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86 今度こそ一対一だ

「おぉおお!」


 パワー手袋と魔蓄の指輪を共に起動オン。腕力と魔力強化を一気に引き上げたことで女王の四つ腕による手数の多い攻撃にも互角に対抗できるようになった。そのおかげで多少の余裕も生まれて、足元に押し寄せてきているテッソにも対処ができるようになった。


「攻魔の腕輪──全開出力!!」


 闇の魔力を噴出させる。いつものようにレーザーとして一方向にのみ射出させるのではなく、足元に向けた腕輪から全方向へと加減も際限もなく魔力を飛び散らせる。


 こんな使い方をすれば私にまで被害が及びそうだが、大丈夫。純魔道具は術者の魔力が込められて起動するアイテム。本人の魔力であるためにその効力が持ち主を傷付けることはないとトーリスさんからの説明にあった。もちろん、魔道具の種類によっては必ずしもその限りではないという注釈も付け加えられてはいたが、少なくとも彼がくれたこのバングルに関しては例外ではない。


 正しく言えばバングルの持ち主はカザリちゃんであり、この闇の魔力もカザリちゃんのものであって使用者である私を傷付けない保証はどこにもないんだけど、そんな理屈は知ったことではない。私には魔力に対する不可思議なまでに高い耐性が──親和性があるのだ。それで誰が魔力を込めたアイテムだろうが問題なく使えてきている。からには、いざアイテムから放出される魔力を自分で浴びたってきっとへっちゃらに違いない。


「いっけぇ! ぐおっ!?」


 そう信じた甲斐もあって、自分が衝撃によってすっ転ぶくらいの勢いで後先考えずにぶっ放した全力の闇爆発はテッソの群れを面白いくらいに吹き飛ばし、私が下へ気を取られた隙をちゃっかり狙ってきていた女王までも天井から叩き落とした。


「あたた……ちょ、ちょっとは被害あったか」


 腰をさすりつつ立ち上がって、周辺をチェック。


 汚水の水しぶきを立てながら女王が通路中央に落下したのは確認済み。んでもって地下水道の地面は一部陥没しており、広がったヒビによってミシリと嫌な音が立っている。う、これがあるからできればバングルには頼りたくなかったんだけど……使わないことにはどうにもならない状況だったんだから仕方ない。


 でも、これ以上はよくないな。地下水道を崩落させてしまってはトラウヴの住民にえらい迷惑をかけることになってしまう。少なくとも今みたいな攻撃範囲を限定しないぶっぱはもうやらないように心掛けたほうがいいだろう。自分もまったく無事ってわけでもないしな。


 ただ狙い通りテッソは全滅させられたようだ。さすがはカザリちゃんの魔力、アンちゃんにもダメージを与えただけあって威力はピカイチ。そしてそれだけの威力を浴びる立ち位置にいながら私には(衝撃はともかくとして)なんの影響もなかったからには、やはり考えは間違っていなかった。魔力との親和性の高さはこういう利点もあるということだ。


 魔力だけの攻撃には強く出られるし、治癒術さえ施してもらえれば大きな怪我でも立ちどころに治る。こうしてみると親和性、なかなか便利じゃないか。皆に比べればわかりにくいしやっぱり地味だってのも否めはしないけど、決して大きく劣っているわけではない……と思いたいね。


「!」


 転がっていったテッソたちが本当に死んでいるかを注意深く観察していると、黒く濁った水の中からゆっくりと女王が立ち上がった。そして私のことを見つめてくる……相も変わらず無機質な瞳。


 でもその眼差しのどこかには確かに、怒りも垣間見えた。私を単に排すべき邪魔者としてだけでなく、憎い相手だと認識している。それは天井から落とされて汚水に塗れさせられたことへの憎しみなのか、はたまた可愛い子分たちがまとめて殺されたことに対する憎しみなのか。そのどっちも、って感じかな。


