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29 ギルド長トーリス

「縁あってギルド長を任されているが、本来なら森人エルフである私はその立場に相応しくない。知っての通り、私たちエルフの扱う魔術と人間ヒュームの魔術は種類が違うのだからね」


「は、はい。正しくは精霊術、なんですよね? エルフの皆さんが使うのは」

「その通り。精霊術は魔術のように魔力を術理へと変換するのではなく、精霊との交信に用いて行う。これは精霊を知覚できない他種族には不可能な魔力の使い方だ。それだけ種族間の差は大きく、故に、私が人間の組織で長をやるのも本来はおかしなことなんだ」


 けれど前任のギルド長さんと懇意だったのと、エルフとしては珍しいくらいに人間社会への理解が深く溶け込んで生活できていたこともあって、後継者に選ばれてしまったのだとトーリスさんは言う。


「なんの因果かまさか魔王期にこのような役割を果たすことになろうとは。つい二、三十年ほど前には想像もしていなかったよ」


 つい二、三年前みたいなノリでそんなこと言うなんて、やっぱあれかな。色んな作品で見るみたいにこの世界のエルフも人間より寿命が長いのかな。

 という疑問が顔に出ちゃっていたのか、トーリスさんは私を見てくすりと笑った。


「エルフの寿命はおおよそ二百五十年から三百年ほど。ハーフエルフとなるとその倍くらいだ。だから人間よりも基本、長寿と言えば長寿だね。その分、数の上では人間よりもずっと少ないが」

「じゅ、寿命が長いことで繁殖能力が低いという例のあれですか……!」

「それもその通り。博識だね、コマレ殿。私たちエルフは子どもができにくいし、そもそも積極的には子を設けたがらない。どちらも君たち人間を基準としての話だけれど、寿命格差が種族としての傾向へ大いに影響していることは明白だろう」


 コマレちゃんはファンタジーチックなものには我を忘れがちだなぁ。今もけっこうなぶっこみ具合だったと思うけど、トーリスさんが冷静な人で良かったよ。


 初対面の相手からいきなり繁殖がどうとか言われたら私だったらビックリして鼻白んじゃうよ。


「……純粋なエルフよりも他の種族と混ざったほうが寿命が長い、んですか」

「そうだね。だが、ひとつ訂正を入れるなら『他の種族』という表現ではやや正確性に欠ける。私たちエルフ、そして堀人ドワーフ獣人アニメフと交われる種族は人間だけなのだから」


「えっ? じゃあエルフとドワーフのハーフとかはいないってこと?」

「ああ、確かだ。人間の特性は高い適応力にある。それが種族間の壁すら越える役割を果たしているのだろう。魔物や動物と区別して人種と呼ばれるのは今あげた四種族だが、人間はまさしく中間にいると言っていい」

「中間、と言いますと」

「エルフは背が高く、体躯が細く、長い耳を持つ。ドワーフは背が低く、体躯が太く、豊かな髭を持つ。獣人ならば動物の特徴を写した耳や尾、体毛がある。人間にはどれもなく、体格や外見的特徴においても全て他種族の狭間・・に位置しているかのようだ。まるで、種族同士を繋ぐかのように。その間に立つかのようにね。だから『人間』と呼ばれるようになったのだろう。と、私は考えているよ」


 ほへー。人と人の間にいるから、人間。確かに森人とか堀人みたいな直球でわかりやすい呼び方に比べて人間は種族名としてちょっとおかしい……とは全然思っていなかったんだけど、こう解説されてみると腑に落ちる。


 だけど、あえてなのかどうか、トーリスさんが口にしなかった種族について私は気になった。


「魔族はどうなんですか? あいつらだって一応、人の見た目をしていて言葉も通じるんですから……人種の一員っぽいな、と思うんですけど」


「……いや、魔族はとても人とは呼べないよ。彼らは魔境、第四大陸に蔓延する瘴気から生まれると言われている。瘴気は人や動物のみならず魔物にすらも害となる。そんなものを力の源とする存在を私たちと一括りにはできないさ。単純に、彼らの征服欲や破壊衝動は他種族と相容れるものではないしね」


