警戒を余所に再び女王の解放を行う……っていう二段構えだったんだろう。


 私はそれに気付かずまんまと女王から離れた上に、大口テッソにばかり意識を向けて本当の目論見をまったく察することができなかったわけだ。こんなの思考力でネズミ(もどき)に負けたようなものじゃないか。くぅ、悔しい。というか悲しいよ。もうちょっと目端が利く人間であれば任務も終わっていたかもなのにさ。


 だがこうなってしまったものは仕方がない。うだうだと後悔なんてしてないで女王テッソwith大口テッソを倒さないとな。


「ギッチュァ!」


 這うような姿勢で踏み込んできた女王に合わせて、大口テッソを捕らえるつもりで伸ばしていた糸を急遽として使用。壁糸を構築し振るわれた腕を受け止める。けど、女王が止まったのはほんの一瞬。ミチミチと腕が鳴っているのか糸が鳴っているのかわからない異常を知らせる音が耳に届いたかと思えば、女王の手の先が壁糸を突き破った!


 マ、マジか! あのデカくて重いトロールの攻撃だって壁糸は防げるのに、それが破られた。ってことは女王の腕力はトロールよりもずっと上だっての!? そのまま壁をビリビリにして侵入してくる女王の射程から逃れるために慌てて後退しながら、いやと気付く。


 よく見れば女王の手……その大きさからすれば小ぶりでなんてことはなかった爪が、今では鋭く尖って伸びている。これも大口テッソに噛まれた影響だろう。凶暴になっただけじゃなく爪まで伸びるとはますます原理不明だが、なんであれやはり女王の思考も肉体も完璧に戦闘へと振り切れているのは確かなようだ。


 この爪に壁糸が切られて脆くなったんだな。同じ壁糸でも対打撃用と対斬撃用の作り方はちょっとだけ違う。打撃に対しては撓みを意識して張り、硬さよりも柔らかさを糸に持たせる。斬撃に対しては逆に柔らかさよりも硬さを優先。また撓みを設けて衝撃に強くさせるのは同じだけど、対打撃用のそれよりも幾分かピンと張るのがコツでもある。


 毎日の折を見つけては行っている糸繰りの自主練でシズキちゃんに手伝ってもらって──つまりショーちゃんのなんにでもなれる力を活かしてもらって──掴んだ壁糸の効率的な張り方。が、今は裏目に出たようだ。


 大口テッソに噛まれるまでの女王の攻撃は打撃のみだった。噛み付きよりもリーチの長い手足を用いた乱打のほうが強力だしリスクもない。ってことでそればっかり選ぶのは当然で、そこに時々尻尾攻撃でも織り交ぜれば食らってるほうは対応が追い付かずに追い詰められていく……実際に私もそうなりかけていたところを、コマレちゃんの魔力とシズキちゃんのミニちゃんで逆転した。


 その流れを女王が学んだか、大口テッソがどこかから見ていたのか。それとも単なる偶然でこうなっているのかはわからないが──急に武器になった爪然り、めちゃくちゃやりづらくなってる!


「っくぅ!」


 きゅきゅッ、と爪を立てた掌打を連続で振るっていた女王の足が急制動、素早く半身を向けてくる。その勢いに乗って鞭のようにしなる尻尾が頭の高さで迫ってくる。左腕に纏っているミニちゃんの盾を変形させて防御しようかとも思ったが尻尾が右側から来ていることもあって避けたほうが早いし確実。そう考えて姿勢を低くすることでやり過ごそうとしたが、なんと尻尾の軌道がそこで変化。強かに右肩を打ち据えられて痛みに呻いてしまう。


 ぬかった、鞭みたいに使おうが尻尾は尻尾、女王の血が通った肉体の一部位! そりゃ軌道を変えるくらいのことは訳ないはずだ……!


 体勢が崩れた。ここに追撃を食らえばヤバい、のでミニちゃんに念じて囮役を頼む。私の意を察して左腕から離れたミニちゃんは盾状のまま回転して加速、女王へ突っ込んでいく。


 大口テッソが私にやったお返しというわけではないんだろうけど、顔に目掛けて勢いよく飛んでくるミニちゃんを女王も無視はできず腕の一本ではたき落とす。その対処の隙に私は後転、即座に起き上がって糸を作り直す。


 ミニちゃんが通路に叩きつけられて跳ねる。それを踏み越えて女王が近づく、そこで仕込んでいた罠を作動。攻撃を食らいながらも置いていた括り罠の糸を縮めて女王の六本の手足の内の一本を封じ──。


「ギィッチュ!!」


 るはずのそれがあっさりと千切れ、私は呆気に取られる暇もなく女王の掌打をまともに食らった。



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