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48 間違いなく魔王だよ

 タジア・タウマネン。ロウジアの現村長を務めている彼は、歴代の村長である彼の父や祖父や曾祖母などと同じく土属性魔術の名手。それと、深く輝く紫の瞳こそがタウマネン家の血統の象徴である。


 最初の村長ロウジア・タウマネンの末裔が村長を務め続けること。そして「土地の力」を借りて村(今では公的には町扱いだけど)を守り続けることで、村は楔となる。


 即ち連合国を、ひいては第三大陸への瘴気の蔓延を防ぐ大陸魔法陣。それを維持するために八つの要点の内のひとつとして機能するのだ──と、村長さんは語った。


「複数人で行使する魔術を大魔術。そして人以外のモノの力を借りて行使する魔術を魔法と呼ぶのでしたよね」

「そうですな。術者の集合的無意識を活用する魔法陣が魔術陣と呼ばれないのはそのためです」

「だから人間の魔術と、精霊の力を行使するエルフの魔術は別物だと区別されているんですね」

「ええ、エルフにはエルフの定義があるのでしょうが、わしらからすればエルフの魔術は魔法に近しいものですから。大陸魔法陣に関して言えば国土を用いた通式に加えて地脈の流れを利用することで──」


 ぐわぁ、魔術談義。これが始まると困るんだよねぇ。眠くなっちゃってしょうがない。ほら私、理論より感覚派だからさ。座って講義受けるより実際に体で覚えたいタイプなのよ。

 まーそっちの覚えも皆に比べたらてんで悪いんすけど。


 とにかく魔法やら大魔術やらの定義云々の詳しい話はコマレちゃんとかに任せておいて、私が理解しておくべきなのはつまり、ロウジアが連合国の防衛においてかなりの重要地点だということ。

 そしてロウジアと同じく、エルフタウンやドワーフタウン、魔術師ギルドと魔闘士ギルドの本部といった私たちが本来なら儀の巡礼で回るはずだった街、それからその出発点である王都もまた八つの要点に含まれているってこと。


 これらがもしも魔族に落とされ・・・・でもしたら連合国はかなりヤバいっていう、その事実を頭に入れておきさえすればいいだろう。おそらく。


「どういった手法によるものかはわかりかねるものの、魔王には瘴気を蔓延らせる力があるのでしょう。そしてこれまでの魔王は、魔境の外にてその力が用をなさないのを女神の加護によるものと捉えていたのだと思われます。実際に、それも正しい。勇者とは女神の加護の印にして象徴でもある。勇者がいる、それだけで第三大陸全体に加護がかかっているのです」


「なるほど。象徴たる勇者さえ倒せたならば、女神の加護も弱まり、第三大陸に思うがまま瘴気を撒き散らせる。過去の魔王たちはそのために勇者打倒に躍起になっていたということですね」


 コマレちゃんの言葉に村長さんは首肯し。


「ですが、万が一にも勇者様が魔王に後れをとるようなことがあったとしても……例えば連合国を諦め、第一大陸や第二大陸まで退いたとしても、直ちにこの地が瘴気に飲み込まれるかと言えばそうはならない。何故ならばそういった事態の備えとして設けられたのがまさに大陸魔法陣。かつての勇者様が提案なされたという、女神様の加護だけに頼らない我らが自衛の知恵なのです」


 ふんふむ。瘴気の蔓延はイコールで人にとって……いや魔族以外の全てにとってその土地での活動が著しく制限される、超異常事態。弱ってる人だと即死もあり得るかもしれない。勇者が苦しい戦いを強いられて撤退を選んだからって即行でそんなことになってしまっては大変だ。


 人々を少しでも長らえさせるためにも、そして魔族が第一大陸・第二大陸にまで攻め入ってくるまでの時間を少しでも稼ぐためにも、確かに女神の加護とは別口の方策を用意しておくのはとても大事なことに思える。


 それを提案したといういつかの時代の勇者さんったら、先見の明があること。尊敬しちゃう。


「それがロウジアの、魔族には決して知られるわけにはいかない秘密……だとしたら何故アンラマリーゼはこの地に来たのか」

 