「そりゃあんたからすれば私は怨敵だよね」 

 居住地へずかずかと踏み入ってきて住人たちを殺して回る、とんだ野蛮人だ。けど元を正せば街に住み着くテッソが人間に対して同じことをしているわけで。そして私は人間として……勇者としていずれ多くの人を襲うことが確定している魔物の群れを放っておくことなんてできない。


 種族が違うからには、共存なんてできないからにはもう、後はお互いの立場と目的に沿って排除し合うしかない。


 戦う以外には、ない。


「てことで、やろうか。今度こそ一対一だ」


 すぐに次のテッソの集団のお代わりがやってくるんじゃないかと思えば、意外とそんなこともなく。他の四人を邪魔しているテッソたちでもう打ち止め状態なのかもしれない。


 ……女王は知恵が回るっぽいからそう思わせておいて周辺のどこかの穴にでも控えさせている可能性もあるが、まあそうだとしても構わない。それならそれで望むところだ、またまとめてぶっ倒してやる。それまでは攻魔の腕輪を温存しておけばいいだけの話である。


 女王一体だけなら、闇の魔力に縋らなくてもなんとかなる自信がある。いや、たとえ自信がなくたってなんとかしてみせる。


「かかってきな」


 私の言葉が理解できたわけではないだろうが、女王が動いた。長い手足の二本を岸にかけてひと息で下水から跳び上がり、そのまま私に残りの四つの足を向けて飛び蹴りめいた攻撃を放ってきた。


 質量に勝る側がやってくる突進攻撃は単純ながらに、だからこそ強力で対応に困らされる。実際元の世界では体格に優れた奴と向かい合ったときの緊張感はかなりのものだった──まあそれはこっちの世界でも変わらないけど、でも少しはマシと思える。だって私にやれることが増えているから。


「ふん!」


 女王が起き上がってくるまでただ待っていただけじゃない。既に糸は巡らせてある。女王は怒りに捕らわれて糸を見逃したか、あるいは見えていてもそれごと私をぶっ潰すつもりで突っ込んで来たんだろうけど……誤算だったな。


「ギチュィッ!?」


 両手の糸を引いて網の中心にやってきた女王を絡め取る。こんな風に糸のほうから纏わりついてくるとは女王も予想外だったろう。ただし束ねていないそれらの強度はたかが知れている。女王には子分たちにないパワーがあるし、今は勢いもついている。その全てを糸で塞き止めるのは無理がある。ってことで、シズキちゃんが間に合わせてくれたあの子の出番だ。


「お願いね、ミニちゃん!」


 と言い終わらない内からバングルから姿を変えてミニちゃんが飛び出す。大きくなって壁となり、目前まで迫っていた女王の四つ足蹴りを止め、そしてそのまま糸を助けるように自身も女王の体へ絡みついていく。


 おお、反応がバカ早い。変形もだ。それに力強さも上がっている。女王の突進を止めるのには相当な力が必要だったろうに、なんということもなさそうにあっさりとやってしまった。まったく押し込まれることもなく、言うなれば横綱相撲って感じで。余裕に対処してくれた──なんて助かるんだミニちゃん。魔道具みたいに稼働時間の限界はあるっぽいけど、そうだとしても充分過ぎるくらいに便利で頼もしいぞ。


 うっかりするとミニちゃんにばかり頼って自分では戦わなくなってしまいそうだ……でもそうなるとあっという間に魔力や糸の操作の腕が錆び付いていくのが目に見えているし、それが原因で致命的なことになるのも簡単に想像がつくので、易きに流されないよう努々自分を戒めておくべきだろう。


 糸とミニちゃんのダブル網に全身を拘束されてもう藻掻くことしかできない女王。宙に吊るされていても糸から伝わってくるそのパワーは大したもので、やっぱりミニちゃんが補助してくれていなければ脱出されていただろうな。だけど今は完全になす術なし。


 決着だ。あとはいつものように(っていうのもあれだけど)首を折れば終わり。ということでそれを皆に報告しようと意識から外していたケイフスに手を添えたところで。


『あ、あれ? 女王、見つけました……?』


「!?」


 思わぬ報告に目を丸くさせられた。



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