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50 なんでハルコは

「早期討伐を目標にするのであれば、ハルコさんが言っていたように今代の魔王が百日の猶予を待たずして動き出しているのはコマレたちにとってチャンスでもありますよね。不完全な状態で魔王がうろついているとなれば、討ち取るのにこれだけ適した機会も他にありません」


 ロウジア最寄りの街であるミモーネの魔術師ギルド支部。そこのロビーで私たちは、王都へロウジアであった出来事を報告しているバーミンちゃんとナゴミちゃんを待っているところだ。通信機は電話ボックスみたいな形になっていて基本、一人だけで使うものなんだよね。私たちみたいな女子でも二人入るとミチミチだ。


 なのでこうして別れて大人しく席について待っているってわけ。


「ただし、私たちも万全ではない。それにこんなに早く魔王が動き出している事例の対処法も、確立されていない」


 カザリちゃんの淡々とした指摘に、コマレちゃんも困ったようにして頷く。


「そうなんですよね、ネックはまさにそこなんです。通常なら一人のはずの勇者が五人もいて、魔族どころか魔王すら既に連合国へ侵入を果たしていて、しかも大陸魔法陣の秘密まで暴かれかけている。何もかも前例のないことで、タジアさんも仰っていたように今回の魔王期は何かがおかしいとしか思えません」


「これまで通りじゃないってことは、これまで通りじゃ勝てないってことでもあるのかな」

「おそらくは」

「だったらヤバめだよね、ノウハウがないんだから」


 魔王期が今までに何回あったかは知らないけど、その全部に勝ってきている経験というか、歴史に学ぶというか、とにかく「今まで通りに事を運べばまず大丈夫」っていう自信? そこが私たちの、っていうか人類側の強みだったはずなんだけど。

 

 どうにも今回はその例に当てはまらないっぽいぞってことで、こうして慌ててルーキン王に知らせを入れているところなのよ。とはいえ結局のところノウハウがないからにはこんな報告をされたってルーキン王もバロッサさんもどうすればいいのかなんてきっとわかんないよね。


「はい、正解はわかりません。というより、ないものとして行動するしかないでしょう。幸い短期決着を目指すために『何をすべきか』というその点に関しては、おぼろげながらに答えも見えていますから。方針に迷うことはありませんね」


「ああ、エルフタウンの長老さん……今回で三度目の魔王期経験者だっていうその人に詳しい話を聞きに行くんだったよね」

「そうです。三百歳越えのハーフエルフだというその方はまさに生き字引とのことです。魔王や魔族の生態、瘴気に関しての謎を教えてもらいましょう。知識は力、それを得ることがきっと魔王の討伐までを早めてくれると思います」


 だね、と私は同意する。


 もちろん純粋な強さっていう実力をつけることも大事だけど、それと同じくらい知識も絶対に大事。敵と戦うにもそいつの情報を持っているかいないかで倒す難度は激変するもんね。


 直近の例で言ってもブラックワイバーンが一匹じゃないと最初から知れていたら山から落っことされることだってなかったんだから。……でももしもそうなってたらロウジアがアンちゃんの手によって落とされていたのか。だったら私が落ちたのは結果オーライとしか言えん。むう、情報の大事さを示すにはあまり向かない例だったか。


 でもそこは別にしても、やっぱり敵を知ることは重要だ。それに間違いはないと断言できる。


「それがわかっているのに、なんでハルコは向こう見ずな行動を取るの?」


 またカザリちゃんの指摘が入る。けど、私は首を傾げるしかない。カザリちゃんの前で向こう見ずな行動を取った記憶がないんだもの。


「いや、何をきょとんとしてるんです? よくそんな『まったく身に覚えがありませんけど』みたいな顔ができますね」

「だってホントに覚えがないし……」

「女神にキックした。ザリークを倒そうとした。魔王にも一人で挑んだ。役満」

「や、役満? カザリちゃんそれ意味わかって言ってんの」

「そこはどうでもいいじゃないですか。要はそれだけハルコさんが率先して危険や未知へ突っ込んでいるってことですよ!」


 えー? まあ、よくわからん状況でもとにかくやったれっていうマインドはあるけども。それは先手を取ることや怯まないことが戦いの勝ち負けに直結すると理解しているからこそのやったれ精神なもんでねぇ。


