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146 蛇鱗殺法

 強さこそが全て、という個人主義の極みの種族である魔族は、ひょっとしたら私たち人類が思うよりもずっと戦闘ってものを大事に扱っているのかもしれない。それを最上の手段でありコミュニケーションだと据えていて、だとしたら必ずしも、破壊欲だとか野蛮さだけが魔族の在り方の原因ではないのかもしれない。と、私はたった今そんな風に思った。


 だけど、それがなんだって話だな。仮にこの考えが当たっていたとしても何も変わらない。強さだけで全部が賄えると、弱さは淘汰されるのが当たり前だと信じているような連中と共生なんてできっこない。たとえ彼らには彼らなりの不文律や社会性があったとしてもそれは人類と相容れるものじゃないんだから。


 それに、彼らの社会性ルールが種族として持っている力の顕示を大前提にして作られているものだっていうのは間違いない──破壊欲だけではなくとも、破壊欲ありきで魔族が存在していることは、これまでのことで私もよくわかっている。


 だからこそ絶対に倒すと決めたんだ。魔族も、四災将も、魔王も。全部まとめて倒して、この世界に平和をもたらしてやるって。そう決意した。それはもう揺らがない。


 てなわけで、私が彼らをわかってあげられるのは──。


「あくまでちょっとだけ、だけどね」

「それでも結構。ならばわたくしのことも『ちょっとだけ』知りながら死んでくださいな」


 ぐぐぐ、と再びイレイズの全身に力が籠っていく。今度はこれ見よがしに体を曲げているから糸越しの感触がなくたって明白だ。何をしてくるつもりだ? 何があってもいいようにとこちらは逆に脱力しつつ構えながら、私は別の思考も回す。


 ウロコのない顔面の中心を狙った変形蹴りでもダメだった。槍糸もウロコの上からじゃちょっとの傷にしかならない。二大必殺技が尽く通じなかった──わけではないけど、期待したほどの成果を上げてくれなかったからには頭を悩ませる必要がある。


 何度も糸縛りで拘束できるならその度に変形蹴りを叩き込んでやればさすがにイレイズもこたえるだろうけど、そんなのちっとも現実的な案じゃないからなぁ。二重の変化を経ての糸縛り、っていうスペシャルテクニックを披露してようやく捕まえられたんだ。同じ策が何度も通用するはずもない。だったら別の策を講じないといけないわけで。


 そのための助けになりそうなものと言えば、やはり攻魔の腕輪だ。こっちは魔蓄の指輪よりも魔力残量に余裕がある。この量なら出力を絞れば何発も、全開でも二発は闇の魔力レーザーを放てるはずだ。


 イレイズの硬さは半端じゃない。いくらカザリちゃんの魔力だと言っても低出力のそれじゃ撃ったところで突糸と同じくあのウロコに阻まれ弾かれて終わりだろう。ダメージ狙いなら全開撃ち一択。低出力版は使うにしても目晦ましとかちょっとした牽制とかになるか。


 問題はこの虎の子をどこでどのように切るかだ。当然、最大威力でぶちかましたい。できれば闇レーザーだけに終わらず変形蹴りや槍糸も追撃で繰り出せるとなおいい。そんな都合のいい展開に持って行けるかはともかくとして……狙うだけ狙ってみるとしよう。小さく縮こまってもいいことなんてないんだ。目標だけでもでっかくいかないとね。


「──蛇鱗殺法」

「!!」


 私が考えをまとめたところで折よく(?)イレイズの準備も終わったようで、全身に込められていた力が解放された。荒々しく、一気呵成に。まるで押し寄せる津波のようにそれが私へと殺到してくる。


「っくぅ……!」


 津波の正体は乱打だ。角度も打ち方もしっちゃかめっちゃかな、けど確かに私の知らない術理を感じさせる高速の連撃! ぬぐ、私の常識セオリーにない攻めなだけに目が滑るし予測もできない……! 手と思えば足が来るし足と思えば手が来るし、かと思えば時折尻尾まで飛んでくる。そのせいで変則が更に変則になっていてもう手が付けられない。


 そして一番ヤバいのが、受けるたびにゴリゴリと削られること。こいつウロコを逆立ててやがる! 当たる度に擦り下ろされて鎧糸が剥がれ、もう一度その部位に食らったら痛いったらない。私の魔力防御では削りを防げない!


