25 試練の旅へ
名所というだけあって大噴水はすごかった。大きいし、なんか光るし、噴き上がった水が空中で形を変えたりもして、そりゃパフォーマンスの時間帯に合わせて人も集まるわって感じだった。
で、そんな中で見物していたものだから、当然騒ぎになったよね。勇者がいるぞって。あっちからもこっちからも声援が飛んできて大変だった……だってただ観光してるだけだよ、今の私たち。ちょっと手を振って応えただけでも一斉に「おぉー」だもん。
ま、私としては名声欲ってのがぐんぐんに満たされて正直気持ちよかったんだけど、カザリちゃんやシズキちゃんあたりはちょっと辛そうだったからゴドリスさんにお願いして市民の皆さんを落ち着かせてもらって、あまり人気のないところへと退散した。
休憩するために広々とした公園の露店販売で人数分のジュース(?)みたいな白くて甘いドリンクを頂いてひとごこち。
やー、それにしても勇者のネームバリューはとんでもないね。
「あんたも疲れたかい」
「疲れたっていうか、圧倒されたっていうか……ちょっとプレッシャーは感じたかも」
「そうかい。あんだけ持ち上げらりゃそうもなるってもんだろう。だが、何もこの街の住民はあんたたちに『過度な期待』は抱いちゃいないよ」
「あ、それも感じました」
なんていうんだろうな、私たちのことを頼りにはしていても頼り切ってはいない……みたいな? 人類の行く末を丸っと任せたぞ、っていう雰囲気ではなかった。
「戦う覚悟を彼らも持っているってこった。特に今の働き盛りの世代は魔族との戦争が起きることを子どもの時分からよく言い聞かせられて育っているからね。あんたら勇者はあくまでも魔王を倒すのが使命。その邪魔をしないためにも自分の身くらいは自分で守る。そういう意識が根付いているのさ」
そうか。魔族が生息する魔境に近い第三大陸。そこに構える連合国はつまり、魔族の侵攻を阻止するための最前線かつ防衛ラインでもある。およそ百年越しに繰り返される戦いに備えて兵士だけでなく国民一人一人の士気も高いのか。
そう思って振り返ってみると、確かに王都の住民は、特に男性たちが屈強な体付きの人ばかりだったな。魔族との戦いを見越して普段から鍛えているってことなんだろう。
「なんか、すごいですね。命懸けの争いを当たり前のものとして受け入れているって」
「凄かないよ、それがあたしらの常識ってだけさ。住む世界が違えば当たり前だって変わる。あたしにはむしろ、争いに馴染みのないあんたらが戦いを恐れていないことのほうがよっぽど逞しく思えるね」
「それこそやるしかないからやるだけって感じなんですけど」
「だったらお互いさまってこったね。あんたらもあたしらもそう変わりゃしない。勇者だろうとそうでなかろうと、今を生きる──そして未来を守る仲間さ」
……バロッサさんやルーキン王が王都の散策をあれだけ勧めたのは、もしかしたらこのことを教えるためだったり? だとしたら効果てきめんだ。ますます魔族の好きにはさせないぞという思いが強くなった。
私たちが魔王に勝つっていうことは、今日会った全員を守るってことでもある。
そう認識できたから。
「それにしてもこれ旨っ。なんてドリンクなんです?」
「シェイクル。モーメンっていう種類の乳牛から取れた甘みの強いミルクに特殊なハチミツと果糖をぶち込んで冷やした、若い連中専用の飲み物さ。毎日飲めば一ヵ月で習慣病になれるよ」
「え……」
こ、高カロリーな味がするとは思っていたけどそんなヤバいジュースだったの? というかそんなものを名物としておすすめしたのかゴドリスさん!? JCのことをなんだと思ってるんだ! おいしいけど! おいしいけども!
