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66 真ん中の道

「どうしました? 先で何かありましたか」


 シズキちゃんの集中が途切れるだけの何かが先行したミニちゃんのどれか、あるいは全部に起きたのは間違いない。皆がそれなりの緊張を伴ってシズキちゃんの返事を待てば、けれど彼女も困惑しているようで。


「あ、あの、えっと……」

「落ち着いてシズキちゃん。ゆっくりでいいから」

「は、はい。その、右は行き止まりで、何もいません。左にはたぶん、ノールがいました。二体です。ミニちゃんを見つけて追ってきているので、もう少しでこっちに来ます……それで、真ん中は」

「真ん中は?」


「わ、わかりませんでした。しばらく進んで、穴があって、そこを長く落ちて……広いところに出たと、思うんですけど、それ以上は何も」

「何も、とはどういうことですか? ミニちゃんは今どういう状態になっているんです?」

「つ、通信がいきなり切れたので……やられた・・・・んだと思います……」


 ピリッ、と。場の緊張感が一気に増したのがわかった。


 私たちはショーちゃんの強さをよく知っている。柔らかくて硬くて、例えるなら生きた液体金属。自在に形を取って攻防をこなし、コマレちゃんの魔弾も楽々防げてしまう、チートとしか言いようのないシズキちゃんの異能力ユニーク


 その特性はミニちゃんにも受け継がれている。もちろん、ショーちゃん本体と比較すればその攻撃力や耐久性は劣るし、今回はあくまで偵察目的でしか分体を作っていないだろうから、余計にスペックは落ちていたかもしれない。


 けれど、だからとてだ。それでもミニちゃんにショーちゃん由来のしぶとさが備わっていたのは確かなので、そのミニちゃんが、操っているシズキちゃん本人にも何が起こったか把握しきれない速度で「やられた」というのがどれだけ私たちに衝撃を与える事実か。特につい先日、ミニちゃんの力でアンちゃん戦を生き延びた私からすれば尚更に信じられない思いだった。


「本命……つまりノールの本隊、狩りを行う戦闘担当の群れが真ん中の道の先にいる、ということなんでしょうか」

「だとしてもシズキの知覚よりも先に分体を倒せるとは思えない……もしも戦闘に秀でた個体がそこまでの強度なら、安易に攻め込むことはできない」


 むむ。確かにカザリちゃんの言う通り、ミニちゃんを速攻の一撃で粉砕できるような判断力とパワーを持つのが穴ノールの狩り担当なんだったら、そんなのが何体・何十体といるおそれのある巣穴の中心に向かうのは愚策もいいところだ。


 数体程度ならいい勝負になるだろうけど、こんな穴ぐらの中で囲まれでもしたらとても倒し切れないし、脱出もできない。私たちの旅はここで終わりになってしまう。


「う~ん。とにかくミニちゃんを追ってきているっていう二体と戦ってみる~? いざとなったら来た道を戻るってことにして」


 しゅっしゅっとシャドーしながらナゴミちゃんが言う。あら、前のめりだこと。だけどちゃんと後方への意識も持ってるみたいだからひとまずはそれでいいんじゃないかと私も思う。真ん中の先がどうなっているかは気になるけど、ノールの数を減らしておくのはやっとくべきことだろうしね。


「賛成! 迎え撃ちましょ、サクッとね」


 二体くらいならまあ、ノールが強くたって五人で戦えば危なげなく勝てるとは思う。その予想が果たして正しいのか、そして奥へ進む決断をしていいのかどうかを確かめよう。コマレちゃんとカザリちゃんも頷いた。


 フォーメーションを組む。術特化のコマレちゃんが後衛で、コマレちゃんよりも動けるカザリちゃんはその少し前で、近距離から中距離を行き来する私とシズキちゃんは更にその前、そして格闘特化のナゴミちゃんが前衛だ。1-2-1-1の形。考えてみるとワイバーン戦で私が離脱しちゃったこともあって今まで一度も五人で力を合わせて戦うっていう場面はなかったな。これが初だ。