 別に好き好んでヤバそうなのに喧嘩売ってる戦闘狂ってわけじゃないんだよ? あくまで必要に駆られてのやったれなのよ。それを考えなしの向こう見ず扱いされちゃたまらない。


「てか、女神の件はともかくアンちゃんとザリークに関しては向こうが吹っ掛けてきたんだからそりゃやるっきゃないでしょー。じゃなきゃやられたい放題じゃん」

「ええ、わかっています。ハルコさんがどういうときにそういう行動を取るのか」

「うん?」

「きっとまた、同じシチュエーションとなればハルコさんは同じことをするんでしょう。躊躇いなく危険へ飛び込む。誰かを守るためならあなたは死すらも恐れない……それがロウジアではよくわかりました」

「ううん?」


 あれ、気のせい? なんか思ったより重い話題になってきてないかこれ。


 戸惑っていると、左腕まで重くなった。隣を見てみると案の定、少し間を空けてソファに座っていたはずのシズキちゃんがすぐ横にいて、私の腕をひっしと掴んでいた。その顔付きは暗め。


 うわー、やっぱそうじゃん。こりゃあれだ、昨日私が「死んでた」発言で皆を引かせちゃったのがおもっきし尾を引いてんね。変に深刻にならないようにとなんでもないことみたいに言ったのがよっぽどマズかったみたいだ。


 そんなに自分の生死に無頓着そうに聞こえちゃったの……? や、ふつーに死にたくないよ? バリバリに生きたいっすよ私は。できれば百五十歳くらいまで。


「だーいじょうぶだってコマレちゃん! それにシズキちゃんも。しぶとさにかけては定評がある女だからね私は。魔王と戦って無事なんだからそこは信じてよ」

「しぶとさに定評を持たれるような人の言うことは真に受けられない」


 一刀両断だ。カザリちゃんきびしっ。何事にもクールな子だけど私に対しては五割り増しくらいでクールだよね。いっそ冷徹と言ってもいい。


 さめざめと涙を流すふりをしている私をシズキちゃんが頭を撫でて慰めてくれる。いつものお返しのつもりらしい、かわいい。その健気さに心を打たれていると、「あ」とコマレちゃんが声を上げた。


「どうかしたの?」

「いえ、溜まった・・・・のが感覚で伝わってきたものですから。どうぞハルコさん」


 そう言って手渡してきたのは魔蓄の指輪だった。受け取ってみれば溜まったの言葉通り、すっからかんになっていたはずの魔力がみっちみちになっているのがわかる。すごいな、濃すぎて重量まで上がってる気がするほどだ。


「え、早くない? まだ補充頼んで一日ちょいなのに」


 昨日の時点でパワー手袋と聴力イヤリングには補充してもらっていたんだけど、魔石型と違って魔材型……つまりアイテムそのものが魔力を溜め込む構造になっている純魔道具は所有者の魔力が「自然と馴染んで蓄積していく」のを待つしか補充の方法がない。魔石みたいに技術でぱぱっと済ませてしまえるものじゃないのだ。


 よって、純魔道具の元々の所有者であるコマレちゃんとカザリちゃんとナゴミちゃんに持っていてもらって、魔力が満タンになり次第また私が装備する。んでもってフルで溜まるには短くても二、三日はかかるはず……って話だったのに、何故にこんなに早いんでしょ?


「仮説ですが魔力量が関係しているのかと。自分で言うのもなんですが、コマレのそれは一般的な術者の常識に収まらない規格外のものですので……おそらくは純魔道具への魔力の浸透もそれだけ早いのだと思われます」


 そう言ったコマレちゃんはどこか自慢げでもあった。微笑ましいぞい。



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