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36 お手軽パワーアップ

「議題を掲げます。テーマは『ハルコさんの安全の保障について』です!」


 魔物祭りの日から小街をひとつ過ぎて翌日。


 次の宿場までの道程から逆算し、今日はキャンプで一晩を明かすことになった。それに適した場所もバーミンちゃんはちゃんと把握していて、私たちは王都で調達した魔道具の楽々キャンプセットでテントをふたつ立てて火起こしをして食事を済ませて──で、唐突にコマレちゃんがとんちきな宣言をしたのだ。


「どしたのいきなり」

「いきなりではありません、カザリさんと話し合ったんです。このままではハルコさんが危ないと」

「危ないって……まあ、反論はできないけども」


 ゴブリン一体に苦戦する姿を昨日見られちゃってるからなー。

 ゴブリンにしては体格のいい、武器まで持っている個体だったとはいえ、コマレちゃんなら魔力の弾丸一発で倒せたのには変わりない。と思う。いや、あの威力からすると確実だね。


 てなわけで議題に異を唱えることは許されなかった。一応私が当事者なんだけどな。


「自分の専門は逃げることなんで戦いは専門外っすけど。そんな自分から見てもハルコさんは確かに、他の皆さんとはちょっと……なんていうかその、毛色が違うっていうか。とにかくそういう風に感じたっすよ」


 うぐぅ、バーミンちゃんが必死に言葉を選んでるのがますます辛い。

 彼女の言葉に「ですよね」とコマレちゃんは勢いづいて。


「とにかく対策を施す必要があります。ハルコさん以外は現状、戦闘において目につく不足がありません。少なくとも脅威度が低く設定されている魔物相手なら労せず倒すことができます。流石に、目的のワイバーン。試練に据えられているほどの強敵との戦いでは苦戦も強いられるかもしれませんが、ハルコさんに関してはそもそもワイバーンとの戦闘に参加させていいのか疑問です」


 はきはきとした口調でずばずば言ってくれるねぇ、コマレちゃん。こういうとこ、彼女の長所だよね。嫌いじゃないよ私。

 とはいえ、だ。


「そうは言ってもどうするのって話じゃん? 毎日糸繰りとか魔力操作の基礎錬は怠ってないよ。んで、強くなるためにやれることってそれくらいでしょ」


 魔物との戦闘もまあ、いい修行と言えばそうなんだけども。

 どっちにしろ地道な鍛錬以外にレベルアップの方法はないわけだ。

 一足飛び、二足飛びでぐぐんと強くなれる手段があってくれたらとは思うけど、そんなのがあるなら誰も苦労なんてしない。


「手詰まりじゃね?」

「いえ、それがそうでもないかもしれないんです」

「およ?」


 そりゃまたいったいどういうこったろう。意図が読めず首を傾げていると、コマレちゃんとカザリちゃんはアイコンタクト。頷いたカザリちゃんが懐からバングル──トーリスさんからプレゼントされた例の純魔道具を取り出して言った。


「試してみたいことがある」

「試すって?」

「これを使ってみて」


 えっ。つい差し出されるままに受け取ったけど、すぐに腕に通せはしない。だってさぁ。


「いや、他人の魔力は毒みたいなものなんだよね? これってカザリちゃんの魔力がバリバリ注入されてるよね」

「されてる」

「じゃあマズいじゃん、使っちゃったら。それでどうなるのかは知らないけど」


 まさか爆発したりする? してもおかしくはないよね。そんな危険行為をやれだなんてカザリちゃん……私なんか怒らせるようなことしちゃった?


