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172 怪獣大決戦

「え、どゆこと?」


 混乱が継続してしまう。コマレちゃんが治す前から外傷がなくなっていたって……いやいや、それはないっしょ。


 だって私の腕も脚も、そりゃー惨たらしいことになっていた。思い出したくなくてちょっと記憶があやふやにはなっていたけど、一旦思い出したからには断言できる。勘違いとか思い違いとかじゃなく確実に、間違いなく私はキャンディに痛めつけられて死にかけていた。なんならマジで死んだような覚えすらある。それくらいの瀬戸際だった。繰り返すがこれは間違いのない事実だ。


 でも、運よく助かったんだよな。意識が途切れる寸前にキャンディがなんだか慌てていたような覚えもあるから、たぶん、救援があったんだ。誰かが私を助けてくれた。


「シズキさんがあなたを助けたんです。キャンディを倒したのも彼女ですよ」


 シズキちゃんが! そーかそーか、駆け付けてくれた命の恩人はシズキちゃんだったのね。


 ナゴミちゃんと合流して私の窮地を知ったシズキちゃんはなんとあのビッグゴーレム(クレテスという名前らしい)に自分をぶん投げさせてひとっ飛び。私を拾ってクシュベルを降り、臨時病院と化しているここまで運んだ。そういう流れらしいんだけど、どうもシズキちゃんが私をここへ連れてきた時点で怪我らしい怪我もなかったみたい。だけどシズキちゃんの証言によればキャンディを捕縛した段階では確かに私はボロボロで虫の息だった、とのこと。


 つまり、やっぱり私の記憶に間違いはなく拷問されて傷だらけになっていたのは本当で、なのにいつの間にかそれが治っていた、と。しかもキャンディにやられた手足だけじゃなく、イレイズとの戦闘で負った大小様々な傷まで綺麗さっぱりと。


 ……いやあり得ますかね? そんなこと。


 確かに私は怪我の治りが早い。女神がくれた祝福によるものだと思われる回復力の高さに加え、魔力との親和性だかなんだかで治癒の効き目がすこぶる良いっていう特徴がある。そのおかげでちょっとした怪我くらいならメシを食って寝てれば治ったし、治癒術でもヤバいかっていう重傷でも割とあっさり復帰できてきた、わけだけども。


 それを踏まえても今回の損傷ぶりは半端なものじゃなかった。それこそ死んでないのが不思議なくらいの、ガチのマジで命の限界ギリギリだった。記憶が飛んでいるのもイヤな思い出に蓋をしたってだけじゃなく、痛みだとか出血のショックによるものも大きいだろう。体がまだ重いのだってそれだけ深刻な状態にあったっていう証だ。


 なのに、過去一と言っていいそんな大怪我をしておいて、治癒術をかけてもらう前に勝手に治ってましたってさ……どれだけ私が「健康で丈夫」だろうとさすがにないと思うんだけど。


「いえ、正しくは『勝手に』ではないようなんですけど……ごめんなさい、コマレも詳しくは知らないんです。ハルコさんが助けられたときの状況は助けたシズキさんしか把握できていません」

「そっか、そうだよね。コマレちゃんも皆を治すって忙しいんだから……って待って私ってばどれくらい寝てた? まだ魔族と戦ってんだよね?」

「正確な時間はわかりかねますけど、だいたい小一時間といったところじゃないでしょうか。戦いはまだ続いていますよ」


 まだ続いている、と言いつつもコマレちゃんはあっけらかんとしているというか、いやに落ち着いているというか。どこにも戦闘中特有の張り詰めた気配ってものがない。言ってしまうとこう……「もう終わった感」が醸し出されているのだ、その雰囲気から。何故に?


