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23 全然ダメって話でしょ

 ビュッフェのレベル99みたいなあまりにも豪勢な食事を終えて、温泉施設のレベル99みたいな豪華なお風呂を堪能して、スイートルームのレベル99みたいな豪奢な寝室で私たちは天蓋付きの馬鹿広いベッドで夜話に及んでいた。

 ……王宮で接待を受けている者にあるまじき貧相な喩え方しかできていないのには、お願いだから目を瞑ってほしい。だって私ただの一般庶民だもの。すごいものを表現する語彙なんてろくにないのよ。


「改めて思ったんだけどさぁ」


 眠気がマックスになったシズキちゃんを連れてナゴミちゃんがもうひとつの部屋へと戻ったところで、ふと感じたことをコマレちゃんとカザリちゃんに漏らしてみる。


「ナゴミちゃん、国一番の兵士に勝っちゃったんだよね。それってめっちゃすごいけど、あんまり良いことじゃなくない?」


 選兵団は魔闘士としての素質が高い人だけを集めた、連合国最強の戦力とのことだった。で、最強の兵士たちを率いる立場にいるゴドリスさんはつまり最強の中の最強ってことだよね? 

 模擬戦とはいえそんな人物にナゴミちゃんが勝利したっていうのは、いくら勇者だからってちょっと行き過ぎている気がしなくもない。


 何が言いたいかというと、ザリークみたいな敵がまたどこかに現れて猛威を振るったとして、この国がそれに抗えるとはとても思えないってことだ。


「いえ、必ずしもそうとは限りませんよ。バロッサさんも言っていたじゃないですか」

「何を?」


「覚えてないんですか……? 模擬戦でゴドリスさんは決して本気ではなかった、という話です。鎧も着ていなければ剣も偽物、魔力だって控え目にしか使っていなかったんです。それはナゴミさんも同じですけど、戦いのレベルを余興・・に落とし込むためにより多くの制限があったのはゴドリスさんのほうなんですよ」


「あー、そういうことね。でも鎧なんて着てたら動きが遅くなってあんな素早い攻防はできないよね。本気装備になったからってそこまで劇的に強さが変わったりするもんかな」

「ああ、それに関しては……実はコマレも『本気のゴドリスさん』がどれくらいのものなのか気になってバロッサさんに訊ねたんです。すると興味深いことをいくつか知れましたよ」


 純粋な魔術師タイプであるコマレちゃんは知らなかったことだが、魔闘士は己が肉体を武器にする延長で武器を持つ者も多いんだとか。武器も肉体の一部と見做して魔力を纏わせる技術は、ゴドリスさんは当然に苦もなく実践していたけれど、魔闘士だからって誰でもできるわけではない割と高等なものらしい。


「服や鎧は身体の形に沿っているからいいんですが、得物となると体格から大きくはみ出してしまうじゃないですか。そのせいで『体の一部』と見做すのが難しいみたいなんです」


 ほほー、そういう理屈か。そこをクリアできてる魔闘士だけが武器のリーチを得られると。

 しかも仮に魔術師で同じことをできる人がいても、強化倍率の違いがあるからどうしても魔闘士には及ばない。同程度の魔力量で打ち合った場合は一方的に負けるんだから、武器がちゃんと『武器になる』っていうのは魔闘士の大きな特権かもしれない。


