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30 魔道具について

「随一の魔力量を誇るコマレ殿が魔蓄の指輪を。闇と光という希少な属性の攻撃術を使えるカザリ殿が攻魔の腕輪を。四大属性で最も防御力に秀でた土属性を有するナゴミ殿が防魔の首飾りを。うむ、いいのではないかな。実に適材適所だ」


 アイテムと人選の組み合わせにトーリスさんは太鼓判を押してくれた。


 って、なんで三人の女神から貰った才能の中身を知ってるんだろうか。そういえば、さらっと言われて気付かなかったけど私たちまだ名乗ってもいなかったよね? なのに彼には私たちの顔と名前が一致している。どゆこと?


「王都にある支部へ顔を出しただろう? 魔術師ギルドは各支部間や他機関との通信が可能でね。人や手紙をやらずとも情報の交換が容易なのだよ」


 ほーん。魔術版の電話みたいな通信機がこっちの世界にもあるのね。確かに向こうではバロッサさんが割かし丁寧に私たちのことを紹介してたっけな。その情報が本人に先んじてここへついていたってことか。


 私の納得を見てにこりと微笑んだトーリスさんは、さっそく貰ったアイテムを身に着けた三人に注意事項を付け加えた。


「知っての通り他者の魔力とは毒だ。害にならないのは自分自身の魔力のみ。故に、一度魔力を込めたなら使い切るまでその当人以外が身に着けることをしてはいけないよ。魔石型の魔道具と違い、魔材のみで作られた純魔道具は質が高く術者にとって利便性に富んでいる半面、扱いには慎重にならなくてはならないんだ。理解できているね?」


 え、そうなの? 知っての通りとか言われても今はじめて知ったんだけど……と思いきや釘を刺された三人だけでなくシズキちゃんまでしっかりと頷いているではないか。あ、既知なんですのね。


 どうやらこれもバロッサさんが前に教えてくれていたみたい。そんでもって私はすっかり忘れていたみたい。マジかい。


 慌てて私も「当然知ってますが」みたいな顔をするけど、隣にいるからシズキちゃんには動揺がバレていたみたいだ。下がり眉の困った顔で私をちらちらと見てくる。うぐぅ、シズキちゃんにそんなリアクションをされるとガチで落ち込んじゃう……これならコマレちゃんあたりにすぱっと突っ込まれたほうが気が楽だ。


 いくらなんでも色んなことを忘れすぎ&聞き流し過ぎと思われるかもしれないが、言い訳させてほしい。

 バロッサさんの特訓ってばきっついんだよ半端なく! 毎日ヘロヘロになりながらその日できるようになれと言われたノルマを必死に達成していたもんだから、そりゃー細かな話を真剣に聞いたり覚えたりできないって。私だけなんだよ? 夕飯時でもう眠気にやられかけてたの。


 悲しいかなこういうとこでも基本スペックの差による弊害って出るのね。できない子は何周も遅れていくもんだ。ああ、無情。


 だからってしょげたりはしないけども、女神への恨みだけは忘れねーぞ。


「参考までに訊いておきたいのですが。先日、教会に勤める神職者たちは治癒術という人の傷や病を癒す魔術を使えると聞きました。これは他者の魔力が毒であるという前提に反するように思えます……どういうことなんでしょうか」


 あ、これ王都の探索中にぶつぶつコマレちゃんが呟いてた独り言だ。

 本当は一緒にいたバロッサさんに質問したかったんだろうけど、そのときは街の人たちや訪れた施設の職員相手に彼女が矢面に立っていたので訊ねる暇がなかったのだ。

 で、そのあとはもう出発準備にかかり切りだったから……結局後回しにし続けて訊きそびれてしまったんだな。


「教導がどういったものか知らないのであれば当然の疑問だ。お答えしよう」


 そこからトーリスさんはつらつらと、バロッサさんが教師モードに入ったときみたいな、言わば教えるのに慣れている人特有の雰囲気で長く語り出した。

 えーっと、よく飲み込めない部分もあったけど私なりにかいつまんでまとめると。


 治癒術を使えるのは才能を持ち、それ専用に技術を磨いた人だけで、その代償として私たちが使うような一般的な魔術は使わない……ていうか使えないようになってしまう。それでいて教会っていう立地から造りからすごく厳選された特別な建物の内部でしか満足に力を行使できない。みたいな話だった。


