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192 いい買い物

 トウクウメンのあとは別の店でフルーツ入りの水まんじゅうみたいなデザートをいただいて、そこで食べ歩きは一段落。ちょっとひと息ってことで私たちは散策するエリアを移し、飲食店以外のお店も見ていくことにした。女子が三人もいればそりゃ服屋でしょ、ってことでけっこうお高そうな(こっちの世界での有名ブランドっぽい?)とこから古着屋(ただの中古ショップっていうよりこっちはこっちでなんか敷居が高い店だった)とかを冷やかしていく。


 ただねぇ。何軒か見て回ったけど誰も一着も買ってないのは、あれだよ。考えてみるとこの面子は女子ながらにファッションにそこまで熱くない三人なものだからまーそうなるわなって感じよ、ね。


 シズキちゃんは体のサイズ的に子供服くらいしか着る物の候補がないし、ナゴミちゃんはデザインよりも動きやすさ重視。私はそれに加えて「破れたり千切れたりしてもあんまり惜しくない服」しか手にしないもんだから、こういう場所にあるオシャレな雰囲気のお店とは相性が悪いのなんの。おーすげえ、と思う服はあっても欲しいと思える服はまったくなかった。それはシズキちゃんとナゴミちゃんも同様。


 もしここにコマレちゃんとカザリちゃんがいれば、せっかくの休息だってこともあって何かしら買ってただろうな。あの二人、特にカザリちゃんは意外と服装に拘りがるんだよね。意外とって言っちゃなんか悪いかな? でもなんか、変じゃなければなんでもいいって割り切ってそうなタイプにも思えるから、王都で服一式を新調したときとかにけっこう真剣に全身のチェックをしてたのが印象に残ってんだよね。


 コマレちゃんも私たちよりかは真面目に選んでいたけど、カザリちゃんはそれ以上だった。彼女すらっとしてるし肌も白いからどうせ何着たって似合うってのにね。あと何より目鼻立ちのくっきりした美人さんだし? そういう子だからこそオシャレが楽しかったりするのかね。私にはあんましわからん感覚だ。


 ただ、そういう私でも例外なのが靴だ。こればっかりはしっかりと選ぶ習慣がある。なんせここを安物だったり高くてもしっくりこない物なんかで済ませちゃうといざってときに危ないからね。履き物は動きの良し悪しに直結する最も大事な要素だ。


 履いててダメなら脱げばいい、なんて考えは甘い。脱ぐだけの暇すらも惜しいときってのはままあるものだ。危機に直面した際すぐ動けるよう、靴を探す段階から真剣になっておくべきなのだ。これは勇者として選ばれたのに関係なく、元の世界にいたときからの教訓。なので習慣っていうよりももはや習性レベルで私の中に根付いているものだった。


 というわけで見かけた良さげな靴屋に入ることを提案。すると動きやすさを重視するナゴミちゃんは大賛成してくれた。魔力による身体強化は体の形に沿っている物、つまり衣服や靴も一緒に強化してくれて、そのおかげで魔闘士みたいな激しく動くタイプの人でもちょっと戦うたびに着ている物が全部ボロボロ、みたいな事態にはならずに済む……んだけど、体までボロボロになるような激戦を演じたならその限りじゃない。


 ナゴミちゃんはドワーフタウンで四災将のキャンディと戦い、そのあともロウ・クシュベルを攻め落とそうとする魔族たちと連戦に次ぐ連戦を戦い抜いたあとだ。彼女の魔力による強化幅がものすごく高いおかげでそんな戦いを経てもまだ靴は無事だけど、彼女的にはグリップ力といい内部の擦れといい少し満足いってない様子。まだ使えはするけど早めに買い替えてもいい。というか、これから先のことを考えると是非に買い替えるべき。そのいい機会だってことで喜んで靴屋に入る。