 特に深く練り上げたわけでもなんでもない、それぞれの得意な距離を当て嵌めただけのフォーメーションだけど、前から来る敵に備えるなら割とベストなんじゃないだろうか? それを意思疎通に時間を割くことなく組めちゃうんだから私たちも息が合ってるね。


「来たよ~」


 ナゴミちゃんが構える。そして私にも聞こえてくる、生物の駆ける足音と息遣い。分かれ道の一角から滑るような挙動でシズキちゃんのミニちゃんが戻ってきて、その直後に獣の顔をした魔物が飛び出してきた。


 これがノール──の亜種、穴ノール! 実際に見てみるとこりゃぜんぜん獣人とは違うな。顔付きが野蛮というか、血に飢えた感じの凶暴さが滲み出ているし……何より目付きだ。明らかに人のそれじゃない眼差しが、確かな怒りと殺意を伴って私たちに向けられている。


 って、怒り? なんでまだ何もしてない内からこんな怒ってんの。あ、巣穴に勝手に入ったことがめちゃ許せんって感じか?


「グルルルルッ!」


 唸り声を上げながら、一体目のノールが手に持ったこん棒を振り下ろす。標的は一番近くにいたナゴミちゃん。彼女はそれを翳した左腕で難なく受け止め、お返しとばかりに蹴りを一閃。けれどノールの反応は素早くて、頭を下げつつ退くことでこれを躱した。


 強い! 今のやり取りだけでもそれがよくわかる。ナゴミちゃんの肉体のキレは半端じゃない。一度でも攻防が成立する時点でその敵は強者と言っていい。ゴブリン程度ならもちろんのこと、トロールだって一発粉砕してしまうパワーと、それに見劣りしないスピードがあるんだからそれに対抗できるのはそうそういない……はずなのに、ノールはなんとか食らいつけるくらいには実力があるわけだ。


 こんなのが徒党を組んでるとなったらそりゃ迂闊には手出しできないね。エルフの人たちが慎重に偵察を重ねていたのも、女神が私たちの試練に選んだのも納得だわ。


「こいつはウチがやるね~」


 ナゴミちゃんもノールがこれまでの道すがらに出会ってきた魔物とは水準が違うと感じているだろうに、まったく慌てず騒がずノールへ追撃を仕掛けに行く。それを受けて最後方のコマレちゃんが「サポートはコマレが!」と申し出てくれたので、続けて左の穴から飛び出してきた二体目のノールは中衛(?)の三人で迎撃することにする。


タマ発射バロ


 ノールの接近を許す前にカザリちゃんが闇の魔弾を撃つ。真っ直ぐ頭部を目掛けて放たれたそれは、しかしノールが横に転がったことで目標を見失い土壁に着弾。その一部を崩すだけに終わった。


 やっぱ反応がいい。そして、これだけ素早く動ける奴が相手となるとカザリちゃんからの支援攻撃にはあまり頼らないほうがいいともわかった。ここは三百六十度土石に囲まれた洞窟の中。ノールに当たるならいいけど今みたいに外れた場合、術の威力によっては崩壊が起きて生き埋めになりかねない。


 なるほどね、こういう閉所では魔術師タイプは断然不利になるんだな。ってことは、私とシズキちゃんの活躍の舞台だね。


「いいよカザリちゃん、任せといて!」


 足を止めずに向かってくるノールへ斬糸を一振り。足元へと打ち付けた糸は軽く跳び上がられることであっさり躱される。のを、誘ったのよねこっちは。


 反対の手から伸ばした糸はきっちりと躱した先を狙っている。狙い通り首に巻きついたそれを強く引く。そうすることで頭から地面に落ちさせる──。


「うっそ」


 つもりだったんだけど、ノールは両手を地面につくことで顔面での衝突を回避。そして立ち上がりながら爪を振るって私の糸を断ち切った! いや反応良すぎ、爪も切れ味良すぎ! 斬糸用ほどじゃないけどそれなりの硬度にはしたつもりだってのに、簡単に切ってくれちゃってこんにゃろう。


 なんて悔しがってる暇はなかった。ノールは恐ろしい瞬発力で明確に私を標的として迫ってきた!



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