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49 一日でも早く

 どうもみなさまごきげんよう。私です、ハルコです。


 思いがけない魔王アンちゃんとの会敵によってくぐりたくもない死線をくぐった翌日。いま私たちはロウジアを出発して最寄りの小街まで向かっているところです。


 ロウジアの人たち、特にミリアちゃんからはもう一日くらいゆっくり休んでからでも……と引き留められもしたけれど(自覚はなかったがそれだけアンちゃんと戦ったあとの私はげっそりしていたようだ)、先を急がなくてはいけないからと泣く泣く厚意は断った。


 何せ一般魔族ピーポーだけじゃなくそのトップ、魔王まで直々にこっちまで乗り込んできているんだから早いとこそれをルーキン王に知らせなくてはならない。王都にいる彼に連絡を取るには通信機が常備されている魔術師ギルドを訪ねるのが一番の近道だ。


 なので、私たちが試練の旅の道すがらに報告を行うのがベスト。そうコマレちゃんが理路整然と説明すれば村長さんたちもそれ以上は引き留められなかったようだ。ま、一大事が起きてるんだから仕方ないよね。


 私としては自分の体調なんかよりも働き盛りが軒並みアンちゃんにやられてしまったロウジアのほうがずっと気掛かりだったんだけど、さすがに普段から狩りでの食料調達や町の自衛を住民だけで賄っているだけあって皆さんタフで、大体の人がもう快調を目前にしていた。


 私も飲んだ秘伝の薬だというセンユもすごいのかもしれない。聞けば倒れた全員が無理矢理にでも飲まされたという話だったし、ド級の苦さに見合った効能がアレにはあるんだろうな。そう思わなきゃあんなのとても飲めやしない。いやホントに。


 とにかく、思ったより復活が早そうなのはいいことだ。アンちゃんにやられた中にはミリアちゃんのお父さん、つまりは村長さんの息子さんも含まれていて、それじゃあロウジアを守るゴーレムを作れるのが村長さんだけとなって大変なんじゃないかとコマレちゃんあたりが心配していた──なんでもあの規模のゴーレムだと生成にも操作や維持にもけっこうな労力がかかるらしい──けど、それも杞憂だとわかった。


 なんとミリアちゃんがお父さんの代わりになってゴーレムを操るんだと。


 ミリアちゃんは天才で、現時点でも村長さんやお父さんを凌駕するくらいの土属性魔術の使い手なんだってさ。幼いのを理由にまだちょっとした手伝いくらいしかさせていないけど、本当なら充分に「村長」を引き継げる実力がある。とかなんとか。


 大人しくて賢い子だとは思っていたけどそこまでの麒麟児だとはびっくりだ。本人はこんな風に褒めちぎられてちょっとほっぺを赤くしていたけどね。


 なので、不幸に見舞われたロウジアだけどみんな元気だし不幸の元凶であるアンちゃんも去ったことだし、もう大丈夫……と思いたいところなんだけど、そう楽観ばかりもできないよねぇ。


 や、私たちがいなくなった隙にアンちゃんが戻ってきてまたひどいことをするんじゃないかってカザリちゃんとかは疑っていたけども、実はそっち方面の心配を私はあんまりしていない。


 根拠があるわけじゃないけどそういうことにはならない気がするんだよね。引くと言ったら引くし、二番煎じみたいな真似はしない。アンちゃんは気質的にそんな感じがするのよ、やり合った印象としては。


 まあ言動からして気分屋っぽい雰囲気もすんごいあったから、ひょんなことでスタンスをあっさり曲げてもそれはそれでらしいかなと思わなくないんだけど、なんとなく。本当になんとなくでしかないが、ことロウジアに関してはもう何もしてこない。と、思う。


 ていうかあれだけ「遊んで」あげたんだから満足してくれなきゃ困るってものだし。


 だから私がまたロウジアを襲うんじゃないかって疑っているのはアンちゃんっていうよりも、ザリークとかだよね。あいつだったら魔王様のためにーとか言ってアンちゃんのやり残しを勝手に引き継いだりしそう。いらない使命感で。