 ちな、シズキちゃんは私たちと違ってそこまで動き回る戦い方はしないけど、彼女も彼女でドワーフタウンの戦いでは思うこともあったようで、靴の新調には前向きだった。


「スニーカーがいいか、いっそブーツにするか。迷うねぇ。ナゴミちゃんはどーする?」

「う~ん。ブーツのほうが丈夫だけど最初の足馴染みが悪いからなぁ。壊れるときはどうせ壊れるんだしまたスニーカーでいいかなー」


 一理ある。それにブーツは脱ぎ履きが大変だしね。ジッパータイプなら手間がかからないけどレースアップに比べたらフィット感でどうしても差が出る。魔力の防護が前提にある以上、魔道具でもないただの靴なら素材や造りでそこまで耐久度に差が出るわけでもないからには、手軽で足にも優しいスニーカーがベストな選択かもしれない。実際、私たちは五人全員がスニーカータイプだしね。カザリちゃんだけは、ちょっと革靴チックなやつ履いてるけども。


「ていうか考えると勿体ないなぁ」

「も、勿体ない、ですか?」


 何が? と不思議そうにするシズキちゃんへ私は右足を──今左足に履いている靴まで含めてそっくりに擬態してくれているミギちゃんを指差して言う。


「ほら、片方の足がこれもんじゃん私って。新しく靴を買ってもどうせ片側しか使わないんだよね……左足分だけでいいから半額で売ってくれたりしないかな」

「にゃは。そんな売り方はどこもしてくれないと思うよ~」


 うーむやっぱり? そーだよね、靴って別に片側が値段の半分を担ってるわけじゃなくてセットで一個なんだもんね。わかってますとも、ええ。でも何事もチャレンジが肝心だと言うじゃない。ダメ元で交渉してみるってのも……え、完全に無駄? そっか。ミギちゃんにまでそう言われちゃ諦めるしかないな。


 というかミギちゃん、そこら辺の常識を持っているのか……地味に驚きなんだけど。ほー、私の知識とか皆との会話からある程度は学んでいる、っぽい? なるほどね、だから時間が経つにつれどんどん意思疎通がしやすくなってきているのか。これも一体化したからこその恩恵だね。


 なんて考えている間にもナゴミちゃんはお眼鏡に適う品を見つけたようで、シズキちゃんも小さめの靴を店員さんにいくつか出してもらって選ぶ段階に入っている。やべえ、私だけ遅れてしまっている。何かないか、何か。そう焦って店内を見回すと、目に飛び込んでくるものが。


「お? これは」


 ちょうど私が今履いているスニーカーのバージョン違いみたいだ。前に靴を新調した店には置いてなかったな……と手に取って見ていたら、店員さんがつい昨日に発売になった新商品なんだと教えてくれた。目立つ展示をしているからそうじゃないかと思ったけど、まさか昨日の今日とはね。こりゃ出会いだ。


 今のやつもそれなりに気に入っているのでこの新バージョンも悪くないんじゃなかろうか。ということで店員さんにお願いして私に合うサイズを持ってきてもらう。両方を履かせようとしてくれたけど断りを入れて左足側だけを拝借。ちょっと不思議そうにしている彼女に見られながら足入れをしてみる……うん。うん? おお。めっちゃいいじゃんこれ。今履いているのよりフィット感もクッション性も私好みだぞ。


 さすがは新バージョン。進化してるねぇ。まあ、足の形は人それぞれだから中には旧バージョンのほうがいいって人も普通にいるだろうけど、私にとってはこっちのが断然いい。試し履きの感触は上々、なので迷わず決定。買わせてもらいましょう。


 三人ともおニューの靴をさっそく下ろして店を出る。私も、左だけじゃなく右側の靴もミギちゃんに履かせている。戦闘になったら自分で壊しちゃうことになるけど、履かずに捨てるのも勿体ないしね。壊れるそのときまで精一杯に愛でようじゃないの。


 いい買い物ができた、とホクホクしている私たちだったけど。そこで私はシズキちゃんにどうしても言っておかないといけないことを思い出した。


「ね、シズキちゃん。ドワーフタウンでの手合わせの件なんだけど」



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