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347 試練足り得ず

 女神のレクチャーはメチャクチャだった。何か恨みでもあんのォ!? って絶叫したくなった。それも何回も、何十回もだ。


 初めはまだよかった。チャプター1と称されてお出しされたのは、先にやった女神の指先にある小さな神力に気付けるかor見えるかの例のテスト。それをちょっと発展させたようなものだった。女神の指先ではなく、自分の身体。そのどこかに女神が神力を作用させて──でいいのだろうか? 細かい理屈はわからない──こちらの神力を暴走・・へと誘導するので、それが酷くなる前に自力で抑え込む、というのが内容だ。


 女神じゃなくて私たちの体内で起こること。それも暴走が本格的に始まるまでにタイムラグもあるとなったら、一応は戦闘訓練で兆しを手にして灰への一歩を踏み出している私たちにはそこまで難しいことじゃなさそうだ。それになんと言ってもいくつかあるらしいチャプターの最初なんだし? サクッと終わるでしょ。……なんて軽めに考えてしまった私は大馬鹿だった。とんでもない大間抜けだった。


 女神がそんな常識的な考えに則って行動するはずもなかったのだ。女神が引き起こす神力の暴走は抑え込むのが遅れれば味わったことのないような激痛を生んだし、激痛に至るまでのタイムラグも異様に短かった。正味一秒あるかないかだ。私たちは女神がランダムで発生させる暴走点を的確に感知し、そしてコンマ秒で神力の制御を行わなくてはならない──説明の段階では難しそうに思えなかったチャプター1をクリアするための実際のハードルの高さを理解したときはもう、絶望しかなかったね。こんなん無理じゃんって。


 まず感知の部分は、私はどうにかなった。女神がそう言っているように五人の中で一番神力に馴染んでいるのは私だ。なので先の指先の光と同質・同量の神力をまず起点にしていると思しきこのチャプター1においても、私は暴走しようとしている箇所がそれよりも先にわかった。……のはいいが、そこからはどうにもならない。なんせ暴走まで時間がない。なさ過ぎる。私だってどうにか感じ取れるってだけで神力の起こりにそこまで鋭敏だってわけでもないのだ。あ、そこだ、なんて自覚した瞬間にはもう暴走に入っている。そういう感覚だった。


 皆に関しても、やっぱり感知には個人差があるようだった。そのバラつきは案の定というか例の結果が踏襲されたもので、暴走が起きようとする寸前でその高まりというか圧をカザリちゃんとコマレちゃんは感じているようで、ナゴミちゃんとシズキちゃんは完全に暴走が始まってからじゃないと神力の胎動を察知できていないようだった。私が知覚に先んじているのはやはり間違いない。が、言ったように私の感覚からしても知覚と暴走はほぼ同時。皆との差なんてあってないようなものだった。コンマ秒をさらに区切って前後しているだけなんだからね。


 それもこれも時間的猶予があまりにも短いせいだ。これじゃ誰も成功なんてするはずもない。幾度となく激痛に揉まれてしかも休ませてもくれないものだから、私たちは一致団結の怒りさえ覚えて横暴だと強く主張したけれど、女神はどこ吹く風。


「わたしくは言いましたよ。苦や労なくして試練足り得ず、と。あなた方が達成困難だとそう感じているのなら尚の事に、意義があるということ。灰となり神格を有するのならばその完成には様々な困難の突破があります。なくてはならない。なくてはなれないのですよ。灰らしい灰と成り上がるために最初に越えねばならない壁……よもやここで挫ける者などあなた方の中にはおりませんでしょう?」


 困難でないことに挑んだって意味はない。成長こそを目的にしているならそれはその通り、なんだけど、それにしたって困難が過ぎないかという話をこっちはしているんだけどな。でもそんな「灰らしくない訴え」を聞き入れる気なんて髪の毛先ほどもないようだった。女神はそういう奴だ。そういう奴が直に課してくる試練なんだからこれだけ辛くて苦しいのも道理と言えば道理だった。物言わぬ分身でしかないミニ女神だってうんざりするくらい過激に私たちをボコしてくれたもんな。本体ともなればそれを鼻で笑うレベルの苦行を強いてきて当然だ──そしてもはや笑ってしまうのはこれがまだ始まりに過ぎないってこと。


 開始時点で女神は言っていた。チャプター1は手始めとして行うになると。それを真に受けてしまったがために余計に油断したっていうのもあるのに、蓋を開けてみれば実態はこうだ。これのどこが軽いってんだ。もしこれが本当に女神目線ではごく軽い、ジャブ的な訓練に過ぎないんだとすれば、この先に待っているチャプター2や3はいったいどうなってしまうというのか。死ぬんじゃない? 私たち。人間をやめていようがなんだろうが関係なくおっ死ぬんじゃない? このままだと確実にそうなるよね。


 そうなるとむしろこの訓練をクリアしてしまうのが怖いくらいなんだけど、そうは言ってもいつまでも拷問めいた痛みを食らい続けるわけにもいかない。せめてこのわけがわからない激痛をもう少し和らげることはできないのかと頼んでみたがあえなく却下。この痛みこそが私たちに危機感と焦燥を募らせる苦であり労であるのだからそれを薄めるなどとんでもない、とまったくもってのご正論──試練を課す側からすればそりゃそうだろうな──で諭された。私は唾を吐き捨てた。


「わたくしの『手』としてそのような態度はあまり取ってほしくないのですが……許しましょう、はるこ。あなたのその可愛げを憎らしくは思いませんから」


 いつだって本気か冗談か聞き分けのつかない諳んじるような口調でしか話さない女神だっていうのに、よりにもよってその言葉にだけは薄っすらとした感情が乗っていて、どうやら本気で私の悪態や反骨精神を可愛らしいものだと受け取っているとわかって腹が立つのと同時にゾワッとしたものだけど。しかしそのおかげなのかどうか、急に女神は譲歩案を出してくれた。


「では一度、成功体験を積むとしましょう。痛みという時間制限を設けずにゆるりと起こしますのでそれを制してみてください」


 何度文句を言おうと頑なに厳しい条件のままで苦しめてきたというのに、こうも急にやり方を変えるとなるとそれを望んでいた私たちもつい戸惑ってしまったが、言い終わるが早いか女神はもう行動に移っていた。じわり、と右の二の腕あたりが疼く。さっきまではこの疼きらしきものに気付いたときにはもう手遅れになっていたが、宣言通りに今回は激痛が疼きを追い越していくことはないようだ。これはめっちゃ助かる。


 タイムリミットになっていないタイムリミットさえなければこっちのもの。私たちは落ち着いてそれぞれの部位に湧き上がる神力を暴走させないように精神統一を行ない、皆してほぼ同時に制御を成功させた。これにも僅かながらに前後はあったようだけど、集中していたものだから誰が一番早いか、あるいは遅いかは私たちの視点だとよくわからなかった。女神はそれもきっちりと計っているというか、計るまでもなく「届いている」んだろうけど……別にわざわざ訊ねるほどのこともでないから、いいか。


 ぶっちゃけ私が最速じゃないとおかしいけど自信がてんでないもんだからさ。馴染み方では先を行ってるっていうのにそれで最遅だったりしたらちょっとハズい。


 なんてどうでもいいことを考えながら初の制御をお互いに称え合っていると、その浮かれ気分を吹き飛ばす一言。


「よくできました。では、先の条件のまま痛みを増やして再挑戦と参りましょう」



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