 ……もしそうなったとしても、そのときはそのとき。住民だけで対応し、それで駄目なら腹を括るまでだと村長さんは言っていたけどさ。


 せめて王都に連絡を入れるまでは私たちの中の一人か二人が残って警備を担おうかって案も出たには出たんだけど、前述の通り村長さんはそれを断固として拒否。バーミンちゃんも案内人の意見として勇者一行がバラけるのは良くないと反対した。

 確かに一理ある。と全員が納得してしまったので今度は私たちのほうが何も言い返せず、こうして一同次の街を目指しているわけだ。


 ──大陸魔法陣の要であるロウジア。その解術には二パターンあって、ひとつはタウマネン家の総意によって彼らが楔の役目を放棄すること。もうひとつはタウマネン家の血筋が途絶えること。


 このどちらかが当てはまった場合に八カ所を結ぶ巨大な魔法陣に綻びが生じ、そのぶんだけ土地の守りが弱くなる。


 けれど、自分たちの意思でそれを受け入れるひとつ目とは違って、ふたつ目の一家断絶のパターンには「それが他者の手によって行われた場合」……つまり自然消滅ではなく、今回アンちゃんがやったみたいに魔族などの襲撃によって家族が一人残らず殺されてしまった場合には、逆に術が強まってロウジアという場所そのものが未来永劫の楔になる。という、魔族側かすれば罠以外の何物でもない仕込みがなされている。


 これは壮絶な覚悟の表れだ。大陸魔法陣を知られ、魔族がその解除のためにロウジアを全滅させるような暴挙に出たとしても、「それならそれでよし」と。楔を確固たるものにできるなら好都合ですらあると、タウマネン一家だけでなく住民たちが揃ってそう受け入れている。まだ幼い、ミリアちゃんさえも。


 別れ際になって私はそのことに気付いて、後ろ髪を引かれつつもロウジアを離れた。そのせいでちょっとブルーな気分になっているんだなぁ。と、改めて知ったことを整理してようやくもやもやの正体がわかったよ。


 ちょっと甘く考えてたかもしれないな。


 魔族との戦いで傷付く人も、死ぬ人も出る。

 それはわかっていたけど、わかっていなかった。

 実際に傷付けられた村長さんたちを見て初めて実感が湧いた。勇者だけじゃなく皆が命懸けだってことに。


 自分だったらいいんだけどね。危ない目に遭おうがちょっとくらい傷付こうが平気のへっちゃら。これまでだって何度も危険には遭遇してきたし、その度に体を張ってなんとかしてきたからそういう意識が根付いている。

 さすがに勇者になって魔王討伐なんてのはとんちきが過ぎてもいるけれど、まあいい。それをやらなきゃいけないってんならやりますとも。なんで私なんだって不満はあれどもだからって私以外の誰かに押し付けたいとかは思わない。これまで通り、体を張ってどうにかするだけ。


 だけ、なんだけど。魔族との戦いはどうしたって私以外も傷付く戦いで、そこは私にもどうしようもなくて。


 ロウジアの皆だけじゃない。バーミンちゃんやバロッサさんみたいな協力者に選ばれた人も、そうでない人も。もっと言えば同じ勇者であるコマレちゃんもカザリちゃんもナゴミちゃんもシズキちゃんも。誰が傷付いても私は嫌だ。そうなればきっと私は落ち込むし、もっともやもやする。


 はー、そうだったのか。私ってば自分はよくても自分以外が危険に直面するのは許せない人間だったのね。


 自分以外って言っても両親とか妹はまた別カウントなんだけどなぁ。いくら危ない目に遭ってようが気にならない。どうせなんとかしちゃうしさ。でも、他の人たちに対して私は良くも悪くもそこまで信頼は持てないかな……だから、何が言いたいかっていうと結局。


「一日でも早くアンちゃんと魔族たちを倒そうね、皆!」


 同じ気持ちでいたんだろう。私の言葉に、全員が力強く頷いてくれた。



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