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21 連合国の国王

「堅苦しい挨拶はこのくらいにして……やぁやぁよくぞ参られた勇者殿らよ! バロッサ先生もよくぞ彼女らを連れてきてくださった」


 フ、フランク~。死ぬほど気安くて逆に怖いんだけど。


 だってこの人、王様だよ? 一国の主だよ? 一家の大黒柱の比喩とかじゃなくてガチで国のトップ。本人がそう名乗ったし、この謁見の間とやらにつくまでに会った皆もそう言っていた。


「改めて自己紹介をさせてもらおう、ルーキン・スタンバトス。この連合国を取りまとめている者だ! 先ほどは偉そうにしてすまなかった、勇者との初対面とあっては俺も胸襟を正さんわけにはいかなくてな。だが俺の素はこんなもの、どうか勇者殿らも過度に気を遣わんでくれ! わはは!」


 超フランク~、髭面の濃い顔をしたおじさんだけど笑顔がかわいい~。


「もう少し取り繕ってもいいんじゃないかい、陛下。それから何度も言ってるだろう? あたしのことを先生と呼ぶのはもうやめな。あんたはあたしを顎で使える立場になったんだ、それじゃ示しがつかないよ」

「無体なことを仰らんでください、先生! 俺にとって先生は先生です、それ以外に呼び方なんぞ知りませんよ。どうぞ先生もいつものように俺のことはルーキンと呼んでください」


 え、どゆこと? あっさり王様に面会できたのもそうだけど、バロッサさんっていったいどういう身分のお人なんだ?


「なんてことないさ、元々人を育てる職についていたことは話したろう。かつての教え子の中にルーキンもいた、それだけだよ」

「わはは! 護身術程度ではあるが俺も先生から薫陶を授かった身、勇者殿らから見れば兄弟子でもあるというわけだ。当時は辛かったが思い返せば感謝しかない。バロッサ先生には頭が上がらん……その先生が勇者の指南役に選ばれたと知って俺はこれ以上の適任なしと安心したものだが」


 と、そこでルーキン王は底抜けに明るい雰囲気の中にも真剣なものを織り交ぜて続けた。


「俺の認識は甘きに過ぎたようだ。先生、魔族による襲撃があったとはまことのことなのですか」

「ふん、こんな馬鹿げた嘘をつくもんかい。他にはいないのかい、ザリークを見た者は」

「道化師風の恰好をした十二、三歳ほどの少年……残念と言えばいいのかどうか、他に目撃例は上がっておりません。少なくともこの王都においては」


「だがレイクが被害に遭っている以上、奴が王都内に入り込んだのは間違いない。話によると記憶が曖昧になったのはうちへ届ける食材の荷積みが終わったあたりらしい」

「接触は出発際ということですな。どうやって彼と先生の接点を嗅ぎ付けたやら……勇者殿らの居場所を探り当てたすべも含めて、なかなかに恐ろしい魔族だ。おそらくは今代の四天王の一人でしょうな」

「四天王?」


 真っ先に食い付いたのはやっぱりコマレちゃんだ。魔族の魔の手が伸びてきている、という由々しき事態を受けて真面目に話し合っている大人の邪魔をしちゃいけない。とはコマレちゃんも思っていたんだろうけど、如何にもなワードが出たことで我慢ができなくなったようだ。


 興味津々といった様子で彼女は訊ねた。


「それはやはり、魔王に次ぐ実力者の集団ですか? 各世代にそういうポジションの魔族が魔王軍にはいると?」

「軍と呼べるような纏まりなど魔族にはないが、四天王についてはその理解で正しい。個人で王都へ乗り込み、勇者との接敵も辞さないほどの魔族となれば、ほぼ確実に四天王クラスと見ていいだろう」

「えっと? なんで個人で襲いに来ると四天王の証拠になるんですか?」


 疑問に思って訊き返す。だってそうだよね、バロッサさんによれば魔族は種族として人間を上回っている。力も強いし魔力もたっぷり。強さの自覚があるからそのぶんだけ魔族はプライドも相応に高いって話だった。

