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254 先にお進みください

 アーストンからはるばる王都へ直行し、途中でトラブルに見舞われながらも誰一人欠けることなく、満を持して王城へ突入。したのはいいけど、した途端にアザミスが告知してくれた通りに異変が起こった。


 正門から城の入口まで続く通路。そこを通り抜けようとして、キラッと一瞬だけ何かが光った。かと思えば、次には私たちを阻むかのように黒い渦が出現。すわ攻撃か、と身構えるもその渦は網目が解されるみたいにして広がっていき、いくつも別れ、そしてそれぞれが形を取っていく。


 いやちょっと待てよ、この黒さ。そしてこの術から受ける気配。めちゃくちゃ覚えがあるんですけど。それも目にしたのはついさっきのことだ。


 ひょっとしなくてもこれ、バルフレアの術なんじゃないのか……!?」


 確かに倒したはずの敵。の、術としか思えないそれを前に極度の混乱に陥る私を余所に無数の黒は明確な形を作り上げていた。人型だ。それも、その姿形は明らかに選兵団の武装した格好を元にしている。


「ハルっち、これ」

「やっぱそう思う? あいつが使った黒い偽物を出す術、だよね。どー見てもさ」


 バルフレアがどういう戦い方をしたかはシズキちゃんが事細かに説明済みである。私たちの言葉でコマレちゃんたちも事態を大まかに理解したらしい。


「どういうことです? バルフレアは確かに仕留めたはずですよね。でなければ術的空間も解けず、ハルコさんたちは帰還できなかった」

「罠だけ先んじて仕掛けてから私たちを待ち伏せた……は、ないか。王城内だと辻褄が合わない」

「それにこの術から感じる魔力の質は、中央通りの罠のそれと同じものですよ。まず間違いなく同一人物が仕掛けてます。術そのものの毛色はかなり違ってますがね……」


 生意気にも選兵団の真似は徹底しているようで、黒い偽兵士たちは陣形を組んでいる。うーむ、模した人の能力まで模倣できているっぽいこの感じ、ますますバルフレアのアレとしか思えないんだけども。でも道に仕掛けられてた鏡の刃はどう考えてもザリークのものだし……ってことはこれもザリークのもの、なんだよね。んー訳わからん。


 わからんからには、考えたって意味なしってことだ。


「しょうがない。あっちはやる気満々みたいだし、ぶっ倒して前へ進みますか」


 魔王が選兵団にそうしたみたいに、これまた突破以外の選択肢はないだろう。振り切って城の内部へ突き進む、っていうのもやれなくはないだろうけどその場合は別の罠が用意されていたときが怖い。つまりは廊下なんかの狭い場所で挟み撃ちになると厄介だってこと。


 そうじゃなくてもこいつらに後ろから追われたまま魔王やらその配下やらに挑むってのはあまり歓迎できない展開だ。鏡の刃は放置して進めばそれ以上の影響なんてなかったからいいけど、こいつらには移動できる足があるからね。絶対にどこまでも追いかけてくるはず。となるとやはり放置ではなく排除がベスト。


 そう結論して戦闘態勢に入りかけた私を「待て」と諫めたのはシュリトウさんだった。彼は肩に担いだままだったアザミスを下ろし、ずいと偽兵団の前に出た。


「排除には賛同するが全員で、というのはよろしくない。それはこれを仕掛けた魔族の思うつぼだろう? ここは俺が受け持つとしよう。あとアザミスもな」

「雑なついで扱い」


 ぼそりと不服そうに言ったアザミスだけど、シュリトウさんの提案への反論はないようだった。小さくしていた杖をまた身長に近いくらいの大きさにして──これホントにどういう仕組みなんだろうか──ぐっと構え、戦いに臨む姿勢でいる。


「ふ、二人だけで? それはいくらなんでも無茶じゃ」


 シュリトウさんの考えはわかる。魔族そのものではなく、魔族が残した術。見るからに時間稼ぎを目的としていることが明白の「こんなもの」を相手に素直に全員が足止めを食らうのは馬鹿げている。とは、私も思うっちゃ思うけども。


