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61 初代勇者みたいに

 私たちが、今回の魔王期だけでなく、魔族との戦争そのものを終わらせる……初代勇者が予言したっていう真の勇者だって? それを根拠としてルールスさんは新しいフェーズに入ったのだと言ったのか。


 まあ、私たちが本当に初代勇者が見越していた存在なんだとしたら、そうだろうね。魔王期のたびに元凶の魔王こそ倒せていても、復活まではどうしようもなくて、ずーっと平和と戦争が繰り返されてきているんだもん。そこから戦争のターンをなくせるのなら連合国の、引いては人類の転換点に他ならない。それは新しい歴史の始まりと言っても過言じゃないだろう。


「でもルールスさん、変じゃないですか。や、変っていうよりも理屈が合わないとうか」

「ふむ、ハルコ君。それは初代勇者が歴代最強と称されていることを受けての疑問かな」


 うわ、そのものずばりじゃん。私ってば見透かされてる? いやこれは、例の顔に出る出ない問題じゃなくルールスさんの頭がいいだけだな。そう思っておこうっと。


「まさにですよ、だって最強の勇者が最初の魔王を、魔王城っていう敵のホームで倒して、それでも壊せなかった……どうにもできなかったのが瘴気と復活の二点、ですよね。だったら仮に私たちが初代勇者と同じくらい強くなれたとしてもどうしようもなくないですか?」


 そりゃあ、いくら強かろうと個人だった初代勇者よりも五人もいる私たちのほうが総合的には上にもなれるかもしれないけど、魔王城をどうにかするには人数がいればいいっていう感じでもない。何かしら根本的な解決策が確立できないことには結局魔王城をどうこうすることはできないわけで。


 初代勇者が『者たち』と複数系で言ったから私たちが真の勇者だって説は、ちょっと弱い気がするんだよな。


「……今回は魔王もイレギュラーなわけですから、初代魔王の出現に合わせて初代勇者が呼びこまれたように、イレギュラーに合わせて女神さまが特殊な選び方をしただけ。とも、コマレには思えるんですが」

「ですが?」


 目線をテーブルへ向けながらぽつぽつと語り出した内容的にてっきりコマレちゃんも疑っている派なのかと思えば、そこで彼女は意を決したように顔を上げて、何故かルールスさんではなく私のほうを見た。な、なに?


「初代勇者が唯一魔境へ乗り込めた理由は、ハルコさんと似た体質だったからだとは考えられませんか」

「私の体質?」

「アレでしょ~? 他人の魔力を使っても体調を崩さない、便利だけどちょっとだけ怖いやつ~」


 これまで黙って話を聞くだけだったナゴミちゃんが、湯呑を手の中でくるくると回しながらそう言った。ああそれのことか、と納得しつつも「怖い」って部分に引っ掛かりも覚える。何か怖そうなことあったっけ? 私の記憶にはないけどな……この体質のおかげでアンちゃんとの遭遇戦もどうにかなったようなもんだし、むしろ感謝しかないくらいだよ。


「なんと。ハルコ君には他者の魔力への耐性があるのかね」

「あーっと、耐性って言っていいのかはよくわかんないですけど。でもこの通り他の子の魔力で動く純魔道具を身に着けてても、使ってみてもなんともないってのは確かですね」

「それはなんとも興味深い──魔力自体への耐性。そのような記述は残されていなかったが、初代勇者が同様の力を持っていたという線も薄くはないかもしれないな」

「じゃあっ!」


 声を張り上げたのは、シズキちゃんだった。滅多に大声を出さない、どころかそもそもあまり喋りたがらない彼女が急に、ほとんど叫びにも近い声を上げたものだから私たちはびっくりして固まってしまう。


 硬直した空気感の中で、急激にボリュームを落としながらもシズキちゃんは続けて言った。


「じゃあ、ハルコさんは……瘴気の中でも他の人と違って、平気かも……しれないんですか」

「……その可能性は、高いと言える。なんの支障もなく他者の魔力が込められた純魔道具を使いこなせるのなら、たとえ魔王の魔力が元となっている瘴気であってもハルコ君には害を及ばせない。理論上はそう見るのが自然だね」