摂取してしまった糖分と脂肪分は仕方ない。動いて燃焼するしかない、ということで街ブラを再開。
国一番の図書館だとか、大きな川にかかった立派な橋だとか、魔術師ギルドやら魔闘士ギルドやらの支部もちらっと覗いて、有名レストランだというお店で食事もして、あっという間に夕方。お城に帰る時間になってしまった。
いやめっっっちゃ楽しかったわ。普通に旅行してる気分だった。言葉が通じる外国って最高だね、風情だけ満喫できて不便がない。
進学祝いで行った家族旅行では暴動に巻き込まれるわ砂漠で遭難しかけるわで散々だったんだよね。それに比べたら天国ですわ。
懸念だった魔族の襲撃もなかったしね。
「そうかそうか、王都を堪能できたようで何よりだ! それだけ色んな場所を見て回ったのなら今日も今日とて疲れたろう。今晩も我が宮殿で英気を養ってくれ」
ルーキン王はわははと笑いながらそう言って、でも今日は一緒に晩御飯を食べることはなかった。勇者の旅立ちに合わせて国王である彼にもやることが目白押しで多忙なんだとか。でも私たちには忙しさに参っているような様子を見せないあたり器の大きさを感じる。どっしりと構えていてせかせかしてないんだよね。
「今日は私がシズキちゃんと寝ようかなー」
「二個しか買えなかった快眠マクラを試すつもりですね?」
「バレたか」
「バレバレ。好きにしたらいい」
「ナゴミちゃんは?」
「ん~、じゃあじゃんけんしよっか。ウチもマクラに興味ある」
「よしきた。行くぞ! 最初はグー!!!」
「うるさいですよ!!」
「コマレもうるさい……」
「あ、ご、ごめんなさい。ハルコさん相手にはつい」
「ジャンケン!!! ポンッ!!!!」
「だからうるさいですって!!!!!」
「コマレのがうるさい」
叫ぶ私のすぐ横にいたからかコマレちゃんはガチギレしていたけど、シズキちゃんがくすくすと笑っていたのでオールオッケー。私は快眠の権利をゲットした。
そして翌朝、あまりにも気持ちよく眠れ過ぎてベッドを出るのが大変だったことを除けば順調に出立の準備を終えた。着の身着のままでやりくりしていた制服は城に預けて、昨日見繕った旅に適した服装に身を包んだ私たちを見送るべく、ルーキン王も外門まで来てくれた。なんともフットワークの軽い王様だ。
「ごほん。──勇者たちよ」
おっ、王様モードに入ったぞ。初対面時の五分間ぶりだ。私たちも気持ちを正してルーキン王の言葉を聞こう。
「歴代の魔王期の王たちがそうだったように、私にもお告げは下っている。お主らが課される『勇者の旅路』。それは魔王を試すための意義ある試練でなくてはならない……その出立をこうして祝せることを誇らしく思うと同時に、大した助けにもならない我が無力を嘆く思いもある。どうか許されよ。そしてどうか、勇者の道程に栄光のあらんことを」
そこまで言ってから、ふっとルーキン王は表情を緩くさせて。
「そういうことで、勇者殿ら。お主たちには飛竜を退治しに行ってもらう。こいつは一月ほど前、つまりはお告げのあった時期からロウジアという古い町の近くにある山に住み着いた荒くれ竜でな。これを勇者への試練として旅立たせることを俺は女神様に言い付けられたのだ」
試練、というのはつまり私たち勇者が魔王と戦えるレベルになるための修行の一環だ。
バロッサさんがチュートリアル担当だとすればこのワイバーンが序盤のボスって立場……かな? たぶん四天王とかが中ボスで、もちろんラスボスは魔王だ。そういう認識で間違いないだろう。
「大竜の劣等種とされるワイバーンだが、しかし劣れども竜種は竜種。その鱗は硬く、魔術にもある程度の耐性を持つ。選兵団でも容易には相手取れない実に危険な魔物だ。たった五人での討伐など本来ならあり得べからざるが、しかしお告げでは勇者のみの力でこれを果たすようにとのことだった。それはワイバーンに辿り着くまでの道中も同じだ」
つまり、旅の途中で見舞われるトラブルや魔物との遭遇も、全て自分たちだけで解決しなければならないってことだ。聞くだに大変そうだけど、怯んでいてもしょうがない。
「任せてくださいよ。ワイバーンだかなんだか知りませんけど、ちゃちゃっとやっつけて試練なんてクリアしちゃいますんで!」
威勢は一人前以上、とぼそりとカザリちゃんの呟く声が聞こえたけど私は無視した。
威勢ぐらい良くなきゃ何も始まらないからね!