 だけどそうは言っても数が数だ。魔王を止めるために出陣した選兵団をそっくりそのまま真似ていると思しき偽兵士たちの数はぱっと見では数え切れないくらいに上る。そりゃあ魔族に比べれば一体一体は弱いだろうけど、でもゴドリスさんを始めとする精鋭を模しているからには──真似たのが外見だけの文字通り見かけ倒しでないなら、だが──決して雑魚とは称せない程度の実力を秘めているはず。


 統率の取れた動きまで再現できているこの大戦力を、たった二人で担う。それはいくらシュリトウさんが連合国最強の戦士であり、アザミスもまた魔術師ギルドの支部長を務める一流の術者だとしても危うい行為なのではないか。


 ──そう止めようと私に、シュリトウさんは続きを言わせなかった。


「ふん、これを無茶と言っては選兵団に笑われるぜ。勇者の力添えも無しに魔王に挑んだゴドリスにな。俺は奴に後れを取るような男じゃあない。なに、どれだけ形を真似ようともこいつらに戦士の魂はない。ただの木偶共だ。さっさと片付けて後を追うさ」

「だ、そうです。あたいはこの人ほど傲岸不遜なことは言いませんが、負けるつもりもないんでどうか何も気にせず先にお進みください勇者様方。ちなみにこの先に悪意の気配はありませんのでご安心を……ただし、悪意のの気配がしますがね」


 二人とも戦意はあっても気負いはなかった。本当にこの人数差をなんとも思っていないようだ。もちろんそれによる不利は理解しているんだろうけど、でも、そうだとしても勝つと。きっとそういう気概でいるんだ。勇者一行の背中を押すために、そういう覚悟でいるんだ。


 ……何を置いても先を急ぐと決めたばかりだ。ここはありがたく私たちだけでも城へ入らせてもらおう。


「お世話になりっぱなしですね」

「戦果で返してくれ。もっとも、魔王の始末は俺がつけてやってもいいが」


 陣列を作って剣と盾を構えた偽兵団。猿真似ではあってもさすがに圧を感じるその光景を前に、けれどシュリトウさんはニヤリと笑って全身に風を纏った。


「威風装相……こじ開けるぞ、すかさず行けよ」

「お願いします!」

「応とも! 大風撃!」


 吹き荒れる風と共に一足飛びで偽兵団のど真ん中へ突っ込んだシュリトウさんが、右の縦拳を力の限りに突き刺す。と同時にそこで激しい旋風の乱流が巻き起こり、攻め込まんとしたところを逆に打たれた偽兵団はそれによって陣形に穴を開けた。


 私たちが悠々と通れるだけの大きな穴だ。それを認めた瞬間にはもう皆で駆け出していた。


「ありがとうシュリトウさん! アザミス! どうか無事で、また!」

「勇者様方もー!」


 石畳の下から木が生えて偽兵士たちの動きを阻害してくれているおかげで私たちは最後までなんの邪魔もされずに正門通路を走り抜けることができた。さすがアザミス、マジでサポート上手だ。


 そのまま止まらず、開け放たれている城の入口からエントランスホールへと突入。そこを真っ直ぐ進んで大階段を駆け上がっていく。左右に逸れれば私たちも利用した客室とか城の文官の人たちが利用する執務室なんかがあるけど──武官(?)であるゴドリスさんなんかが一般兵と共に利用する施設は王城本館であるここにはなかったりする──目指すは一択、王の間だ。


 私たちが最初に通されてルーキン王と謁見した思い出深い場所であり、まず間違いなく今日も、そこでこそ彼は魔王を待ち構えているはずだから。


「あ。何かいる」


 っと。ナゴミちゃんが何かを見つけたようだ。それを聞くが早いか全員が急ブレーキをかけて立ち止まる。すると、まるでそれを待っていたかのように──ザリークがそこに現れた。



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