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16 エグいよシズキちゃん

「コマっち、手伝ってくれる~?」

「構いませんよ。何をすればいいのでしょう」


 二人は軽い打ち合わせをして、それから横並びになった。コマレちゃんは先ほどのように四つの魔弾を作り上げている……あ、でも四属性じゃないな。全部一色、おそらく土属性でまとめてる。


 対してナゴミちゃんは自然体で立っているだけ。な、何をするつもりだ?


「いきますよ。はっ!」


 動作も言葉もほとんどなしで魔弾を撃っていたカザリちゃんと違って、コマレちゃんはこうやって気合を込めるのがしっくりくるというか、好きなんだろうな。今回も掛け声と共に大きく腕を動かして発射の合図とし、魔弾が飛翔する。


 と同時にナゴミちゃんも動いた。走って魔弾の進行方向に先回りし、そして四つ全てを拳で叩き落とす。硬質な音を響かせて魔弾は砕け散ってしまう。

 うごご、なんてスピードとパワーだ。でもこの感じ、まだパフォーマンスは終わってなさそうだ。


マタ増大メガ発射バロ!」


 やっぱりだった。魔弾が落とされるやいなやコマレちゃんが新しいのを用意した。それも詠唱付きのでっかいやつだ。


 真っ直ぐ撃ち出されたそれが向かう先にはもちろんナゴミちゃん。今度のは拳の一打でどうにかするのは無茶だろう。どうやって迎撃するつもりかとハラハラ&ワクワクの気持ちで注目すれば、なんとナゴミちゃんは拳を下ろしてしまった。


「全力ガード~」


 ナゴミちゃんの全身に魔力が溢れた、と知覚できた瞬間に強化魔弾が彼女に激突。さっきとは比較にならない硬くて大きな衝突音が響く。

 え、なになにどうなった? 今のってナゴミちゃんの骨がバキバキになった音じゃないよね?


 なんて心配は杞憂も杞憂、バキバキに砕けたのは魔弾のほうで、それが霧散した後には無傷のナゴミちゃんだけがそこにいた。


「やるねぇ。後から動いて魔弾を追い抜く瞬発力。土の魔弾を殴り壊せる打力。そして強化魔弾を魔力防御だけで受け切る耐久力……どれを取ってもあたしが求めた以上だよ。よく頑張ったね」

「えへへ~。先生のおかげで楽しく特訓できたからー」


 照れながらこちらに戻ってきたナゴミちゃんに、コマレちゃんも感嘆した様子で。


「すごいですね、ナゴミさん。今ならバロッサさんの言っていたことがよくわかります……これは確かに、魔闘士を傍に寄らせないのは魔術師にとって大きな課題になりそうです」


「魔闘士の誰もがここまで動けるってわけでもないがね。けれど強い魔闘士ってのが魔術師の天敵なのは間違いない。その逆もまた然りだが……とにかく備えておくのは大事だよ。幸い、あんたらは互いにとっていい仮想敵になれるんだ。それを活かして今後は更に実戦的な訓練をしようじゃないか」

「はい!」

「はーい」

「うむうむ。おっと、その前に最後のお披露目といこうか。シズキ、準備はできてるかい?」


「あ、ひゃ、ひゃい」


 ひゃいって。シズキちゃん大丈夫かな、見るからにド緊張してるけど。いやー気持ちはわかる、わかるよぉ。三人続けてお見事すぎる演目だったもんね。私だってこのあとであやとりを見せるとなったら胃がしくしくするわ。マジで一番手になれてよかった。


 しかしよりにもよって気の小さなシズキちゃんがラストになってしまうとは。

 こんなことなら順番を交換して私がちっとも締められない締め役になってもよかったんだけどな……おろ?


「や、やります」


 意外や意外、プレッシャーに肩を震わせていながら、それでもシズキちゃんは堂々と宣言した。

 その表情には緊張だけでなくやる気も表れている。


 おー、もしかして皆のかっこいい姿に触発でもされたのかな? うう、シズキちゃんったら立派になっちゃって。思わず私の目にも涙。


「おねがい、ショーちゃん」


 おわっ。シズキちゃんの襟や袖口、果てはスカートの中からもすごい勢いでショーちゃんが出てきた! 


