表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/210

35 ちくしょうめ!

 ゴブリンを倒してしばらく、スライムを見かけた。こちらに敵意はないようだったけど通り道を塞いでいるので先手必勝。ナゴミちゃんがそこら辺の石をぶん投げて撃破。スライムが持つというコアの部分を壊せたらしい。

 偶然ではなく、ナゴミちゃんには離れたスライムのちっちゃなコアがちゃんと見えていたようで、私は「おー」と拍手した。


 お次はバーゲストという犬っぽい見た目の魔物が三頭出現。こっちは明らかに私たちへの敵意を持っている。ということでこちらからはシズキちゃんが出陣。と言っても彼女自身は馬車から降りることもなくショーちゃんを呼んで。


「おねがい、ショーちゃん」

「ぎぎぃ!」


 しゃ、喋ったー!? いや、鳴いたって言うべき? どっちにしたっていつの間にショーちゃんは音声を獲得したんだ? 今までシズキちゃん以上の無口キャラだったのに。


 シズキちゃんによるとショーちゃんは自発的に発声できるようになったんじゃなく、硬質化させた体の一部を擦り合わせることで音を出しているんだとか。リアクションがないと寂しいので命令を受諾した合図として設定した、とたどたどしい口調で説明される間にショーちゃんのぶん回した大鉈にバーゲストはまとめて首をぶった切られて全滅。わーお、すごーい。


 いやぁ、シズキちゃんも強くなったもんだね。このおどおどした子が会話してるついでに魔物を仕留めてるかと思うともう情緒が追いつかないよ。

 ってか、シズキちゃんだけじゃなくみんな強過ぎでしょ。道中なんの苦もありゃしない。や、それ自体はいいことなんだけどね?


「いやーホントにお強いっすね! いくら大した魔物じゃないって言ってもこんなさっくりとは倒せないっすよ。やっぱり勇者ってすごいもんなんすねえ」


 バーミンちゃんは勇者の実力を生で見られたのが嬉しいようで、上機嫌だ。


 馬の安全に神経を尖らせなくていいっていうのも大きいのかもしれない。どこから魔物が来たってバーミンちゃんの耳で捕捉、からの即撃退ができているからね。御者としてこれほど安心できることもないだろう。


「残すはハルコさんの出番だけっすね。こうなるとなんでもいいから魔物に出てきてほしいくらいっすよ」


 そうだよね、順番的には次に魔物が出たら私が撃退する番だよね。そしてバーミンちゃんとしてはどうせなら全員の活躍が見たいよねぇ……こら参ったな。皆がハードルを爆上げしちゃってるせいで気が進まないにも程があるんですけど。


 頼むから次の街につくまで魔物は出てこないでくれ……!


「お、噂をすればっすね! またゴブリン、今度は一体だけみたいっす!」

「ちくしょうめ!」


 祈り通じす。むしろあんちくしょうの女神が聞き届けてわざと魔物を呼んだのかってくらいのいい(悪い)タイミングで茂みからゴブリンが飛び出してきた。

 そいつはコマレちゃんとカザリちゃんが倒した最初の二体よりも緑色が濃くて、ちょっと体格が大きく見える。それに──。


「デカめのゴブリンっすね。しかも武器持ちっす」


 そうなのだ。左手に短剣を握っている。どっかから拾ってきたものなのか錆びててボロボロだけど、それだけにアレで切られたらめっちゃヤバそう。破傷風とか洒落にならない。


 魔力を扱える人間はそういうのにも強いとバロッサさんから聞いてはいるけれど、それだってコンディション次第だと思うし……はーやれやれ。


「よっと」

「やるんですか、ハルコさん」

「やるよ、やりますとも。私だけなんもしないのもね」


 心配そうにしているコマレちゃんへ苦笑いを返しておく。その隣ではシズキちゃんが見るからにハラハラしているし、ナゴミちゃんも「危なかったら代わるからね~」なんて声をかけてくる。

