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32 誤差にしかならなそう

 バーミンちゃんおすすめのお店のテラス席で食事中、ふと思った。


「そういや、同じ魔術師タイプなのにカザリちゃんは良かったの? せっかくの機会なのに一緒に補充の仕方教えてもらわないでさ」


「面倒だからいい」

「お、おぉ……ばっさりだね」

「それに、おそらく私には覚えられない。そんな気がする」

「なんで~? バロッサさんはコマっちもカザっちも同じくらい習得が早いって言ってたよー?」

「それは攻撃術だから……そして私の才能がふたつの属性に絞られているから。コマレは四つ。総合的にはコマレが上。言うなればあの子は、正統派の魔術師」


 ふーむ。一口に魔術師タイプと言ってもコマレちゃんは王道なタイプで、カザリちゃんはそこから少し外れている……と、カザリちゃん自身はそう感じているんだな。

 これといって確たる根拠があるわけじゃなさそうだけど、闇属性も光属性も希少だとバロッサさんは言っていたし案外と的外れではないんじゃなかろうか。


 まあそれを言うなら、四つも属性の適性を持っているコマレちゃんだって普通の魔術師の尺度で測れるものではないとも言っていたけれども。ここら辺の感覚は正直、私にはいくら理解に努めようとしてもしっくりくるものではなかった。

 なんせこちとら無属性の初歩しか使えないもんでね。へっ。


「コマレならきっと補充を覚えるのにも、そう苦労しない。と思う」

「カザリちゃんがそう言うなら期待しちゃってもいいのかな。私としちゃコマレちゃんにアイテムの充電してもらえるなら超ありがたいんだけど」

「ハルっちは手袋とかイヤリングをつけて戦うの?」

「そのつもり。あるもんは使わないとね。うまく使えるかはともかく……あ、それとも手袋はナゴミちゃんが使う?」


 腕力がアップする効果があるのなら、殴るのが得意な魔闘士にこそうってつけのアイテムだ。そう思って譲ろうとしたんだけど、ナゴミちゃんは「ん~」と顎に指をやって少し考えてから、首を横に振ってノーサンキューの意を示した。え、なんで?


「ウチだと誤差にしかならなそうだからいいかな~。それにトーリスさんも、ハルっちのために指の部分を空けてくれようとしてるんでしょ? だったらハルっちが使うべきだよ」

「なになに、なんの話っすか?」


 ものすごい早食いでいち早く食事を終えたバーミンちゃんが会話に参加してきた。ので、魔術師ギルドであったことと合わせてアイテム事情をかいつまんで話して聞かせる。


 するとバーミンちゃんは訳知り顔で頷き。


「そりゃナゴミさんが正しいっす。そういうアイテムは非力な人ほど装備する意味があるっす。えっと、上手に説明できるか自信はないんすけど──」


 そう前置きしてから彼女が語った内容は、なかなか面白いものだった。ざっくりと言うなら計算の問題である。


 例えば、ナゴミちゃんの素の身体能力を10とする。魔力による身体強化がそれに×5するものだとしたら、手袋による強化は+2くらいだ。この2も素の身体能力と見做されるのなら式は12×5=60。手袋の有無による差は約14%にも及び、決して小さくはない。


 ところが身体強化はあくまでナゴミちゃんの元々の能力を倍化させるものであり、そこに手袋に刻まれた術式による強化分は含まれない。つまり実際の式は10×5+2となり、答えは52。手袋による強化幅は割合にして約4%となる。


 先の計算に比べたらかなり低い。しかもナゴミちゃんの身体能力や強化効率が上がれば上がるほど割合は更に低くなり、本人がそう述べた通りやがてはあってもなくても効果を実感できない誤差になってしまう。将来的には間違いなくそうなる……そしてその将来は現在の成長率からしておそらくそう遠くない。


 となればなるほど、式にするなら8×2くらいの強化しかできない私みたいな非力ガールが手袋を装備して合計の16を18に増やすほうがずっと意味があるだろう。あくまでアイテム一個で得られる強化の割合としてはね。