「しかもですよ。選兵団の兵士が装備するのはドワーフだけが作れるという特別製の剣や鎧みたいなんです」

「特別製って?」

「普通のものより頑丈に出来ているのは勿論、何より魔力との親和性が高いのが特長だとバロッサさんは言っていました」

「へー、親和性ね。よく馴染むってことかな?」

「だと思います。同じ魔力量でもより強化の効率がいいのでしょう。それを全身に纏って戦うんですから、動作性だっておそらくはそう損なわれないと思います」


 なるほどね。てことはフル装備かつ全力を出した『本気のゴドリスさん』は私が思う以上に激強なのか。だったら心配しなくていいから私としても喜ばしい限りなんだけど。


「それより、ハルコは自分の心配をすべき」

「急に何さカザリちゃん」

「あの人は感服したなんて言っていたけど、あれはあくまで将来性……ナゴミがもっと強くなることを見越しての評価。現時点での私たち(勇者)を認めてのものではない」

「いきなりシビアな話すんじゃーん」

「…………」


「いやいや、わかってるって。つまりアレでしょ? 充分に強く見えるナゴミちゃんだって伸びしろ込みでようやくってことは、私は全然ダメって話でしょ」


 まったくもってその通り。だからむしろ、ゴドリスさんが思ったより強くないのなら憂う以上に親近感を抱いていただろうけど。実際抱きかけていたのがさっきまでの私なんだけど、どうもそれはとんだ勘違いだったみたいだから……やれやれって感じですわ。


「でも、考えようによっては一番凄いのかもしれません」

「え、何が?」

「ハルコさん、コマレたちの中で最も魔力の総量も回復量も低いのに、ログハウスから王都までの道のりをまったく疲労を見せずに踏破しましたよね。それに、ナゴミさんとゴドリスさんの勝負も細かい部分までちゃんと見えていた。魔力の才能センスで劣っているのにこれは、ハルコさん自身のセンスがいい証拠なのでは?」

「え、えー? そうなのかな」


 褒められて悪い気はしないんだけど、あんまり鵜呑みにはできないなぁ。なんてこれまで散々に皆との持っているモノの差ってやつを味わってきただけに慎重にならざるを得ない私だったけど、意外なことにカザリちゃんはこの意見に肯定的なようだった。


「そういえば、ザリークの攻撃でハルコが傷付いていなかったことにバロッサさんはとても感心していた」

「感心って、無事だったのはバロッサさんが風魔法で守ってくれたからなのに?」

「ザリークの術はあれくらいじゃ防ぎきれないものだったとも言っていた。無傷で済んだのはハルコが咄嗟に魔力を纏って最高効率で防御したからだろう、って」

「マジで? 最高効率の魔力防御……そんなことしてたかな私」


 お、覚えてね~。何せ怒涛の展開に脳が追いついていなかったもんな、あの場面。惜しいことをしてしまった。ちゃんと自覚があれば自慢できたし、自信だってそれなりに持てたのに。


 自己肯定感は大事だ。それがあるのとないのじゃ他の全てが同条件でも結果がまったく異なってくる。妹の武道の練習に散々付き合わされてきた私はそれをよく知っているのだ。

 主にサンドバッグ役だったけどね……まあたまにはこっちが優勢だったりもしたよ、うん。


「じゃあ私は、少ない魔力でやりくりするのが上手いってこと?」

「そうなりますかね。魔術師と魔闘士、どちらの才能も同程度に持っているからこそなのかもしれません。あるいはそれこそが祝福によって女神さまから与えられた才能だったり?」


 だとしたらやっぱり明確に皆よりショボいのがムカつくんだけど、とはいえ何も貰えてないよりはずっとマシか。

 つまり小器用さが私の武器というか強みってことだな。そんなものでどう戦っていけばいいのかはちょっとうまく想像ができないけれど、なんとかやっていくしかない。


 元の世界に帰るためにも、この世界をザリークみたいな危ない奴の好きにさせないためにも、戦わないって選択肢はないもんね。


「ルーキン王やゴドリスさんを見て、戦うのが私たちだけじゃないって実感できて……力貰った気がする。女神の無責任な激励なんかよりよっぽど。よーし、頑張ろうぜコマレちゃん、カザリちゃん!」


「はい! コマレは精一杯にやりますよ」

「私も、死ぬつもりはない」


 えいえいおーと拳を高くする。カザリちゃんはやってくれなかったし、コマレちゃんも肩くらいの位置までしか上げてくれなかったけど、二人とも表情はやる気満々だった。

 さすが勇者に選ばれただけのことはある肝の座り方だな、と我ながら他人事みたいに思いました。まる。



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