 そーだよね、不安だよね皆も。私のショボさを知ってるんだもんね。


 唯一、カザリちゃんだけはいつもと変わらない無表情で馬車を降りた私を見送る。今はそのクールさがむしろありがたいよ。


「ケケッ!」

「うわ、来た」


 のこのこと獲物がやってきたとでも思ったのか、足を速めてこっちに向かってくるゴブリン。へ、とりあえず拾った石を投げつけてみる。ナゴミちゃんの真似をして勢いよく投げたつもりだけど、私の強化率じゃ土台真似なんてできっこないようだ。ゴブリンは短剣を振るってあっさり石を弾いてしまった。


「むう。だったら──」


 次の石を拾い、振り被りつつ念じる。手袋の効力をオン。そうして投げつける一瞬だけ私のパワーを引き上げてもらう。


「えいやっ!」


 うぉっ、自分でも驚くくらいに飛んだ! 手袋の効果は覿面で、さっきの倍くらいの速度を出して迫った投石にゴブリンの反応は間に合わなかった。鼻っ柱にガツンと食らって悶絶している。人間と同じで鼻が急所でもあるのかな?


「って、痛がるだけかい」


 気持ちとしてはスライムのコアをぶち抜いたナゴミちゃんみたいにこの一発で仕留めるくらいの気迫で投げたんだけどなぁ。


 全力の身体強化+手袋パワーでようやくゴブリン(デカめ)に牽制として通用するレベルか……いやとんでもないな。明らかに他の四人とは次元が違う。もちろん、低い方向にね。


「ゲケェ!」


 痛みに怒ったのか短剣を振り上げながらゴブリンが駆けてくる。言ったようにその刃では掠り傷でも付けられたくない。よって近寄らせたくない私としてはどうにしかしてゴブリンの足を止めなきゃなんだけど。


「こんな感じで、どうだ!」


 糸繰り。右手の五指から伸ばした糸で、ゴブリンとの間にある横合いの木の幹を経由させて短剣が握られている手を縛る。

 よしよし、上手くいった。操作はイメージ通り。アステリアさんの指輪が助けてくれたな……これなしじゃこんな素早く正確な糸繰りは無理だった。実戦ってことで精神状態もいつも通りとは言えないからね。


「ゲェッ!?」


 ゴブリンは困惑しながらも腕を持っていかれないように抵抗している。その隙を狙って左手からも糸を伸ばし、今度は手ではなく首を縛り付ける。


「ゲ、ゲェ……ッ」

「悪いけど、このまま終わらせるよ!」


 両手の糸を縮めながら強く引く。ゴブリンの右手と首に繋がっているそれらはとんでもない激痛を与えている──はずだけど、思ったよりもゴブリンのパワーも強いしタフだ。もうちょっとで引き切れそうなのに引き切れない。


「ああもうっ。もういっちょ手袋パワー!」


 仕方ないので再度手袋に助けてもらう。効力をオンにした途端ぐっと抵抗が軽くなったのでそのまま糸を引けば、べきっと。太めの枝でも折れたような音が鳴ってゴブリンの首があらぬ方向へと曲がった。そして全身から力が抜けてぐったりとする。


「たお……した?」


 しばらく拘束を緩めなかった私だけど、糸越しにもゴブリンの動きはまったく感じられない。ので、糸も手袋も解除。

 糸はただ消すだけじゃなく回収して魔力を取り戻すのも忘れない。この辺はバロッサさんとの修行で身に染みており、考えるまでもなく実行できるようになっている。


 念のため倒れているゴブリンの傍へ寄ってみて観察。……うん、呼吸してない。死亡確認。私の勝ち! やったぜ。


 それを知らせるピースサインを見せながら馬車に戻れば。


「なんか……ハルコさんだけ危なっかしいというかなんというか。もしかして戦闘担当じゃなかったりするんすか?」

「ぐはっ」


 いの一番に繰り出されたなんの悪意も揶揄もない純粋な質問に、だからこそ私の心は傷付けられたのだった。


 えぇえぇ、強さ的に戦闘担当にはなれませんよあたしゃあね。だからって他に担当できる何かがあるわけでもねーでやんすけどね!

 初めての魔物との戦いは無事に白星で終わったが、どうにも先が思いやられまくる私だった。ちゃんちゃん。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