「なんかゲームチックな仕様だけど、おかげでわかりやすいね」

「わかってくれたなら良かったっす。アイテムってのは必要な人が持っていてこそっすからね」

「確かにね~」

「…………」


 バーミンちゃんの言葉にナゴミちゃんもカザリちゃんも考え込む様子を見せた。トーリスさんから貰った魔道具に何か気になる点でもあるんだろうか。


 と、話し込んでいる内にあらかた皿も空いた。まだ食べ終わっていないのはシズキちゃんだけだ。一言も発さず黙々とチャーハン的な料理を口に運んでいたシズキちゃんだけど、なんと言っても一口がものっそい小さい&噛む速度がゆっくりかつその回数も多いものだから、圧倒的に食べるスピードが遅いのだ。


 何度も食卓を共にしてきているので彼女の速度感には慣れている。でもシズキちゃんは人を待たせてると思うとご飯を味わえないタイプだということも知っているから「ゆっくりでいいよ」って言ったんだけど、そこでスプーンを動かす手が止まってしまう。


「どしたのシズキちゃん。……あ、もしかしてもうお腹いっぱい?」


 こくこくと頷きが返ってくる。あー、まだ半分くらい残ってるけどここの料理ってけっこうボリューミーだもんねぇ。小食なシズキちゃんにはちょっとキツいだろうな。

 割とよく食べる私やナゴミちゃんでも一皿で満足できてるし……とはいえ私のお腹にはまだ余裕がある。頼んだ料理を残すのもお店に忍びないんで、シズキちゃんがいいならだけど。


「私が残り食べよっか?」

「い、いいの?」

「いいよ」


 ほっとした顔を見せるシズキちゃん。たまに敬語が外れるようになってきたなー、なんて微笑ましく思っていると目の前に突き出されるスプーン。そこには一口分の料理が搭載されている。


「あーん」

「あーん?」

「あーん」

「あ、あーん……」


 わお、食べさせてくれるのね。自分で食べるつもりだったから戸惑ったけど、やってみると悪くない。首を傾げるシズキちゃんに「美味しいよ」と答えたらふわっと笑う。相変わらずかわいいなこんちくしょー。こんな子にあーんしてもらえるならいくらでも食べちゃうよ私は。


 ちなみにチャーハンはシンプルな見た目からは意外なくらい複雑な味がした。どっちかというと中華っていうよりエスニックな感じ。

 思ってたのとは違ったけど、嫌いじゃない。普通に美味。


 最後の一口を食べ終え、食後のティーブレイク。お茶と一緒に出てきたデザートに関してはシズキちゃんも別腹らしく、ぺろりとスフレケーキを平らげていた。かわいい。


 ってことで大満足してお店を出た私たちは紹介してくれたバーミンちゃんの物知りっぷりを褒め称えつつ、腹ごなしも兼ねてモンドールの散策を再開。ギルドに戻るのはその後でいいだろう。


 露天商が立ち並ぶ通りを歩いていると、店のひとつに顔がモロに猫の毛むくじゃらの人を見つけた。

 おお、あれは猫の獣人だ。接客している相手も後ろ姿だけど獣人だろう。


「モンドールには獣人の人たちもけっこー見るね。王都ではあんなに人がいたのに見かけなかったけど」

「ああ、獣人はみんな五感が鋭いっすからね。王都みたいにあっちもこっちもごちゃごちゃし過ぎてるような場所だと暮らすには向かないんすよ。聴力が自慢の自分も王都に出向くときは帽子が欠かせないっす」

「耳栓代わり?」

「っす」


 頭をすっぽりと覆えるあの大きなキャスケット帽にはそういう意味もあったのか。道理で今日は被ってないわけだ。胸元に引っ掛けられているんで、必要になったら被るつもりはあるんだろう。


「それにしてもバーミンちゃんって耳以外は私たちと変わらないよね。他の獣人はもっとこう、それっぽい見た目してるのに」

「そりゃ自分は半獣人っすから! 獣人らしさは半分以下っすよ。外見も、中身もっす」


 ……んん?



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