 魔族に関しては生息圏の隔たりやあちらさんの攻撃性のせいで研究が進んでおらず、謎ばかりだとのことだが、現時点で判明している事実だけでも充分に異物であるとトーリスさんは語った。


 相容れないし、決してわかり合えない。

 だからこそ魔王期なんてものがあるんだし、私たち勇者にはどうしても魔王を討ってもらわないといけないのだと。


「そのためなら私たちもいくらだって力を貸そう──こうして旅路の途中に寄ってもらったのもその一環だ。ザリークだったか。一魔族が逸ったのか今代の魔王の方針なのかは知らないが、おかげで儀巡が後回しになってしまったのは手痛いことだ。しかしそれだけに、最高の用意をしたと自負しているよ」

「用意って?」

「魔術師ギルドから勇者一行へ、贈り物をしたい」


 室内にあった大きな机、その上に置かれているアイテムを示してトーリスさんは続けた。


「ルーキン陛下と同じく私もお告げを受けた者の一人。ギルドの長として勇者の助けとなる純魔道具を授けることが使命だと女神は仰られた。ただし、その数は厳選するように、とも。なので最高峰の品を三つ見繕わせてもらった」


 三つ。なるほど、置かれている品は確かに三つだ。


 ネックレスに、バングルに、指輪。いずれも身に着けるタイプの魔道具だと見受けられる。それもバロッサさんがレア品だと言っていた魔石に込められた魔力ではなく使用者の魔力で動くという純魔道具。それをポンとあげられるなんてさすが魔術師ギルドだけあるなぁ。


 や、実際のところ純魔道具がどれくらい希少であるのか、トーリスさんがこの三つを揃えるのにどれくらい苦労したのかは私にはわかんないんだけども。


「これらはいずれも決して壊れず、数百年が経とうとも機能を損なわない最高品質のアイテムであることをギルド長の名において保証しよう。ひとつずつ効力を説明するので、誰がどれを持つのかを決めてほしい」


 あ、そっか。私たちは五人、アイテムは三つ。数が合わないからには持てる人と持てない人が出てくるわな。

 一人が使えば全員に効果があるみたいなものでもなさそうだし、ここは確かに吟味が必要か。


 まあ私にはバロッサさんから譲ってもらった純魔道具の指輪が既にあるから、普通に考えるなら私以外の四人の内から選ぶことになるかな。そうすると一人だけレアアイテムを持てないことになってちょっとかわいそうかも。でも数が足りないんじゃ仕方ない。


 で、トーリスさんが一個一個解説してくれたわけだけど。

 ざっくり言うならバングルが攻撃用、ネックレスが防御用、指輪が汎用って感じだった。

 いずれも使用者が普段から魔力を込めておいて、いざとなったときにアイテムの効力を解放。すると普段の力に+溜めておいた力も合わさってそれはもうすごいパワーを発揮できるのだとか。


「給料日に貯金まで下ろして豪遊するみたいな感じですか」

「その認識でもいい。とにかく、普段の己以上の力を一時だけ発揮するためのアイテムだ。用途が戦闘一辺倒に寄っているが勇者に渡すものとしてこれ以上に相応しいものもないだろう」


 トーリスさんのおすすめとしては、指輪は魔力の総量に優れた人。ネックレスは防御に秀でた性質を持つ人。バングルは攻撃に優れた性質を持つ人が所持すべきとのことだった。


 指輪は魔力タンクとして使うものなので貯蔵量が多く、したがって魔力量に優れた人にしか性能をフルに活かせない。ネックレスとバングルは使用時に自身を守る・相手を攻撃するという明確な機能が作動するためにそれぞれに適した術者がチャージしておく必要がある。


 そう聞けば迷う余地はなく、誰がどれを持つかはすぐに決定された。



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