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196 魔闘士ギルド本部から勇者一行へ

「ご存知の通りアーストンには魔闘士ギルドの本部へ勇者である皆さんが顔出しするために向かうっす。ただ一点、その前に知らせておきたいことができたっす」

「知らせておきたいこと?」


 とはなんぞや、と私たちは首を傾げる。テーブルの視線を集めながらバーミンちゃんはひとつ頷いて。


「それが実は、顔出しについてなんすけど……これまでみたいにギルドへただ挨拶するだけじゃ済まなさそうなんすよ」

「それは、挨拶以外にもコマレたちにはしなければならないことがある、ということですか?」


 バーミンちゃんの言葉を額面通りに受け取るならそういう意味になるだろう。厳密に言えばこれまでにも挨拶だけで終わらなかったことはあったけれどね。魔術師ギルド本部ではトーリスさんとの顔合わせと共に三つの純魔道具を受け取ったし。直近のドワーフタウンでは私たちのためだけに特別に作られた勇者装甲エオリグなるものを頂戴した。それに関連して行ったシズキちゃんとの手合わせについては完全にこちら側の諸事情によるものなので除外するにしても、貴重なアイテムを譲ってもらっている時点で単なる顔出しの範疇に収まっていないのは確かだ。


 けど、これらはあくまでポジティブな出来事だからね。有益プラスな出来事だと言い換えてもいい。純魔道具もエオリグも勇者一行の戦力強化に大幅に寄与してくれた、私たちにとっての良いこと。もしもアーストン──魔闘士ギルド本部で待ち構えているのがそれに類するものであるのならバーミンちゃんも「済まなさそう」なんていう言い方はしない。


 その響きからも察せられる通り、おそらく魔闘士ギルドで私たちを待つイベントはネガティブなもの。少なくとも純粋にポジティブなイベントではないってことだ。ともすれば何かしらの不利益マイナスが生じかねないものなのだろう……と、コマレちゃんもわかっているから念入りの確認、そして齟齬のない認知を共有するために訊ねているんだ。


 まさしく、と肯定を返すバーミンちゃん。そのリアクションに対して「あ」と思いついたように声を上げたのはナゴミちゃんだった。


「もしかして~、さっきの報告で言っていたアレ?」

「そう、アレっす」


 お? どうやらナゴミちゃんだけはバーミンちゃんのお知らせに心当たりがあるようだ。報告、というのは王城への定期連絡のことだね。案内人であるバーミンちゃんが欠かせない義務として行っているそれに、勇者側からの代表も付けたほうがいいだろうってことでナゴミちゃんも同伴しているのだ。ぶっちゃけ意図してそうしたってんじゃなくたまたま二人で一緒に通信機を使ったのがその始まりであり、それ以来すっかりセットで定期連絡を行うのが──日によってバーミンちゃん単独のときも多々あるが──恒例になったってだけなんだけども。勇者側からも云々、という理屈はなので後付けでしかない。


 それはともかく、その定期連絡でいったい何があったというのか。今一度視線を集めてからバーミンちゃんは神妙な顔付きをして言った。


「いつも自分が喋るばかりじゃなく、王城側からも都度に情報を貰っているんすけど……その中に魔闘士ギルド本部から勇者一行への要望に関するものがあったんすよ」

「要望? ってぇのはつまり、向こうが私たちに何かしてほしいって言ってるってこと?」

「はいっす。その、実は……本部長さんが勇者との模擬戦をしたいと強く希望しているらしいんすよ。是が非でもお願いしたいと」

「ええ? 模擬戦なんて、なんでまた」


 シズキちゃんとの手合わせみたいにまた味方同士で腕比べしなくちゃならんの? という私の正直な感想は皆と一致するものだったようで、卓上の空気は芳しくない。困惑が満ちている。