 つまりめちゃくちゃ限られた人材が限られた条件でしか使えないのが治癒術。

 それだけ魔力によって他人へプラスの影響を与えることはハードルが高いってことらしかった。


「なるほど……では、逆に言えば自己の魔力で自分自身を癒すのは難度が低い?」

「そうとも言えるしそうでないとも言える。身体の強化に伴って治癒能力が向上することは間違いない。同じ怪我を負ったとしても優れた術者とそうでない者とでは回復にかかる時間がまるで異なる……だがそれは教導という独自の学系がもたらす治癒術と同一に語れるものではないのだ」


「あくまで自然回復を早めるだけ、ということですか。自己治癒が自己強化の一環なら、その点は魔術師よりも魔闘士のほうが有利と考えてもいいのでしょうか」

「正しい。定説として魔術師と魔闘士の強化における効率の差はそのまま治癒能力向上の差にも適応される。勿論戦闘技量と同様に、その者の腕前如何によっては必ずしも魔闘士が魔術師を上回るとは限らないがね」


 そこでコマレちゃんは深く納得したように頷いて「ありがとうございます」と礼を言った。あ、終わった? 講義の時間。じゃあついでに私も質問したいんだけどいいかしら。


「何かな」

「効果と使い方を教えてほしいアイテムがあって」


 知識も立場も確かなお人だ。トーリスさんなら初見の魔道具でもそれくらいわかるんじゃないかと期待して、誰とも知らぬ王都の住民から貰った品を見せる。

 ちょっとした疑問をぶつけるくらいならともかくこんなことをお偉いさんに頼むのは少し失礼かな、とも頼んでから思ったんだけど。トーリスさんは快く、むしろ嬉しそうにアイテムを手に取った。


 目を光らせて(比喩じゃなく本当にぼやっと目が光っている)、じっくりと一個ずつ観察し終えた彼は私にまず革で出来た手袋を返しながら。


「この手袋は使用者の膂力を引き上げるための術式が刻まれているね。使用法は嵌めて念じるだけ、簡単だ。ただしほら、ここに埋め込まれているのが魔石だが……とても小さいだろう? これでは魔力を満杯にしても使用回数は精々二、三回。それも一度に数秒しか持続しないから、気を付けて」


 次はイヤリング。


「聴力強化の魔道具だ。耳に付けた状態で魔石を指で叩くか弾くかすれば起動する。こちらは解除しない限り効果が続くタイプだね。ただこちらの魔石も質が良いとは言えない。持っても数分程度と心得ておくことだ」


 最後に丸くて黒い玉。一番使い方が想像できなかった例の変装用アイテムだ。


「これは魔道具ではなく丸薬、噛み砕いて内部の魔草薬を飲み込むことで使用する使い切りの品だ」

「え、これ薬なんですか」

「ふふ、そんな顔をしなくてもいい。中身は真っ当で綺麗なものだ、粗悪品ではないよ。しかし……どちらかというとこれはジョークグッズの類いのようだ。飲んでどんな姿になるかはランダム。持続時間も定かではなく、短ければほんの一瞬、長ければ数時間は続きそうだ」


 わー、マジにジョークグッズじゃんそれは。パーティーとかの余興にしか使えないんじゃない? それでも数時間も変装が続いちゃったら困るけども。


「それと、効力は変身ではなく変装。あくまでそれらしく君の姿を見せる幻術でしかないことも忘れずに」


 なんて言われてもこれを使う日はたぶん来ないだろうな、と思いつつ道具を仕舞いながら頷いたところ、「ところで」と彼は私の左手を示しながら言った。


「君が付けているその指輪も魔道具だね? それについて少し話を聞かせてほしい」



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