 ぼそりと呟かれたカザリちゃんの言葉。誰とも視線を合わせずに発されたそれはまるで独り言のようだったけど、その疑問は確かに村長さんへと向けられていた。


「わ──わかりません。まったくわからんのです、いったい何を嗅ぎ付けて魔王がロウジアへやってきたのか。奴は問いました、どうすれば守護の術はその効力を失うのかと。わしも、村の者たちも誰も秘密は守り通しましたが……しかし」

「ここに来てそんな質問をしている時点で、大陸魔法陣の大方は把握されている。ということですね」

「まさに」


 深刻に村長さんは頷く。


 魔王が幾度となく敗北して煮え湯を飲まされてきた、勇者。恨み骨髄の天敵を倒す、それだけを目指して魔族を動かすのがこれまでの魔王のすることだったけど、今回の魔王はそうじゃない……あまつさえ百日の猶予が過ぎるのを待たずして自ら連合国に乗り込んでまでくるほどの前のめり具合だ。


 前例のない、ないない尽くし。村長さんが劇画タッチな顔付きになるのも当然の事態だ。


「奴の言動は伝え聞く魔王の噂通り、自信家で傲慢そのもの。深く考えることをしないようでした……が、決して何も考えていないわけではない。死者が出なかったのもおそらくは解術のためにロウジアの民を使う・・場合を懸念してのことでしょう。そういった思慮深さもまた、過去の魔王にはなかったものと思われます」


 最終的には見せしめのつもりか村長さんを手にかけようとしていたアンちゃんだけど、彼女が何も考えずに暴れていたら何人も何十人も亡くなっていたことだろう。そうじゃないってことはつまり、そうならないようにアンちゃんが意図的に力をセーブしていたってことだ。


 そのおかげで全員が助かったのは喜ばしい、けれど、魔王のこの「自制の利き方」は今後の戦いにおいて大きなネックになる。それを村長さんは憂いていた。


「えーっとぉ、村長さん? ウチらはハルっち以外そのアンちゃんって子を見てないからなんとも言えないんだけど~……その子が本当に魔王っていう保証はある? 二人を疑ってるってわけじゃないんだけど、実は魔王を騙ってるだけの魔族だったって考えたほうが色々としっくりくるのかな~、って思ったりして」


 確かに、ザリークの一件もある。そんなに前代未聞のことばかり起こっていると考えるよりも、アンちゃんの正体が実は魔王と名乗ってるだけの一般魔族(?)だったとするほうが色んな辻褄が合う。合いはするんだけども。


 村長さんと目が合った。そして互いに同じ答えだと確信し、私が代表して口を開いた。


「間違いなく魔王だよ、あの子は。あの気配、あの魔力、あの笑い方。実際に見たら皆もわかってくれると思う」

「……そっか~」


 私の気持ちが伝わったらしく、ナゴミちゃんは少し考えながらも納得してくれたようだった。その代わりにコマレちゃんが軽く手を上げながら。


「あの、アンラマリーゼの外見的な特徴を教えてもらえますか? またいつどこで遭遇するか知れませんので、情報を共有しておきたいのです」

「そうだね。えーっと、特徴か。アンちゃんは……アンちゃんの特徴は──あれ?」


 んん、どうしたことだ。なんも思い出せないぞ。顔立ちも目の色髪の色も、どんな服装だったかさえも靄がかったみたいに頭に浮かんでこない。はっきりと覚えているのは笑い声くらいのもの。


 聞けば村長さんやミリアちゃんも同じなようで、たぶんロウジアの誰に訊いてもアンちゃん容姿を覚えている人はいないだろう。そういう結論になった。


「認識阻害。ハルコにもかけられていたと見て間違いない」

「あ、あんにゃろうマジか。そんなつまらない真似はしないとか言っといてしっかりと……!」


 そりゃ戦闘そのものには何も影響してないけども。でもなんかこう、ズルいでしょこれは。向こうだけ私の容姿をばっちし覚えてるって最悪なんだが?


 次に会ったら泣かすだけじゃなく、嘘つきだってことも糾弾しないとな。



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