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51 がっぽがっぽのうっはうは

「報告終わったよ~」

「お次は換金してくるっす!」

「あ、籠はウチが持つね」

「助かるっすナゴミさん! 代わりに交渉は自分にお任せっすよ!」

「お~、じゃあ頼りにしちゃうねぇ」


 きゃっきゃと楽しそうにナゴミちゃんとバーミンちゃんが戻ってきたと思えばすぐにまた行ってしまう。

 換金用のカウンターは……ああ、ロビーの奥にあるのか。通信機の位置は同じロビーでも二階部分なんだよね。あの大きな背負い籠、中身がぎっしりで相当重いからまた二階に行くんだったら手伝おうかと思ったけど、階段を使わないんだったら大丈夫か。


 まーナゴミちゃんのパワーだったら何階まで上がるにしたって私の助力なんて元々いらないだろうけどさ。


「しっかしいくらになるんだろうね、あの……あー、宝石蟹は」

「クランシュ、ですよハルコさん」

「そうそうそれね、クランシュね。一応はあれでも魔物なんだっけ?」

「人類の脅威にはならない、危険度の設定がない魔物らしいですけどね。草食動物とかと同じ扱いのようです」


 コマレちゃんの補足に頷く。クランシュとは私たちがブラックワイバーンの下へ向かう際に坑道内で見かけた、例の背中に宝石をたくわえたカニみたいな生物のことだ。

 で、その宝石には高値がつくっていうんだから脅威にならないどころか一攫千金をもたらしてくれるお友達と言ってもいい。一方的に人だけが得するよろしくない友人関係だけども。


「いくらになるかは、獲れたクランシュの質次第」

「そっか、村長さんもピンキリみたいに言ってたっけね。じゃあ運次第みたいなものかぁ」

「ですね。高値になるのは何十、何百の内の一匹二匹という話でしたから、あれだけの数がいても期待値としては低いかもしれません」

「何匹貰ったんだっけ?」

「全部で三十三匹と仰っていましたね」


 三十三……うーん、割合からするとスーパーレアがいてくれるかは微妙なとこだな。全部スカの可能性のほうが高い。でも、もしそうだったとしてもロウジアの人たちの気持ちが嬉しいよね。


 ワイバーン退治は女神によって試練に認定されていた、つまりは私たち勇者がやって当然のお仕事みたいなもので、その報酬は「ワイバーンとの戦闘経験」そのもの。別に村長さんたちが改めて別のお礼を用意する必要なんてないんだけど、ちゃんと感謝の印として言葉以外の物も考えていてくれたんだよね。


 それがクランシュだ。ワイバーンの足元の坑道へと通う危険を冒してまで一月も前から捕獲に努め、一匹見つけるだけでも大変なこの魔物を三十三匹も捕まえたのだ。

 いやー、頭が下がる。出発の際にこれを換金することで試練の旅の軍資金の足しにするなり息抜きに使うなりしてくれ、と息災の祈りと共に笑顔で籠を渡されたときにはもう、そりゃあ涙がちょちょ切れでしたよ。


 その誠意を喜んだのはもちろん皆も同じで、だから仮に運悪く全部が外れ個体だったとしても誰からも不満の声は上がらないだろう。とは思うものの、やっぱりできるだけ高価な査定をしてほしいとも思う。ルーキン王から渡された旅費だけじゃなく遠慮なしに使えるお金もあったほうがいいもの。


「換金も完了っす!」

「お! いくらになった?」


 話している間に再び二人が帰還。その顔付きは明るくて、めっちゃ安値で買い叩かれるようなことはなかったのがこの時点でわかる。なので期待を持って訊ねれば、ナゴミちゃんが受け取った紙幣を見せながら言った。


「えーっとねぇ、悪質いまいちなのが六匹。若干悪質そこそこが十匹。良質いいのが十五匹。最高品質すごくいいのが二匹。しめて二万リラなり~」

「二万リラ……二百万円!?」


 こっちの世界の通貨単位であるリラ。私たちの世界と基準を合わせるなら百円が一リラ──あくまでおおよそでしかないけど、まあ食事代とかから見る金銭感覚としてはこの換算がしっくりくる──ってことで、二万リラが二百万円相当の価値を持つのは間違いないはず。


