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3 こいつやってるわ

 祝福を与えるぅ? また胡散臭いセリフだこと。

 だけど自称女神が魔法みたいな力を使えるのは事実。甚だ遺憾なことに、未だにピクリとも動かない私自身がその証拠でもある。


 私たちをこの真っ白空間に連れてきたりだとか、一瞬で自由に消えたり現れたりだとか……もしも祝福っていうのがそういう摩訶不思議パワーを私も使えるようになることを指しているんだったら、まあ貰っておくに越したことはない。何せ女神と同じ力を操れるようになったら、この金縛りからだって脱せられるかもしれないんだから。


 それができたらこっちのものだ。

 今度こそ女神の顔面か鳩尾に一発イイのを入れてやるぞ。なんなら二発でもいい。


 なんて密かに目論んでいる間にも話は進み。


「まずは、あなたです」

「コマレ、ですか」

「ええ。あなたに相応しき才は──魔術師としての才。智慧深く機微に敏いあなたにはぴったりでしょう」


 その時、向けられた女神の手からぱっつんちゃんへ「何か」が移動した。それがなんなのかはわからない。目に見える変化があったわけでもない。ただなんとなく、温かい「何か」が渡された。そういう感覚だけがあった。


 ぱっつんちゃん自身もそれを感じたんだろう。自分を見下ろして何やら信じられないような顔をしている。

 まさか本当に、摩訶不思議パワーを受け取ったっていうの……? 魔術師とかまたわけのわからないワードが飛び出していたけど。それが確かだとしてぱっつんちゃんはいったい何ができるようになったんだろうか。


「次になごみ。卓越した運動能力を持つあなたには魔闘士としての才を」


「次にかざり。静にして動、二律を両立させているあなたには光と闇の力を」


「次にしずき。夢幻にして無限の可能性を有するあなたにはそれを形にしたものを」


 女神は一人一人の詳細を明かすことなく次々と祝福とやらを受け渡していく。

 信用ならねえ、とは思いつつもとうとう自分の番が来たとあっては私も思わずドキドキしちゃう。


 四人ともなんというか、よくわからないけど御大層なものを貰っているようだし。最後に回された私にはドドンと特別すごいものをくれたりしないだろうか。ていうかくれ。それですぐ下剋上してやる。


「次に……はるこ。とにかく元気いっぱいのあなたには健康で丈夫な体を与えましょう」


 は?

 は???


 いやちょっと待て。健康で丈夫な体だぁ? んなもんもう持っとるわ。両親がくれたっつーの。こちとら元から花丸の健康優良児だってのに同じものを貰ってどうしろってのよ。

 しかも私だけ他四人と方向性が違い過ぎる……それこそ貰ってなくても気の持ちようで貰ったつもりになっちゃうような類いのやつでしょこれ。


 ねえねえ女神さんよ。あんた本当に祝福くれましたか? 

 何かしら変化があったような自覚も今のところ特にないし、そういえば私には手も向けてこなかったぞ。


 あーこいつやってるわ。

 蹴られた恨みをここぞとばかりにぶつけてきてるわ。

 未遂なのになんて心が狭いんだ。女神の器じゃないぞ。辞任しろ辞任。


「もがっ。もがもがもが!」


 舌も喉も固まってしまっているがこんなふざけた真似をされてはさすがに黙っていられない。死ぬ気の勢いで渾身の不満アピールを行う。だが案の定、女神クソアマはどこ吹く風。


「まあ。指先ひとつ動かせないはずなのに、そのような鳴き声を出せるなんて。はるこの活きの良さは留まるところを知りませんね。やはりあなたへ与えた祝福は間違いでなかったと確信を持てました」


 こ、こんにゃろう……! 

