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258 大技同士の激突

 それは自信の表れだ。有利であるはずの混戦・乱戦を避けるのは下手に場が入り乱れて「時間を食ってしまう」可能性を排するための判断に違いなかった。つまり、さっくりと勝つつもりでいる。それが伝わってきたことでザリークは激情を覚える。そのこめかみにはビキビキと筋が浮かんでいる。当然だ、彼とて魔族。自ら率先して戦闘の矢面に立つタイプではないとはいえ……いや、だからこそ。戦局において自身が軽視されることには高いプライド故に我慢がならなかった。


 特に今は魔術師として互角と認めるバルフレアから徴収・・した───借用・・ではないことが小さくとも重要なザリークにとっての認識だ──力を有効活用して生み出した究極の鏡人形ミラーズを、満を持して宿敵たちへと披露しているのだ。心血を注いで完成させたそれに対し、勇者は恐れ慄き震え上がらなくてはならない。今代は勇者が五人もいると知った際の自分以上に恐怖を抱かなくてはならない、というのに。


 欠片も恐怖など感じていない。最高傑作を、それを生み出した自分を、倒せる相手だとしか見做していない。


 つまりは舐めている。舐め腐っているのだ。


「ふざけるなっ! 魔王様が左腕として選んだこのボク、今代の魔族きっての天才ザリーク様を、人間如きが! たかだか女神なんかに選ばれたくらいで見下してるんじゃあないぞ!!」


 やってしまえ、と感情のままに叫ぶ。黒に染め上げられた四災将のミラーズは、術者であるザリークの意によって取るべき行動を決める人形。四体ともに術のリンクを介した意思伝達によって彼が命令を下すよりも先に動き出していたが、本当にただ動き出しただけ。大まかな指針こそ聞き入れるもののあくまで都度に生前の彼ら「らしい」選択をするからには、こうして攻撃を命じられても各々が好き勝手に勇者へと突撃するだけで、そこにはやはり連携のれの字も見受けられない。


 キャンディとイレイズが突っ込み、それによって塞がれた射線もお構いなしにロードリウスが水術を発射し、そんな彼すら巻き込んで零れた魔力を収集して大砲撃を放つ準備をスタンギルが進めている。まさに四災将が一箇所で戦うとこうなる、という悪例がそのままに描かれていた。


 いや、姉妹の契りを結んだ特殊な関係性故にまだしも協調を取るはずのキャンディとイレイズでさえも──再現できるのが「本人と似た思考」のみでありミラーズとして写された人物同士の認識・・までは反映されていないため──互いを邪魔者としてしか扱っていない以上は本人らの共演よりも更に酷い。四つの力が相互を食らって暴れているだけ。そういう戦い方にしかならず、またザリークもそれを予め理解しており、それでもいいと思っていた。


 本物を超えた力で暴れ尽くす黒い四災将たちに、主軸ハルコのいない勇者一行は飲まれるだけ。そう、信じていた。なのに。


「なんだって……!?」


 無軌道な攻め方を見せたミラーズ側に対し、それに応じた勇者側は恐ろしいまでに乱れがなかった。


 飛び出したキャンディとイレイズを見て自らも前に出たナゴミはその二人を盾にロードリウスの水の魔弾から逃れつつキャンディを止めている。その後ろでは飛来する残りの水弾をコマレが通路全体を塞ぐほどの魔力障壁で受け止め、それに守られながらカザリが光と闇の追尾する魔弾でイレイズを食い止めている。その攻防の裏、最も後方ではシズキが異能力ショーちゃんの最大展開を行っている。それがスタンギルの砲撃に対する迎撃札カウンターであることはザリークの目にも明らかだった。


 この、目の覚めるような連携は。互いが互いの役割を知り、信じ合っているからこその無駄のなさは。アイコンタクトさえない、なんなら先ほどまで相談していた内容ともまったく噛み合わない咄嗟の手の取り合い方は、とてもじゃないがリーダー不在の集団のそれではなかった。


