78 今はそれが全てだから
「ハルコさん。そのままでいいので教えてもらえますか」
と、シズキちゃんに抱き着かれたままの私にコマレちゃんが言う。すごいスルースキルだね。でも別に話すのに支障があるわけでもないので私が頷けば。
「あなたが戦っていたあの巨漢は……何者だったんです?」
「あいつは……なんだっけな。ああそうそう、『四災将』だ。四災将のスタンギルだって名乗ってたよ。たぶん、どの時代にもいるっていう四天王の一人だと思う」
四天王。そのワードに全員がピリッと反応した。シズキちゃんでさえも腕の中で少し雰囲気が変わった。お、おお? 思ってた以上のリアクションをくれるじゃん?
「確かなんですか、それは」
「いやまあ、本人が言ってただけだから真偽の確かめようはないけど。それに四災将ってのが本当に四天王を指す肩書きなのかもわかんないしね」
あくまでスタンギルが四天王だろうっていうのは私の予想でしかない。ないけども、あの強さといい四っていう数字の重なりといい、無関係とはとても思えないものだから私の中ではほぼ確定してる。
っていうか、あんだけ強くて四天王でもなんでもないですってなったらさすがにショックだよ。こちとら死にかけたんだからさ。頼むから幹部であってくれって願ってるよ、心から。
「何があったのか話して。奴から聞いたことも含めて、全部」
そう促すカザリちゃんには拒否を許さない迫力があった。少し眠いくらいで辛さはないから別に拒否るつもりもないけどね。えっと、何があったか?
「少し長くなるよ、思い出しながらになるし」
「時間はあるよ、ハルっち。ゆっくりでいいから」
ナゴミちゃんの優しい言葉に甘えて、あんまりわかりやすさとかは考えずにとにかく覚えていること、強烈に印象に残っている事柄から話していった。
スタンギルがあそこで何をしていたかとか、その能力とか、どういう戦い方をしたか。ザリークの名前が出たことや、私の持つ魔力への耐性の思わぬ側面が発覚したことも、とにかくざっくばらんに説明していった。
思い付く限りを喋り終える頃にはシズキちゃんも落ち着いて離れてくれた。でも私を見る目が気遣わしげというか、まだ心配でいっぱいというか。つくづく怖い思いをさせてしまったんだなぁと申し訳なさが募る。
「崩落した今はもう、天然の魔石たちも壊れてしまって力を失っているかもしれませんが……あの場には途方もない魔力が充満していました。あれだけの魔力を自在に操る能力を持つとなると尋常ではありません。エルフタウンへの襲撃という大役を任せられた点も含めてやはり、スタンギルが四天王であること。引いては四災将という肩書きが四天王を指すものであることは間違いないのでは?」
コマレちゃんは私の予想肯定派のようだ。そして誰からも否定の声は上がらなかった。だよね、やっぱそう考えるのが自然だよね。
ただ、そうなるとスタンギル並みにヤベー魔族が最低でもあと三人はいることになるんだよな……それはそれで勘弁してくれって感じ。
「じゃあザリークも四災将なのかなー? やってることは幹部っぽさあるけど~」
「どうだろ、スタンギルの言い方だとどっちとも取れるよーな取れないよーな……」
「可能性は高いのでは? ロウジアを自ら襲った魔王なんです、出発前の勇者にけしかける魔族へ幹部級を宛がうのは如何にもやりそうなことじゃないですか」
そう言われると確かに。てかそうか、四災将を選んでるのは魔王──アンちゃんなんだよな。あのアンちゃんが四天王にわざわざ「四災将」なんてネーミングをしたのかと思うとちょっと笑える。特別な呼び名が欲しくて四災将側が発案したのかもしれないけど、どっちみちそれをアンちゃんが許可してるってことだしね。
「ザリークが幹部級の魔族か否かはともかくとして、です。今回で幹部級の魔族がどれだけの脅威であるかはよく知れました。そしてあと三度、このレベルの敵を下さないことには魔王を倒せない。それも留意しておくべきでしょうね」