 どろりとした移動の仕方だった前までどは随分と変わったね……いや、ショーちゃんが唯一の武器であるシズキちゃんにとってその展開速度が重要なのは言われなくたってわかるんだけども、こう、見た目がさ。やっぱぎょっとしちゃうよね、あんな可愛らしい子の体からあんな不気味なものがあんなスピードで出てくるとさ。


「え、えい!」


 そして指示出しなんだろう、シズキちゃんは腕を振った。コマレちゃんみたいに堂に入ったものではなくかなり控え目な仕草だけど、ショーちゃんにはちゃんと意思伝達ができているらしい。


 緩い指令とは裏腹の機敏な動作で彼女の前面に押し固まったショーちゃんは、変形。そのボディからいくつもの針を飛び出させた。


 これは、まるで巨大なハリネズミかフグ。あんなの食らったら全身串刺しの穴だらけ待ったなしだ。なかなかえげつない攻撃を覚えたな、と感心するのも束の間、ショーちゃんの変体ショーはどんどん続いた。


 鉈みたいな刃物状にした部位を鞭のように振り回したり、円盤になってその淵に三角刃をずらっと並べた状態で回転したり、ボディ全体で大きなハンマーになって地面を陥没させたり。最後には例の槍の極太バージョンを放ってフィニッシュ。


 うんうん、どれも殺意に満ち溢れていていいね! 


 もはや私が守らねばと思っていたシズキちゃんはどこか遠くに行っちゃったようだ。寂しいなどとは言うまい。私はただ日々逞しくなる彼女の成長を祝うだけさ……ふっ。


 だけどこれだけは言わせてほしい。


「エグい! エグいよシズキちゃん! どれもこれもやたら怖い攻撃だけど、それ誰に考えてもらったの?」


 まさか本人の発想ではないだろうと思えばやっぱりその通りで、犯人の三人は揃って手を挙げて自主した。


「いえ、コマレはただ操作しやすい武器のイメージとしてまだしも身近な刃物の例を挙げただけで……」

「複数の敵を効率よく倒す方法のアイディアを出しただけ」

「ウチも、ショーちゃんを大きなハンマーにできたら強そうだねって話しただけ~」


 案の定の入れ知恵だった。鉈がコマレちゃん、針と丸ノコがカザリちゃん、ハンマーがナゴミちゃんか。

 三人ともシズキちゃんのためを思ってのことだとはわかるんだけどね? おかげで素直に意見を取り入れるシズキちゃんが有名ホラー映画のスターヴィランたちも真っ青なぐらいの凶悪凶器少女になっちゃったじゃないの。


 てか私だけアイディアを求められてないの何気にショックなんですけど?


「いいじゃないか、シズキ。操作精度が各段に上がったようだね。攻撃面では変形のパターンも充実してきたようだから次は防御面に重点を置いてみようか」

「あ……は、はい。わかりました」


 照れている、というよりも褒められてちょっと臆した様子を見せるシズキちゃん。こういうところは変わってないんだけどね。ショーちゃんの操り方だけが斜め上に進化しているんだなぁ。


 なんてしみじみ思っていると、とてとてという擬音が似合う歩き方でシズキちゃんが私のほうに来た。


「あの……」

「どしたのシズキちゃん」

「ど、どうでしたか、わたし」


 およ、何故ピンポイントで私に感想を求めるんだろう? まあシズキちゃんがどういうつもりであれ、私の返答は決まっている。


「どうもこうも、圧巻だったよ! シズキちゃんのが一番ビビったもん」

「ほ、本当ですか? えへへ……」


 嬉しそうだ。ふんわりと笑うシズキちゃんに場がほっこりとする。皆の妹だね、シズキちゃんは。実年齢ではカザリちゃんと並んで上なんだけども。


「そら、お披露目も終わったことだしこっちに集まりな」


 場の空気に流されない鬼教官ことバロッサさんが手を鳴らしてそう言うので、皆でサッと言われた通りに彼女の前に横一列で並んだ。こうしてみると見事に統率されているねぇ、私たち。


「よし。現状のあんたらの総評といこうじゃないか」



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