 ミラーズ側が味方同士で削り合うような醜態を見せていることで余計に浮き彫りになる美しさ。当意即妙のコンビネーション。明確に過ぎる出来不出来。それはいよいよ両陣営の大きな一撃が繰り出される瞬間に達したことで雲泥となる。


「まっ、ずい! スタンギルやめ──」


 ハルコの存在、その有無による勇者一行への影響を自分は見誤っていたのではないか──そうと察したザリークに到来した予感、あるいは悪寒。感じたそれを拭うべくスタンギルのミラーズへと強制停止を伝えようとしたが、僅かに遅かった。彼の思念がミラーズへ伝達されるよりも先に準備は整ってしまっており、それが可能になったと同時にもう発射は実行されていた。


「……!」


 偽・支配下の沙汰(ドミネ・クオス)。誰のものでもない魔力を操るスタンギルの最大火力、を模した技。他三体のミラーズの身体や術から零れ出た魔力は勿論、術者であるザリークや距離のある勇者一行からも区別も遠慮もなく巻き上げたそれらを結集させまとめ上げて撃ち放ったその一撃は、かつてハルコを震撼させた天然魔石由来の本家の一撃には劣るものの、それでも個人が自身の能力だけで引き出せる威力としては最高峰。そんな砲撃が用意の段階で潰されずに無事に発射されたのだから、敵への大打撃は決まったようなもの。


 本来なら喜び勇んでいいはずだが──しかし、ザリークが見た未来は案の定に正しくて。


「ビッグ・ショーちゃん・ウェーブ!」


 対抗策の用意も間に合っていた。最大体積となったショーちゃんが通路を流れてくる。津波のような鈍色のそれは凄まじい勢いながらに、容赦なく仲間を巻き添えにしているスタンギルの砲撃とは違い器用に他の勇者を避けながら進んでいた。そして大技同士の激突。拮抗が生じたそのときにはもう、ザリークは強く歯噛みしていた。


 年端もいかない子どもの外見ながらに成熟した魔術師である彼の目は自分以外の者の術であっても威力や特性を瞬時に看破する。全てを完璧に、とまではいかないが情報として戦闘や計略に役立つ程度には。その目が、技と技が衝突した段階で悟ってしまった。威力は互角。いや、どちらかと言うならシズキのほうが突破されないための強度において優れている。この支配下の沙汰(ドミネ・クオス)ではビッグ・ショーちゃん・ウェーブとやらを打ち破ることはできない。


 それだけの大火力を少しの準備時間で勇者側が放てるというのも問題だが、今はそれ以上に。


(これじゃあこちらの一方的な損にしかなっていないじゃないか!)


 一連の攻防の全てが勇者側の利となり、ミラーズは害ばかりを被ったことになる。それが戦局にどれだけの影響をもたらすか。ミラーズの確定的な勝利という流れに──少なくともザリークはその結末こそが正着のものと定めている──如何ほどに掉さすか。それを思うと表情を歪めずにはいられなかった。


 魔力の砲撃と異能力の津波の競り合いはその強大さ故に辺りへ所かまわず余波を撒き散らし、そしてこれもザリークが予見した通りに通路は負荷に耐え切れず形を失い始め──魔力と異能力が互いを弾いた最後の衝撃を契機として崩落。大量の瓦礫と魔力の残滓を降らせながら一人の魔族、四人の魔族人形、四人の勇者たちは階下へと落下した。


「くっ、そ……!」


 そこは式典などを執り行うための城内聖堂。時期外れということもあって内装も片付けられ閑散とした気配が漂っていたはずの場所は、上階ごと天井の全てが落ちてきたことでまるで中央通りの廃墟の街並みを思わせる荒れ具合。その一部に飲まれ、ザリークは悪態をつきながらも力尽くで上に乗る瓦礫を退かして起き上がる。


 そうして彼が見たのは、



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