「なんでも魔闘士ギルドの本部長はあの連合国最強の兵士と名高いゴドリスさんと昔からのご友人みたいっす」


 ゴドリスさん。もちろん彼のことはよく覚えている。王都散策でも私たちの護衛を担ってくれて、試練の旅に出発する際にも王都の街門まで見送りに来てくれた優しくて何かと頼りになる人物だ。


 彼は優しいってだけじゃなくて、連合国の兵士の中でもとりわけ優れた実力を持つ者しか所属できないという選兵団、の隊長を務めている傑物でもある。実力者が集められた部隊のトップなんだから「連合国最強」の称号は確かにゴドリスさんにこそ相応しいだろう。


 で、そんなゴドリスさんと友達だからってどうしたって?


「ずるい、とのことっす」

「ず、ずるい? 何が?」

「なんでもゴドリスさんは王城で模擬戦を行ったとか」

「ええ、やりましたね。ゴドリスさんの提案で」

「はいは~い。ウチが相手したよー」


 そういえば、そういうこともしたなと思い出す。そのあとの王都散策や試練の旅の準備が印象的すぎて記憶の向こう側に流されてしまっていたけど、ゴドリスさんからいきなり勇者の強さを見せてくれと言われて驚いた覚えがある。


 そうだ、あれは確か兵士たちの士気向上の目的もあってのもの、だったんだよね? ゴドリスさんもナゴミちゃんも本気とは程遠いほんの軽い戦いではあったけど、その目論見は成功していたようだった……いったいこれの何が「ずるい」のか思い返してみてもさっぱりわからんな。


「どうも本部長さんはいわゆるバトルマニア的なのある人で勇者の強さに興味津々のようなんすよ。それで、『ゴドリスがやったんなら俺にもやらせろ』の一点張りで……国王様からの苦言にも耳を貸さない始末らしいんすよね」

「バトルマニア……うーん」


 要するに戦闘狂? の危ない人ってわけか。まあそれよりはニュアンス的にマシなのかもしれないけど、いずれにしろそんな人が本部長って大丈夫なんだろうか。それともそういう人だからこそ魔闘士ギルドの長に相応しいってことなのか?


 しかしだからってこの状況で我欲のままに勇者とのバトルを希望するのはまともじゃないよね。


「ついに連合国の全国民に魔王出没の件も含めて全てが詳らかにされたこのタイミングで、仲間内での無為な戦闘を行おうなんて……苦言を呈されるのも当然です」

「しかも王様からのそれを聞く耳持たないってヤバいよね」


 眉根を寄せたコマレちゃんの言葉に私も同調する。彼女の言う通り王城はいよいよ今日、混乱を懸念して伝えてこなかったアンちゃんの出現(&勇者との接触)に関しても、ドワーフタウンで起きた大規模な襲撃事件の顛末と合わせて国中に通達を行なうことに決めて、その実施から半日が経とうとしている今は大きな街には漏れなく情報が伝わり切っている頃だろう。


 割と利用者がいるこの食堂でもあちこちからそれについての話題がぼそぼそと聞こえてもきているので、この分だと明日の今頃にはロウジアみたいな田舎町(本当は村だけど)を除けば全ての国民が現状を正しく知ることになっていそうだ。


 んで、魔王期の本番に突入しようとしているこの最中で、まさかの勇者との模擬戦だって? 

 そんなもんをやりたがるのは控えめに言ってもおかしいし、それをルーキン王から注意されてもまったく気にしないってのが輪をかけておかしい。


 だって一国の王の言うことなんだよ? なんでそんな堂々と逆らえるのよ。ルーキン王のほうが間違っているっていうんならともかく、自分のほうが明らかにめちゃくちゃ言ってるって本部長さんもわかってるだろうに……まさかわかってないのか? だったらますますヤバい人なんだけど。


「なんなら五対一でもいい。徹底的にボコしてもらいたい。とも言っていると聞いたっす」


 あ、やっぱヤバい人だわ。それも超絶に。



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