「だとしたら……そうだとしたらハルコさんは、初代勇者みたいに……一人で魔境に行かなきゃいけないんですか? 魔王城を、どうにかしなきゃいけないんですか? ハルコさんだけが? そんなの……そんなのおかしいと、思います」


 わたしはハルコさんを一人にしたくありません、と。シズキちゃんはそう言ってくれた。


 音としては小さいけど確かな意思を感じさせるその声と、ルールスさんを真っ直ぐに見据える彼女の瞳に、なんだかジンと来てしまった。胸が熱くなる。


 そうかシズキちゃん、そこまで私のことを心配してくれるのか。まだ仮定の話でしかないっていうのに、ここまで強く意見を物申すなんて普段のシズキちゃんからは考えられないことで、だからこそその本気度が伝わってくる。


 いやー、我ながら愛されちゃってるね私。私はそれ以上にシズキちゃんを愛しているけどね!


「どうどう、シズキちゃん。気持ちは嬉しいけど落ち着いてよ」

「ハルコさん……」

「ぶっちゃけ私も一人で魔境攻めなんてする気ないしさ。いくらなんでも危なすぎでしょそんなの。コマレちゃんもルールスさんも、別にそれを強要しようとしてるわけじゃないよ。ですよね?」

「も、勿論です。コマレはただ初代勇者の予言との符合が気になっただけで」

「はっは、そうだね。せっかくの『五人の勇者』を一人にするつもりなんてぼくにもないとも」

「ほらね」


 安心させるために頭を撫でる。なんだかシズキちゃんを撫でるのが日課みたいになってきたな。一応は年上なのにあまりにも子ども扱いしちゃって悪いかな、と思わなくもないんだけど本人がすごく嬉しそうなんだよな~。妹も撫でると露骨に機嫌が良くなるし、私ってグルーミングの才能があるのかもしれない。将来はブリーダーもありだな。


「今は話し合いの場でしょ、とにかく色んな意見とかアイディアを出すのが大切なんだよ。真面目には聞かなきゃだけど全部を真に受ける必要なんてないんだよ、シズキちゃん」


 否定的にならないよう優しさを意識してそう語りかければ、シズキちゃん内のエンジンも停止してくれたようだ。不意に強さというか、いつもは隠れている硬さを見せてくるからシズキちゃんは面白いよね。ギャップも可愛らしい。


「ふむ、まさにその通り。先ほども言ったように君らを真の勇者に当て嵌めるのはあくまで推測であり、それも多分にぼくの願望──いやさ希望が含まれたものでもある。それを理解の上で今一度初代勇者の予言を思い浮かべてほしい」


 いつか私ではない誰か、真の勇者足り得る者たちが、必ず世界を救うだろう。


「自分は世界を救えなかった。そう言っているんだ、彼は。魔王の野望を止めた最初の勇者でありながら、間違いなく世界の救世主でありながら、だ。それだけ次なる魔王の出現を強く確信していたということでもあり、そしてしばらくは同じことが繰り返されるとわかっていたかのようでもある」


 つまり、と私たちの顔を一人一人見回しながらルールスさんは言う。


「真の勇者足り得る者は次やその次といった直近には現れない、と。魔王を最も追い詰めた男がそのように述べたからには相応の根拠があったはず。そうなると初代勇者は魔王に起こるイレギュラーすらも予見し、そしてその時にこそ真の決着が付けられるのだと知っていた──否、『知り得ていた』のではないか。正しくはここまでがぼくの予想だよ」


 ……うむむ。確たる証拠はなくても私たちと真の勇者を結び付ける材料はいくつかある、ってところか。で、もしもこの説が正しいのだとすれば、私たちはこれまでの勇者みたいにただ魔王を倒せばいいってわけじゃなくなると。


 これはちょっと話が難しくなってきたな。思ったよりも元の世界への帰還は遅くなるかもしれない。と、薄っすらとだけど私にもそう思え始めてきた。



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