 いやたっか! 高ければ高いほどいいとは思ってたけどここまでの値が付くとは。想像と桁がひとつ違うんですけど。


「ウチも額を聞いたときびっくりしちゃったよ~。あ、でもね、二万リラの内一万六千は最高品質の二匹のおかげみたい」

「えっ、じゃあ残りの三十一匹で四千リラ?」

「そうなるっすね。いまいちな個体に関してはサービスで買い取ってもらったも同然っす」


 ほーんなるほど、高品質なのが混ざっていたので本来なら買い取りから弾かれる品質のクランシュにも一応の値をつけてくれたのか。どんな安値でも突き返されるよりはありがたい。他に使い道とかもないしね。クランシュはカニみたいな見た目をしておきながら食べられもしないのだ。


「一匹で八千リラとはすごいですね。それだけクランシュの背負う宝石……正確には変質した甲殻でしたか。それに価値があるということですか」

「最高品質だと魔石にもなるっすからねー。特に練成職人や魔道具職人を抱えている魔術師ギルドなら垂涎モノっすよ」


 コマレちゃんは何の気なしに値段に対する感想を述べただけだっただろうに、バーミンちゃんの思わぬ返事にぎらりと目を光らせた。あ、スイッチが入った。いつものファンタジー発作だ。


「魔石になる、とはどういう意味でしょうかバーミンさん。魔石というのは特定の条件下でしか採れない特殊な鉱石なのではなかったのですか?」

「そ、そうっすよ? その条件の中のひとつにクランシュも含まれてるってことっす。他にも魔石の源になれる部位を持つ魔物はいるっすよ? マナガルムの牙とか、ホワイトワイバーンの額とか……大きな魔石になれる素材は得てして入手が超困難っすけどね!」


 クランシュだと最高品質の個体でも大きな魔石にはならないそうで。それでもけっこうな値段になるんだから、そのマナガルムだとかホワイトワイバーンの部位をゲットできたらどれだけ高く売れるんだろうか? 本当の一攫千金を狙うならそっちもありだね。


 けど、売却のために特定の一部を傷付けないように倒すのは普通に戦うよりもずっと難しそう……少なくともたぶん、火力ばかりに振り切っているうちのパーティじゃ無理だな。

 でも世の中にこれだけ魔石を用いた魔道具が溢れているからには魔石採取専門の仕事人だっているはず。そういう人を雇えればアドバイスを貰って私たちでも魔石素材をゲットしまくって、がっぽがっぽのうっはうはになれるんじゃ?


「ハルっち~? なーんかどうやって稼ごうかとか考えてない~?」

「うっ、どうしてそれを」

「顔見たらわかるよー。もう、ウチらの目的はお金儲けじゃないんだよ?」

「や、やだなぁナゴミさんたら。そんなことわかってますって」


 考えてみれば試練の旅中に案内人であるバーミンちゃん以外の同行者を増やすのはダメだよね。試練が試練でなくなっちゃう。なので魔石採りのプロを雇う案は実現不可能だ。


 だったら、高難度に拘らずクランシュ採取に力を入れる? いやそれもダメだな。ロウジアの人たちが複数人かつ一ヵ月がかりでようやく高値のクランシュが二匹。効率から言ってとてもがっぽり稼ぐ手段には向いていない。よっぽど運が良ければ別かもしれないが、運に頼る時点でこれも現実的な案とは言えない。

 つまり、現状で私たちが荒稼ぎできる方法はないってことになる。


 そう冷静に結論付けてうむうむと頷けば。


「やっぱりわかってなさそ~……」


 失敬な。そんなジト目で見るんじゃありませんよ。

 なんてやり取りをしている間にコマレちゃんの発作も落ち着いたようだった。


「では、用件も済んだことですし出ましょうか」

「っすね。王城からの指示については歩きながら話すっす!」



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