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5 木組みのおしゃれなお家

 肩に回した腕はカザリちゃんに強引に引き剥がされて、「とにかく」と彼女は言った。


「これで全員、顔と名前は認知できた。行くなら行こう。コマレの言う通り、日が暮れる前に目途を立てたい」

「でも、困ったことにどちらへ行けばいいのか……大まかにすらもわからないのが現状です」


 コマレちゃんがコマってる。なんて軽口を言う気にもなれない雰囲気だった。


 確かに三百六十度、どこを見ても同じような風景だ。生い茂る木と草しかここにはないので、踏み出す一歩目をどこに向ければいいかの判断がつかない。


「そもそもウチら、まずどこを目指すの? 人のいるとこー?」

「まー人には会いたいよね。でもさ、サバイバルの常識から言うと一番は水場の確保じゃない? 人を探すっつってもすぐ見つかるとも限らないんだし」


 その点、水場があればそこを拠点に活動期間を伸ばすことができる。なんだっけな、水を飲まないと人間は三日くらいで死ぬとかなんとか? そういう話を聞いた覚えがある。

 三日後がゲームオーバーのタイムリミットにならないよう、まずは川とか池とかを探すべきじゃなかろうか。


「ですね、水場の発見を第一目標に設定しましょう。できれば魚が獲れるような場所ならなおいいんですが」

「そっか~。だったらあっちがいいかも」


 ナゴミちゃんがとある方向を指差してそう言った。

 その迷いのなさに私とコマレちゃんは思わず顔を見合わせた。


「あっち。って、なんでそう思うの?」

「向こうからねぇ、水っぽい匂いがする気がするんだ」

「水っぽい匂い……する?」

「いえ……」


 コマレちゃんだけでなく、カザリちゃんもシズキちゃんもそんな匂いは嗅ぎ取れていないようだ。私も頑張ってくんくんしてみるけどてんでダメ、緑豊かな青臭い香りはあってもそれ以外には何も匂わない。


「えへへ、ウチって昔から鼻がいいから」


 間違いないと思うよ~、とのほほんとした口調だけど自信に満ち溢れているナゴミちゃんを見て、私たちはならばと彼女の嗅覚を信じることにした。


 ま、もしも的外れだったとしてもどうせ正解なんてわかんないんだし……と木々の合間を進んでいくことしばらく、そこにはなんと池があった。


「ナゴミちゃんの鼻すごっ! あっさり見つかったじゃん」

「それほどでも~」


 移動した距離は短いけど、今にもモンスターが飛び出してくるんじゃないかと神経を張り詰めさせていたせいで歩いた以上に疲れた。さっそく水にありつこう、としたところで制止がかかった。


「待ってください。生水を口にするのは危ないですよ。濾過するか煮沸するかして綺麗な水にしないと……」

「あ、そうなんだっけ? でもなんの道具もないんじゃ濾過も煮沸も無理だよね」


 これじゃ飲めないじゃん! せっかく水場を見つけられたっていうのになんの意味もない。目の前に水があるのに飲めないと思うと余計に喉が渇いてくるし、踏んだり蹴ったりだ。


「……いえ、もしかしたら──」

「あそこ。見て」


 思い切った感じでコマレちゃんが何か言いかけたところを、カザリちゃんの言葉が遮った。あそこ? と皆で彼女が見ているほうを確かめてみれば。


「あれは。道、ですか!? それも獣道じゃない、明らかに人の手入れの入った……!」


 言われてみれば池のほとりの一部が、私たちがいるこことは様子が異なっている。草も刈られているし土も固められている、ように見える。それも、その整備が奥へと続いているのだ。