「こんのっ!」


 苦し紛れに糸を出そうとするけど、ダメだ。出がけに潰される。あまりにも連撃の勢いが凄すぎて糸を作る暇も操る暇もない。これは攻魔の腕輪も同じで使うタイミングがない。それを見つける余裕がない! なんとか魔蓄の指輪だけでも効力をオンにできているが──そのおかげでギリギリのところでなんとかなっているが、打撃を完璧に凌げているわけじゃないしウロコによる傷はどんどん増えていく。そして魔力ブーストもいずれは切れてしまう。


 完全なるジリ貧! あっという間に自分の血で赤く染まってしまった。このままではマズい、いずれ確実に限界が来る。そうなるともう終わりだ。


 だったら仕方ない。もう最大威力だなんだと贅沢を言うのはやめだ。どこでどのようになんて考えている場合じゃない。札の切り時は今で、切り方はこうだ!


「攻魔の腕輪──とにかく弾けろぉ!」

「!?」


 タイミングもクソもなく殴られながらの全開使用。それも指向性を持たせてレーザーとして撃ち出すのではなく、遮二無二の爆発。女王テッソとの戦いでもやった自分諸共に相手を巻き込む自爆という形で闇の魔力を最高の出力で放つ。


 これにはイレイズも驚いたようだ。そりゃあいきなり私の手元からとんでもない魔力爆発が起きたんだからヘビみたいなその目も白黒するってもんだよね。へへっ、今度は私が度肝を抜いてやったぜ……なんて得意気にできたものではないけどさ。


「ごほっ、ごほっ……あー、しんど」


 爆発の衝撃で吹っ飛んで背中をしたたかに打ってしまった。けどまあ、あれ以上ぶたれながらウロコでガリガリされるのに比べたらマシだ。なんとか危機を脱せただけ良しとしよう。


 それに、諸共に巻き込んだとは言っても決してこれは対等な痛み分けじゃない。何故かって、私には耐性だか親和性だかがあって魔力だけの攻撃にはめっぽう強いからである。術式で変換されてちゃんとした魔術になっていたらマズいけど、ただの魔力ならスタンギルの魔石レーザーでさえもなんとかなったくらいだ。


 そのおかげで今回も得をしたってわけ。普通なら自爆なんかすれば敵以上に自分が被害を受けるもんだろうけど、私の場合はそれがない。女王テッソのときと同様、一緒に食らったならイレイズのほうがダメージはずっと大きい!


 その証拠に、反対方向に吹っ飛んだイレイズは私と同じくもう立ち上がってはいるものの、それはさっきみたいに綺麗な足取りじゃない。ふらつきがあって明らかに苦しそうにしている。ふふん、さすがのあいつも攻魔の腕輪の全開爆発には無傷とはいかなかったみたいだね。


 窮地から逃れつつ多少は手痛いものを食らわせてやった……のはいいんだけど、さてお次はどうするか。蛇鱗殺法? とやらは間違いなくイレイズ必殺の闘法スタイル。私が上手に捌けないってことも判明しているわけだし、間違いなくまたやってくるはずだ。


 最初に見せた変則的な打法……あれをヘビっぽい体を活かして突き詰められると、ここまでヤバい代物になるとはね。参っちゃうな。いったいどうやって攻略する? その上でどうやって奴にちゃんとしたダメージを与えたものか──。


「横からしつれいハルっち~」

「えっ、ナゴミちゃん!?」

「これ渡しとくね~」


 急にぬっと傍に現れたナゴミちゃんにびっくりする暇もなく、手を取られて強引に何かを受け取らされた。

 彼女がくれたそれは──防魔の首飾り。



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