「ハルコが授かった祝福に目を付けた」

「ハルっちが女神さまから貰った祝福って……『健康で丈夫な体』?」

「そう。ハルコは魔族ザリークの攻撃を受けても無傷だった。これは祝福で宿った才能が関係している可能性が、高い。コマレとそういう結論になった」


 火事場の馬鹿力よろしくあの時だけ魔力防御が抜群だったとしても、ザリークが見せた魔力と私が防御に使える魔力とではあまりにも差がある。「偶然うまくいった」で済ませられるものではなく、だったら無傷の原因は女神の祝福以外に考えられない。

 というのが、コマレちゃんと共に出したというカザリちゃんの結論。


「とにかく文字通りにハルコは『健康で丈夫』なのかもしれない。術者の才能とはまた別に、体が頑丈。だとしたら他者の魔力が毒になるというこの世界の常識も、ハルコには通じない可能性がある……それも低くはない」


 え、え~? そうでござるかぁ? なんだか発想が飛躍しているような気がしないでもないんだけど。


 でもカザリちゃんもコマレちゃんもすこぶる真剣だし、話を聞いたナゴミちゃんやシズキちゃんも確かにって感じの顔してる。

 つまりそれだけゴブリンとの戦いぶりが不甲斐なかったってことだよねこれ。あんな体たらくでザリークの攻撃を無傷で防げるわけがないって確信させちゃったわけだ。泣けるぜ。


「いいんじゃないっすか、ハルコさん。ちょっとやってみるくらい。マズいと思ったらすぐに使用をやめればいいんすよ、それなら大した害にもならないっす」


 人様の魔力が毒だと言っても、それで即死みたいな深刻なことにはならないらしい。ましてや爆発なんてしないとのことだったので、私も覚悟を決めた。


「もしもコマレたちの魔力が込められた純魔道具を装備できるなら……それこそ飛躍的なレベルアップになります。頑張ってください、ハルコさん」


 なんてバングルを嵌めようとする私にコマレちゃんが言うけど、頑張るったってただ魔道具を使うだけなんだけどね。そこに私の努力が入り込む余地はあるんだろーか? おそらくない。全ては女神がどんな祝福を授けたか、それ次第。


 でも何もかもが女神の一存だなんて思うのも癪なので、気合を入れて挑むとしようか。


「うん、サイズは問題なし……」


 左手にはアステリアさんの指輪があるので、カザリちゃんのバングル……確か攻魔の腕輪だっけ? はバランス的に右手首に装備してみる。指ぬき型だし、手首部分もそんなに長くないのでパワー手袋は指輪やバングルの邪魔にはなっていない。ちゃんと共存できている。トーリスさんの調整に感謝だね。


 まあ、元からすんごいペラペラの革だから指と手首が覆われていたって問題はなかったかもだけど。


「じゃあやってみる。これも念じるだけで起動するタイプなんだよね?」

「そう」

「よーし」


 手袋はパワーを上げてくれるが、このバングルは私の代わりに攻撃してくれる代物。皆のいる方向に向けたら危ないので何もないところを狙って……えいや!


「うぉわ!?」


 ドっ、と衝撃。黒っぽいオーラでバングルが光ったかと思えば、私の掲げた手の先から闇の奔流が溢れ出した。ずっと先にある木々を薙ぎ倒していくそれを私は慌てて抑えつける。


「こ、これ、想像以上に強烈だね!?」


 平野から森にかけて一直線に刻まれた轍のような破壊痕にゾッとさせられる。

 こんなのバングルひとつで放てていいものじゃないでしょ。


「それが全開・・。ハルコが加減を意識しないからそうなった。それだと十秒と魔力が持たずにすぐ空になる」

「あ、なるほど……小出しにして使わないとってことか」


 そこは純魔道具でも魔石型と同じなのな。手袋だってパワーが必要な一瞬だけ起動させるのが長持ちのコツで、そうでないとすぐガス欠になるわけで。

 や、それにしたってこのバングルは半端ないと思うけどね。一流のアイテムにカザリちゃんの魔力が込められていることでとんでもない兵器に仕上がっちゃってるよ。


「それはともかくハルコさん。何か不調はありますか?」

「え、不調? ……ぜんぜんないっす」


 何事もなく、いつも通りの絶好調。

 それはつまり、私には「他者の魔力を用いたお手軽パワーアップ」が許されるという証拠に他ならなかった。



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