 だったら人間の国に来て好き勝手するくらい、別に四天王とかいうお偉いさん? じゃなくたってどの魔族もやってきそうなものだけど。


「魔族は人間を見下しつつも、恐れてもいるのさ。何せ劣っているはずの相手に負け続き。一度だって勝てた試しがないんだからね。無論、局所的な戦闘では優勢を取ることもあるが、最終的に魔王が滅ばされて魔族は魔境から『出られなくなる』。そして魔王の復活を百年以上待ち続けるという苦い展開が繰り返されてんだから少なからず用心も持つさ。四天王ならまだしも、そこらの木っ端魔族が単身で海を越えてくるなんてまずあり得ないよ」


「とはいえ、やはり傲慢さは拭えん。ひとたび戦いとなれば大層な自信で人間を蹂躙せんとするのが魔族だ。それを自信過剰と言ってやれないのが辛いところだ。俺たち人間は知恵と団結を武器とし、何より女神様に遣わされた希望──貴殿ら勇者の手を借りないことには勝ち目がないのだ」


 二人の説明に私たちは納得して頷いた。


 確かに、王様に護身術を手解きするくらい凄腕の魔術師であるバロッサさんを、ザリークは子どもの見かけのくせして非力扱いしていた。実際に力負けしていたことをバロッサさん自身認めてもいたので、それだけ魔族は生まれながらに強大な力を持つ種族ということだろう。


 同時に、それだけの力の持ちながら今まで人間に勝てていないとなれば、いくらプライドの塊だって最低限の警戒や用心くらいはするようになるか。ザリークがあっさり撤退を選んだのも、偉そうな態度の根底に実はそれがあったからなのかも。


 つまりは人間への、とりわけ勇者って呼ばれる存在への恐怖心が。

 ぬふふ、これはいいことを聞いた。また会いに来る気満々ぽかったし、次に対面したらうんと怖がらせてやろっかな。


「それでルーキン陛下? 予想より遥かに早い魔族の動きを受けてどうするのか、王としての決定を聞かせてくれるかい」

「そうですな。ここはやはり、こちらも予定を早める他ないでしょう。儀の巡礼を後回しとし、一刻も早く勇者殿らに力をつけていただこう」

「ふむ。しかし事後承諾となるとエルフもドワーフもあまり気を良くしないだろうね」

「決まりに則り昨日の内に遣いを走らせましたが、このやり方ではあちらからの返答が届くのはどんなに早くとも五日から六日はかかりましょう」

「流石にそれだけ勇者を遊ばせておく時間はない、か。仕方ないね」


 なんだかぽんぽんと私たちのこれからのスケジュールが決められていっている気がする。気がするっていうか、実際そうっぽい。

 だけど具体的に何をするのか、何をさせられるのかわかっていない私たちの不安を嗅ぎ取ったのか、ルーキン王は人好きのする笑顔を向けてきた。


「安心なされい、勇者殿らよ。今すぐに出立させようというわけはないのだ。明日は一日この王都で英気を養ってもらい、旅立ちはその翌日としよう。それでも慌ただしいことだとは思うが、魔族の不穏さを思えば本格的な戦いの始まりまでどれだけ時間が残されているか不透明だ。どうか承知してもらいたい」


「あ、いいっすよ」

「……了承してもらっておいてなんだが、軽く請け負ってくれるのだな」

「だってどのみち魔王を倒さないと私たちも帰れないわけですし。そのためにやったほうがいいって言うならやりますよ、そりゃ」


 ある程度こちらの世界の事情は知れたと言ったって私たちは外様でしかなくて、まだまだ右も左もわからないことだらけ。頼れる大人のサポートや助言を蔑ろにはしないし、できるはずもない。


 ねー、と皆で頷き合えばルーキン王はぽかんとした顔をしてから、それから大きく口を開けて笑った。


「わっはっは! 頼もしいな、さすがは誉れ高き勇者たち! 俺の代に魔王期が来てしまったことを嘆く気持ちもあったが、貴殿らを前にはそんな弱気も吹き飛んだぞ」


 ということで、難しい話は一旦お開きにしよう……って流れになりかけたんだけど、そこに待ったをかける人がいた。


「む、どうしたゴドリス」

「はい、陛下。どうかわたくしども選兵団のため、勇者様方の貴重なお時間を頂戴したく願います」



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