「えーっと、この池まで頻繁に行き来している人間がいるってことになる?」

「そうですそうです! あの道の先にこの世界の住人がいるに違いありません!」


 コマレちゃんが嬉しそうに言う。いやー、テンション上がってるとこ申し訳ないんだけど、一応は別の可能性も指摘しておこう。


「人間じゃなくて、道を整える知能があるモンスターってのも考えられるんじゃないの? それこそゴブリンとかさ、人型のやつならそれくらいできても不思議じゃなくない?」

「う……むむむ」


 あり得ることだと彼女も思ったんだろう、また難しい顔をして考え込むコマレちゃんだったが、それを見かねてかどうかカザリちゃんが口を開いた。


「行って確認する価値はある。人間にしろ、モンスターにしろ、何にも出会わないわけにはいかない」


 仰る通りだ。最悪も想定しつつ最高を信じる。今の私たちに求められているのはそういうマインドである。偉い人も言っていた。行けばわかるさと。


「おっしゃ。もうひと歩きしますか!」


 人の通る道ならそんなに長い距離を行かずとも人里ないしは住み家に辿り着けるだろう、ということで、休憩もそこそこに出発。

 本音を言うなら体の小さいシズキちゃんあたりのためにももう少し休みたかった気持ちもあるけど、まーあんまり時間をかけてもいられないしね。いざとなったらおぶってあげよう。


「どうですか、ナゴミさん」

「ん~……特徴的な匂いはしない、かなぁ」

「だったら、多少は期待してもいいかもですね」


 などと道を行きながらやり取りがあったので、コマレちゃんに「その心は?」と訊ねてみる。


「ここをモンスターが利用しているなら、道や水場の利便性を理解できる知能があったとしても最低限の痕跡は出ると思うんです。体臭だとか、獲物の血肉や腐臭だとか。水場を嗅ぎ取れるほどのナゴミさんがその臭気を感じないのであれば、道を利用しているのはそういった痕跡を残さないくらい……つまりは人間並みに高知能であると見做すことができます」

「それ即ち、この先にいるのが人である可能性を高めてるってことね」

「その通りです」


 逆に言えば、予想に反してモンスターだった場合はますますヤバいってことにもなるけど……そんなに怖がってばかりじゃどうしようもないしな。


 危険に対しては逃走一択。それができないようなら先制ハイキックでなんとかするしかない。

 女神みたいなインチキ技を相手が使ってこないことを祈っとこ。


「──家だ」


 先頭で足を止めたカザリちゃんの呟きに、私たちは返事も忘れてそこにあるものを一心に眺めて観察する。ログハウス。木組みのおしゃれなお家が開けた場所に建っていた。


「中に人、いるかなぁ。それとも、モンスターが住んでたりもするのかな」

「サイズ感や造りからしても人が造形したものにしか見えませんが、確かな保証とまでは言えませんね……」


 それに言い忘れていましたが、とコマレちゃんは言った。


「この世界の人間が、コマレたちの知る人間とはかけ離れた姿をしていることも考えられます。部位に特徴があったり、肌の色が赤や青だったり」

「え、そういうパターンもあんの」

「全然あります。異世界ですから」


 うーん、めんどっちぃ。よっぽど見かけが違ったりしたらモンスターなのか人なのか判別が付きづらいよね、それ。そのせいで先制ハイキックのタイミングを逃しちゃうかもしれない。


「とりあえず訪ねてみようよ。遠巻きに見てたって何もわかんないんだし」

「ですね」


 インターホンとかあるかしら、とログハウスに近づいて──あれ? 今、何かに触れたような気が。でも何もないな。気のせい? と思ったけど、横にいるカザリちゃんも同じ違和感を持ったみたいだ。


 私たちは互いを見やり、特に異変はないことを確認。後ろの三人はどうかと振り向いてみて。


「へ?」


 そこに四人・・いることに目を丸くさせた。


「っ!」

「おっと。動くんじゃないよ」


 カザリちゃんが何か行動を起こそうとしたが、それよりも相手の方が早かった。シズキちゃんを抱えて飛び退き、その首元に手をやる。脅し。こっちが動けばシズキちゃんが無事では済まないと脅迫しているのだ。


 それから老婆は言う。


「全員そのままの位置と体勢であたしの質問に答えてもらおう。聞かないってんなら……わかるね?」



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