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82 テッソの繁殖

 食事に大満足してレストランを出た私たちはその足で街頭人さんが待つという役場へと向かった。大小にかかわらず街と認められていれば必ず置かれている、まさに私が知っている通りの役場である。そのトップだという街頭人さんもじゃあ市長的な人だろうという私の想像は間違っていないと思われる。


 で、件の街頭人さんがどんな人かと言えば、ごく普通の役人さんって感じだった。私たちのもてなし方も、良いお茶と良いお菓子を出すだけっていう常識的な対応で、試練の説明も含めて何から何まで本当に普通だった。


 試練の地として選ばれた街のトップに就いているからにはこの人ももちろん女神のお告げを受けているわけだけど、これまで出会ったお告げを受けた人たちが揃ってキャラが濃いというか、初見で強く印象を残してくる人ばっかりだったものだから、なんというか逆に驚かされた。こんなザ・一般のお役人って感じの人でもお構いなしにお告げしちゃうんだな、あの女神。


 もみじ饅頭的なお菓子を頬張りながらそんなことを考えている間に街頭人さんの話も佳境に入り、この街を悩ませてる元凶の名が出るところだった。


「テッソという魔物のようです。鼠そっくりで幼体の内は見分けもつかないほどですが、育つにつれて通常の鼠とはかけ離れた見た目になっていきます」

「それが、地下水道に繁殖してしまったと」


「そ、そうなんですよ。最初は鼠の量が増えたのだと思って両ギルドの力も借りて駆除を行なっていたんですが、まったく追いつかず……数はじわじわと増え続け、育ち続け。ひと月ほど前に魔術師ギルドの方が気付いたんです。これは鼠ではなくテッソだと。大元の女王・・を叩かないことにはどうにもならない、とも教えていただきました」

「そしてその頃に、女神のお告げを受けたわけですね」


「はい、歳さがなく感激しましたよ。まさか私が慈母の女神よりお言葉を頂けるとは……ああいえ、決してこの街に起きた不運を喜んでいるわけではないのです。テッソに対しては憤懣やるかたないですよ、怪我人も出ていますから当然です。ですがその、おわかりになるでしょう? それはそれ、これはこれ。夢でのこととはいえ女神様の御声を耳にできたのは私にとって何よりの幸運であるのも確かなのです。恥ずかしながら打ち明けますと、街頭人になって良かったとあれほど強く思ったのは初めてのことでした」


「ええ、それはわかりましたので……良ければ話を先に進めませんか?」

「あっ、そうでしたね。脱線させてしまって申し訳ない」


 陶酔したような表情から一転、汗を拭き拭き街頭人さんは愛想笑いを浮かべる。


 うーん、普通の人かと思いきや意外とこの人もキャラは濃いのかもしれない。それともこれくらい女神に入れ込んでいるのが連合国では普通なんだろうか? 


 バロッサさんとかタジアさんとか、信仰心はあってもここまで重い・・ようには思えなかったけどなぁ。


「と、とにかくです。勇者の皆様にはテッソの女王個体を討伐していただきたい。それが女神様の下された試練の内容となります」


 あとできれば、と街頭人さんは恐る恐るといった様子で付け足す。


「今この時もテッソは数を増やしています。それはもう、女王がいなくなってこれ以上増えなくなったとしても私たちにとっては充分な脅威であるほどに。ですので皆様には、女王だけでなく可能な限り通常個体のテッソも狩って頂けると非常に助かるのですが……いかがでしょうか?」


 あー、試練の内容はあくまで女王個体を討ち取ることであってテッソを全滅させることではないのか。


 とは言ってもそれだけ数がいるんだったら女王に辿り着くまでにテッソと遭遇するのは避けられないだろうし、私たちが女王狙いだと判明したら俄然に向こうから集中して襲ってもきそうだし。なのでどのみちだろう、と判断した私たちは街頭人さんのお願いを快く引き受けた。


「積極的に排除することをお約束します。せめて住民の皆さんでも除去が追いつく程度には減らしましょう。勿論、それ以上にまずは女王の討伐を第一にさせてもらいますが」


 街頭人さんは安堵したように息を吐いて、ぺこぺこと頭を下げつつ何度も礼を言った。そしてお菓子のお代わりをくれた。腰の低い人だ。それにテッソという悩みから解放されるのがよっぽど嬉しいみたい。街頭人としての仕事って大変なんだろうなぁ、とよく伝わってくるね。


 そんな感じで話がまとまったので、私たちはさっそくテッソの巣食う地下水道へ赴く……ことはせず、女王討伐に向けての軽い打ち合わせを有識者である役場やギルドの職員たちと行い、それが終わってからは一旦バーミンちゃんの待つホテルへと足を運んだ。


 というのもテッソはバリバリに夜行性らしいのだ。明るい内にまったく動かないわけじゃないけど、夜間は活発。昼間よりも素早いし敵と見做した相手にも果敢に襲いかかる。となったらわざわざ日も暮れた今からテッソのテリトリーに入っていく意味もない。


 普通のネズミほどじゃなくてもテッソの繁殖スピードも魔物としてはトップクラスみたいなので、街頭人さんや夜な夜な街に出てくるテッソに困らされている住人たちからすれば一晩でも、いやさ一分一秒でも早い駆除を望んでいることだろうとは思うけど、万全を期すためなので明日までは我慢してほしい。


 街頭人さんは「もちろんそれで構いません!」と手をぶんぶんと振って不満などあろうはずもないと全力でアピールしていた。


 っていう一連のことをホテル備え付けの食堂で夕飯を済ませながら(お昼が遅かった上にめちゃくちゃがっつりだったので軽めにね)、バーミンちゃんに報告。彼女はテッソについても知識を持っていて。


「テッソがネズミと見分けがつかないのはホントにちっちゃい時の一瞬だけっす。少し育つと毛じゃなくて鎧みたいな皮膚をした四足のネズミっぽい何かになって、もっと育つと更に外見が変わっていく……らしいっす。自分は何度か夜の街を走ってた小さいテッソしか見たことないんで、その先にどういう変化をするのかはあんま知らないんすけど」


「テッソの強さってどんなもん? さすがにノールみたいに手強くはないよね?」


 女王は知恵もあるしサイズもネズミを基準にはできないくらいデカい、とは職員の人から聞いているけど、その手足である普通のテッソはどれくらい厄介な魔物なのか。いくらなんでもノールほど危険ではない、といいなぁと思いつつ訊ねた私にバーミンちゃんは渋い顔を見せて言った。


「一体で比較するならそりゃノールのほうがヤバいっすけど、テッソはノール以上に群れるっすからね。地下水道を完全にテリトリーにしてるなら厄介さ的にはどっこいだと思ってたほうがいいっすよ。話を聞くにそれだけテッソが繁殖しているなら本来、兵士を大量投入した国を挙げての大規模な駆除作戦が行われるべきっす……それをたった五人で片付けなきゃいけないとなるときっとハードな仕事になると思うっす」


 マジか。そのレベルの大仕事を女神は私たちへ押し付けたのか。いやまあ、大変じゃなきゃ試練にならないってのはわかるんだけどさ。


 でもなんというか、ワイバーンとノールの群れに続いてやることが街中の害獣駆除っていうのもなんかこう、気が引き締まらないものがあるっていうか。ちょっと方向性の違う大変さに感じるんだよね。


「確かに朝方ならテッソの動きも多少は鈍るはずっすけど、本当に多少でしかないっす。くれぐれも油断は禁物っすよ、皆さん」


 バーミンちゃんからのありがたい忠告に私たちは頷いて了解を示した。



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