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184 取り込んだのってまさか

「え???」


 自分でもハテナマークがくっ付きまくりなのがよくわかる声が出た。だってシズキちゃんがよくわからないことを言い出すもんだから……。私が取り込んだのはショーちゃんだけじゃないって、いったいショーちゃん以外に何を取り込むって言うのさ。


「それも、自覚はない……ですか?」


 揶揄いや冗談の類いとかではなく──まさかシズキちゃんが一対一で膝を突き合わせているこのシチュエーションで人を困惑させるようなジョークなんて飛ばすはずもないけれど──心から心配しているからこその質問だと、彼女の態度が訴えている。ということは、ガチのマジで私の体はショーちゃん以外のものも新たに入り込んでしまっているらしい。


 いや、正しくはショーちゃんだけに飽き足らず他の何かまでこの身体が「食べてしまった」のだと言うべきかもしれない。だってシズキちゃんの口振りからしておそらく、移植だか癒着だかが目的でショーちゃんを纏わせたのとは違い、もう一方に関しては事故的に私と一体になったんだろうからね。


 なんだ、私は他に何を取り込んだ? 自覚はないよ、本当に一切ない。いい意味でも悪い意味でもいつもと違う箇所なんて体のどこにもないもの。


 そもそも私が倒れていた状況を思えばショーちゃん以外で取り込めるものなんてあるだろうか? だってそのときの私は大量のショーちゃんと、その上からさらに治癒力の手助けのためにエオリグを着せられていたんだから、それら以外が割り込む余地なんてアリの子一匹ぶんのスペースだってないじゃないか──あれ?


「あーっと、またちょっと確認しときたいんだけど」

「は、はい」

「私、最初に目が覚めてコマレちゃんと話したとき……着てなかったんだよね。シズキちゃんが着せてくれたっていう勇者装甲エオリグ。それってシズキちゃんとか、もしくはコマレちゃんあたりが治療のために脱がせたから、だよね?」

「…………」


 ふるふる、と首が横に振られた。無言の否定。エオリグは脱がされたわけじゃない。ということは──。


「じゃ──じゃあ、私が取り込だのってまさか」

「そ、そうなんです。エオリグは『消えてしまった』んです。ショーちゃんと一緒に……」


 キャンディをきゅっ・・・としてから、私を運ぼうとしたシズキちゃんは、でも怪我がまだ酷いままでは下山は難しいと判断して少し待ったらしい。エオリグの修復とショーちゃんの癒着が進めば息も絶え絶えの私も小康状態になって、運び出す負担に耐えられるだろうと……で、慎重に見守る姿勢を取っていたら、ほわっと。展開されていたエオリグがどこへともなく消えて、あとには傷ひとつない真っ新な私だけがそこにいた、と。


 これにはシズキちゃんも相当に、声が出るくらい驚いたらしい。非武装モードだとエオリグはおしゃれな腕輪になるが、私の腕にはそれすら影も形もないっていうんだからそりゃ吃驚も出ますわな。


 最初は何がなんだかわからなかったが、とにかく私の容態は安定しているし、ないものを気にしてもしょうがないと無理くりに結論付けてシズキちゃんはショーちゃんを自動運転担架として利用してクシュベルを降りた。そしてコマレちゃんが無免許ブラックの医者(正しくは癒者だけど)として活躍した例の臨時野戦病院に私を運び入れた。


 そのあとシズキちゃんは魔族との戦いにすぐ戻ったようだから、彼女が知っている私に関してのアレコレはこれが全てということになる。コマレちゃんが私に治癒を施す場面まではその場にいたけど、それも最後まで見届けずに戦場へ出向いたようで、その次に私の様子を見たのは魔族を全員倒して、皆で私が移された個室に集まったときみたい。


 つまりはその間に私がどうなっていたかは誰も知らないわけだね……なんて言っても、眠っている間に何かあった可能性なんてほぼないとも思うけど。もしそこで変調が起きていたらさすがに起きたときに自分で気付く、はずだ。絶対にとは言い切れないけども。


 というかそうか。今更だけどバーミンちゃんがずっと私に付きっ切りでいたのって、容態の変化を見守るためだけじゃなくてそっちの意味での観察も目的だったんだな、さては。まあそれを合わせても勝手に私が一人でどっか行かないようにっていう見張りとしての役割のほうが大きかっただろうとは思うけど。


「あとから冷静に考えてみて……ショーちゃんと同じように、エオリグもハルコさんの体になっちゃったんじゃないかって。まさかそんなこと、って自分でも信じ切れなかったけど……でもやっぱりそうとしか思えなくて。コマレさんやカザリさんも、状況的にはそう捉えるべきじゃないかって、言っていました」

「ふーむ、なるほどね」


 シズキちゃん個人の見解じゃなく、我らが頭脳のコマレちゃんと冷静沈着娘クールオブクールのカザリちゃんも、一応は同様の見解を示していると。そう言われると俄然に信憑性も増してくるというか、私も信じるべきだって気になってくるな……や、別にシズキちゃんだけが言ってるなら重要視しないとかそういうことじゃなくて、あくまで多数派かどうかの区別でね。ちなみに、同じく所見を求められてもナゴミちゃんはよくわからないからとノーコメント。バーミンちゃんは門外漢っすからと話し合い中に口を挟むことはなかったとか。


 エオリグは取り込まれた派が三、断定できない・したくない派が二。そして遅れてこの議論を知ったのが()……むーん、こうなったら。


「確かめてみるのが手っ取り早いね」

「た、確かめる、ですか? どうやって」


「だってほら、ミギちゃんだって私の足になっているけどミギちゃんらしさは損なってないわけじゃん。ミニちゃんだったときと変わらず形を変えられるし、ある程度なら大きさも変えられる……ってことはエオリグだってそうなんじゃないかと思ってさ。つまり」


 立ち上がる。そして椅子とテーブルの間から窓際の広いところへ移動。これくらいのスペースはあったほうがいいだろう。


「取り込んでいても装備できる。と、期待したいね」

「で、できそう、ですか?」

「いや、ぶっちゃけそういう気は今のとこまったくしないんだけど」


 そもそもエオリグを装備する感覚ってのがわかってないからなー。そして私とどっちが最後の一個を装備するかで揉めていたシズキちゃんもそこは一緒。しまったな、こういうことになるんだったら皆にエオリグの使い方を聞いとくんだった。特に私が着させられたのと同じ魔闘士用を持っているナゴミちゃんとかにさ。


 わざわざ訊ねに追いかけるのも手間だ。ここはダメ元でちょっと試してみて、うんともすんとも言わないようだったらそのときにアドバイスを貰いにいこうかな。


「えーっと、魔道具を使う感覚でいいのかな」


 純魔道具とかは念じるだけで──同じく念じるタイプだったパワー手袋よりもずっとフレキシブルに──起動してくれるが、中には(聴力イヤリングがそうだったように)装備系のアイテムでもその使用にワンアクションが必要なものもある。もしもエオリグもそういうタイプだったら私と一体になってしまっている今、能動的な起動は絶望的ということになるが……その場合でもたぶん、エオリグがエオリグとして「生きている」なら私が大怪我でも負った際にはシズキちゃんが装備させてくれたときと同様に修復機能が反応して自動的に展開される……と、予想できるが。


 そうだとしても一旦負傷しないと起動できないなんて不便極まりないんで、できれば意思だけで動いてほしいものだが果たして。


「ぬぬぬ……変身!」


 勝手がわからないものだからとにかく自分がエオリグを着込んでいる姿をイメージして、掛け声を出してみた。すると──。



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