「ハルコみたいに、単独でかち合うのは非常に危険。せっかく私たちは数が五人いるんだから、五人の強みを活かしたい」
「それはそう、本当にそう。もうあんなのと一対一とか無理。マジで無理」
次こそ死ぬ。今回だってほとんど死んでたようなものだ。そうなったのは皆とはぐれちゃった私が悪いんだけどさ……いや悪いかなぁ? スタンギルが魔石の魔力で洞窟の形を変えて私を自分のとこまで呼び寄せたんだから(本当はご飯代わりのノールと間違えられたか巻き込まれたっぽいけど)、あれはもう不可抗力と言っていーんじゃないでしょーか。少なくともあのときの私に逃れる術はなかった。
その結果があれなわけだから、あの時点でもっと上手いことやれてればよかったな、とは思うけどさ。
「そういえば、よく私のところに来られたね? 道とか繋がってなかったでしょ?」
「コマレのおかげ。土属性の術で掘り進めていった」
「私だけじゃなく、ナゴミさんの力も借りてのことですけどね」
スタンギルが言っていた通り、四人は押し流されるみたいにして来た道をそのまま戻されて、しかも洞窟の入口を塞がれてしまったらしい。そこに私もいたなら一旦はエルフタウンに戻って対策を練ってから再挑戦、という案を取っただろうけど、そんな悠長は言ってられないってことで即突入。コマレちゃんが術で、ナゴミちゃんがパワーで即席の洞窟を伸ばしていって、シズキちゃんはショーちゃんを周囲に張り巡らせて安全確保。カザリちゃんは敵の出現に備えて常にフリーで攻撃態勢を整えていた。
なるほど、だから登場と同時にあれだけの魔弾をスタンギルにお見舞いすることができたんだな。そうでなければスタンギルが私にトドメを刺すのが間に合ってただろうと思うとヒヤッとする。
「最初はハルっちの魔力も感じられなくて、しばらく闇雲に下を目指して掘ってたんだけどね~。途中からぶわぁってすごい魔力が広がってぇ、それを目印にしたんだ~」
「途中から?」
スタンギルが操っていた魔石の魔力はそれはもうとんでもなくて、特に魔力砲とかで攻撃する際にはもはやその準備段階でさえ体が重くなるくらいのプレッシャーがあった。そんなものをばかすかと撃ちまくっていたんだから、そりゃ土壁越しだろうと離れていようと魔力を感じ取るのは当然だと思うけど……それをしばらくの間は感じなかったっていうのはどういうことだ?
私、スタンギルとはそこまで長々とお喋りしてないよな。ちょっとのやり取りはあったけど割とすぐ戦闘になって、んでもってスタンギルは最初からフルスロットル。魔石の魔力を遠慮なくぶつけてきた。タイミング的には皆が再突入を敢行するくらいのときだと思うんだけど、何故その時点では目印にならなかったんだろうか。
「おそらくスタンギルの工夫でしょう。あの空間の外部にまで魔力が伝わらないようにしていたんですよ。エルフタウンに攻め込む前に居場所がバレてしまわないよう、ハルコさんと戦う前からそういう細工を施していたのだと思われます」
「能力で場の魔力を全て支配できていたなら、そういう芸当も不思議ではない」
「な、なるほど……」
スタンギルはそんなこともしながら私と戦っていたのか。戦闘中にそういう感じはまったく見受けられなかったけど、けっこう神経を削りそうな工夫だよね。その証拠に、皆の話を聞くにたぶんスタンギルが奥の手──魔石の魔力を取り込むという禁忌の手段を取ったと同時に魔力の隠蔽も解けたっぽいし。
もしもスタンギルが隠蔽だとか任務の優先事項だとかを考えず、とにかく最初から私を仕留めることだけに全力だったなら……なんて。やっぱりそんなたらればに意味はないな。
スタンギルは戦いに散り、私はなんとか生きている。今はそれが全てだから。