「魔族集団はもう壊滅寸前なんですよ。今、最後の一人が抵抗しているところです。その一人がなかなか手強くて決着が長引いてしまっていますが」


 説明するより見たほうが早いでしょう、とコマレちゃんは私が乗るキャスター付きベッドを押して壁際から、彼女がやってきた通路向こうの窓際へと移動させた。


「ここからならよく見えますよ、ほら」

「どれどれ」


 手強いという魔族を確認すべく窓の外を覗いてみると、わお。例のビッグゴーレム、クレテスが近くにいるじゃないの。んでもってクレテスと殴り合いをしてる赤い肌の大男もいる。あれが百人はいた魔族たちの最後の一人か……。


「デっカ。身長十メートル以上はあるんじゃないあれ」


 クレテスがもっと大きいから色々と感覚が狂ってしまうが、そのクレテスと肉弾戦ができているんだからとんでもないよ。怪獣大決戦って感じの大迫力バトルだ。さっきから建物が揺れていたのはこの二人(?)が殴ったり殴られたりしていることでの衝撃だったらしい。


 コマレちゃんは唖然とする私に、至極冷静に頷きを返した。


「クレテスの全長が十四メートルほどだと聞きましたから、それくらいはあるでしょうね。どうやらダメージを負うことをトリガーに巨大化する能力を持っているようです」

「マジ? ヤバい能力じゃん」

「はい、ヤバい能力ですよ。と言っても大きくなれる限界はあのサイズのようですから、クレテスを倒し切るには至らないでしょうが」

「あ、いくらでもデカくなれるってわけじゃないんだ」


 それを聞いてホッとした。際限がないんだったらいよいよヤバすぎる能力だものな。


 しかしだとしても厄介だよね。一旦ちょっとやられなきゃいけない不都合があっても、最終的にあれだけ大きくなれるなら余裕でお釣りがくる。体格サイズのデカさはそのまんま強さだ。ただでさえタフ&パワフルな魔族が十メートルになったら手が付けられない。クレテスがいなかったら相当な被害になっていたと思われる……十メートルの巨人を十四メートルの巨人がやり込めている光景からはなんか、妙な無情を感じちゃうな。


「優勢なのは見てわかるけど、大丈夫なの。あの魔族に他にも隠し玉がないとも限らないじゃん?」

「そうですね。それに加えてクレテスの稼働時間のリミットも近いようなので不安材料がないとは言えません……けれど、そういった魔族を倒し切れない事態を想定してここの屋上でカザリさんが特大の魔弾を撃つ用意をしています」

「カザリちゃんが」

「はい。その傍には護衛としてシズキさんが付いていますし、ドワーフの皆さんも地上からの一斉砲撃の準備をしています。魔族も既に相当に疲弊していますから、たとえクレテスを下せたとしてもどうにもならないと思いますよ」


 確かに。ロードリウス戦で編み出したという最高火力を更新した新術を、カザリちゃんは煮詰めて改良させたと言っていた。撃とうとしているのは間違いなくそれだろう。四災将でもまともに食らえば大ダメージ必至の危険な術。を、一介の魔族が浴びればいくら巨大になっていたって無事じゃ済むまい。そこにドワーフ製の砲弾までまとめて飛んでくるとなったら……うん、クレテスに勝ったってどうにもならないだろうな。


「仮に巨大化を解いて何かしようとしても、衛兵部隊とシズキさんのミニちゃんを連れたナゴミさんが控えて包囲していますからね。あの魔族には何もできませんよ」


 あらら。最後の一人になっても諦めずに戦い続ける姿勢は敵ながらに立派だけど──まあ魔族からすれば暴れたくて暴れているだけかもしれないが──一人しか残されていないだけに人間もドワーフも勇者も戦力を集中させて対処できるわけで。ここまでしっかり追い込みの用意ができているとなるとあの魔族の勝ち目は万にひとつどころか億にひとつもなさそうだね。


 というかそうか、もうそんな作戦に参加できるくらいナゴミちゃんは元気なんだな。つまりスカイディアは無事に……かどうかはわかんないけど、乗組員には大事なく着陸できたってことだ。ならドードンさんも無事だろう。あー、よかった。空で別れたときからずっと気掛かりだったからさ。


 ゴンっ、と空気を震わせて一際いい拳が魔族の頭に入った。どうやら決着は近そうだ。



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