 気力を振り絞った訴えを鳴き声扱いした挙句、自分の正しさの根拠にまでするとは。ちょっとやそっとの性格の悪さじゃない。


 実はこいつこそが魔王なんじゃないの? その方が納得できる。違うんだとしたら今すぐ魔王と立場を交換してほしい。心置きなく倒してやるから。


「さて。これであなた方は素質だけでなく、常人ならざる力をその身に宿しました。ですが、言いました通り、その才を充分に手繰れるかは今後の行い次第。自らを活かすも殺すも自らによるものと知り得ておきなさい。あなた方ならきっと、自ずと良き方向へ行けるとわたくしは信じていますよ」


 え? なんか締めに入ろうとしてない? 

 まだろくすっぽ事情を飲み込めてないんだけど、私。

 これって説明責任を果たしてるって言えるかな。


 とツッコミたくてもどうしたって喋ることはできないし、他の四人も何も言おうとしない。祝福を貰ってからこっち難しい顔をして黙りこくるばかり。いやいや、何を神妙にしてるのさ。私のぶんまでガンガン女神を責めてくれなきゃ困るって。


「それではお行きなさい。異なる世界で異なる力を振るい、その魂を輝かせるのです。さすれば必ずや魔王も討ち果たせるでしょう」


 女神が両腕を広げた途端、私たちは光に包まれた。う、これは例のアレだ。この淡く感じるのに強烈な光量は間違いなく、下校中の私を連れ去った謎の光。


 ということはまたどっかに飛ばされようとしているのだろうか? 今度はどこに? いやそれより、行き先がどこだろうと口振りからして女神は同行しないつもりなんだろう。


 冗談じゃない、やりたい放題したまま勝ち逃げなんて許せやしないぞ。女神が光を操っている(?)隙になんとか金縛りを解けないかと藻掻いてみるが、うわ全然ダメだ。ビクともしやがらない。女神め、こんなガチガチに拘束するとは。か弱い乙女一人にどれだけ怯えてんだ。やっぱ女神降板しろ。


 せめてもの抵抗として最大級の怒りを乗せたレベルマックスのメンチビームを発射するが、光に埋め尽くされていく視界の中で最後に見えたのは、意にも介さず私に向けて微笑みかけてくる女神のムカつく顔だった──。



◇◇◇



「はっ」


 気付けば女神も光も消えて、私たちは木々に囲われた場所にいた。いったいどのタイミングで移動させられたのかまったくわからない……不思議パワーが過ぎるでしょ、まったく。


「あっ、体が動く……! よ、よかった」


 周囲を見回せたことで金縛りも解除されていると気が付いた。あの女神のことだから人を銅像にしたまま放り出したりもしそうなものだが、さすがにそこまで悪魔ではなかったか。感心感心。


 次会ったら殴るのは顔面じゃなくて無駄にデカかったおっぱいで勘弁してやろう。


「あの。話し合いを提案します」


 と、言い出したのはぱっつんちゃんだった。


「コマレの推測が正しければ、コマレたちは今とても危険な状態にあります。迅速に話し合って今後の方針を決めるべきだと思います」


 え、今って女神を名乗る不審者が目の前にいる状況よりも危ないの? と疑問に思ったけど……この林だか森だかよくわからない場所もそりゃー危険っちゃ危険か。


 真っ白空間とはまた違う意味で怖さがある。野生動物とかね。


「皆さん、手持ちの物って何かあったりしますか」


 そう訊かれてカバンを持っていないことに今更思い至った。そういや真っ白空間の時点で手ぶらだったな私。嘘でしょ、ようやく買ってもらったばかりのケータイもあの中なのに。絶対女神にパクられてんじゃん。


「やっぱ顔面だな……この手で変形させてやる」


 思わず恨み節が声に漏れると右横にいた長髪ちびっこちゃんがびくりと肩を震わせた。ああごめんね、君に言ったんじゃないんだよ。


 で、私だけじゃなく五人全員が手持ちのアイテムなし。着の身着のままであることが確認され、ぱっつんちゃんはそれを聞いてやはりといった感じに頷いた。


「既に始まっている、ということですね。非常に信じ難いですけど、こうして現実に起きている以上は認めなくてはなりません……」


 若干顔色を青くさせながら、ぱっつんちゃんは私たちの顔を見回して言った。


「皆さんは、『転生もの』にどれだけ詳しいですか?」



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