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142 だから私たち魔族は

 え、そこなのか。疑問を持つのは?


 ザリークにいいように使われている、っていうところにこそ反応があるだろうと思っていただけに面食らってしまう──と同時に、イヤな感覚ってものにも襲われる。だってそうでしょ? イレイズのこの疑問に満ちた声音と仕草は、ザリークが「ただの魔物ではない」とありありと語っているようなものなんだから。


「ああ、なるほど」


 私が何かを言う前に、イレイズは傾げていた首を元に戻した。その口調には理解の色がある。


「確かに彼は四災将ではありません。それを以て対等ではない、と。勇者であるあなたの目からはそのように見えているということですか。いえ、それが正しくないと言うつもりはありませんが……しかし不正確ではありますね。ザリークは正式な肩書きこそ持ちませんがその役割は魔王様の左腕・・。調査任務やそれで得た情報を元にしての数々の発案も全てがその役割に沿ってのもの。それに従って動くのが、言うなればわたくしたち四災将の役割ですので。あなたの質問に答えるとすれば『いいも悪いもない』。または、『あなたは魔族の誇り(プライド)について勘違いをしている』。それが回答になるでしょう」


「…………」


 魔王の──アンちゃんの、左腕。


 ザリークの奴、あんなちみっこい子どものくせしてそんな大層なポジションにいるんかい。正式な肩書きじゃないとは言うけどそれって、四災将よりも魔王に近いんじゃないの? 四災将は魔王の直属というか直下というか、そういう立ち位置っぽいけど、左腕だと腹心とか懐刀とか、そこら辺の表現のほうがしっくりくるもんな。確かにザリークは将を名乗るよりもそっちが似合う、と受けた印象からして私も思う。


 てか、私たちってば本格的な修行を始めてまだ一週間も経たないくらいの頃にそんなヤバいのとエンカウントしてたのか。展開が早いってレベルじゃないぞ。ゲームならクソゲーもいいところだ。普通に考えたらラスボスの腹心とそんな早期に出くわして生き残れるはずがない……なのに私たちが生き残れているのは、ザリークが強さで価値を証明しているタイプの敵じゃなかったからだ。あいつは直接的に手を下してどうこうするのが得意な魔族ではないんだ。


 イレイズが言っているようにそっち方面は四災将の役割であって、ザリークがするのは頭脳労働。四災将をどう動かすかをアンちゃんへ助言するのが仕事の、言わば文官ってやつ? だからザリーク個人はそこまで強くないってことなんだろう。実際、あのときの私たちでも一応の撃退が叶ったくらいなんだからそこは確かなはず。


 けどだったらなんでそんな奴が意気揚々と勇者を襲いに来たのかっていう別の疑問も出てくるけど……まあ、それによってあいつは勇者のあの時点での成長とか人数とかの貴重な情報を得たわけだから、魔王軍としては必要な行為だったとは思うんだけど。だとしたってトップの左腕ともあろう者が直々に? と謎ではある。


 それこそそういう仕事は、この姉妹にでもやらせれば良かったんじゃないのか。襲撃自体が成功しようが失敗しようがザリークは後方待機で情報だけ入手すればいいだけなんだし。だけど、そうしなかった。ってことはそうすべきじゃない理由があったに違いない。


 あの時点で四災将を差し向けることができなかった訳って、なんだ? こうして連合国内へ投入されているからにはそれをしても何も問題なんてなさそうなのに──。


「アハハハ! イレイズったら!」


 新たに知ったザリークの真実から思考の渦に沈みかけたところ、キャンディの甲高い笑い声が意識を引き上げた。彼女は言う。


「いいのぉ、そんなことまで教えちゃって。ザリークが一番嫌がることじゃない? きっとぷりぷり怒るわよあの子」

「どうせ片付ける相手に何を教えたところで支障はない……キャンディ姉さまがそう言ったのですよ」

「それもそうね! 五人の内二人はもう無力化した。あとは三人。と、この街を破壊し尽くせばそれで終わり。労するというほどのこともないわね」

「不意打ちでやっといてよく偉そうに言えんね。それって五人まとめてじゃ怖かったって証拠でしょうが」


 腹立つ物言いに思わず噛み付けば、しかしキャンディはますます笑みを強めて。


「もしかして卑怯だと怒っている? だとしたら見解の相違ね。不意打ちが決まったからこそ偉ぶるのよ。何者であれどういう手であれ強者を排したのならそちらがでしょう。それが強さと戦いの摂理。単純にして絶対のルール……だから私たち魔族は容赦をしない。加減もしない。手心なんてもっての外。敵に対しては正々堂々となんだってするわ。それが敬意であり、敵意だもの」


「……!」


「おわかり? 卑怯だなんだと手段を選んで見てくれを取り繕うのはナンセンスだわ。命のやり取りにおいてそんなものを持ち込むのは侮辱と同じよ」


 ……なるほど、そういう精神性マインドなのか魔族ってのは。そりゃあ見てくれを大事にしがちな私たち人類とは見解もてんで違うわな。それがデカい溝になって互いの理解も及ばなくなるってものだ。


 確かに私は魔族のプライドについて誤解していたみたいだね。不意打ちをかますことを正々堂々と宣う! ロードリウスがあれだけ大物ぶった態度を取っておきながら、ザリークの指示で待ち伏せたり物陰からこそこそ射撃してきたのも、それこそが魔族のプライドに則った行動だったからなんだ! 


 敵と戦い、勝つ。そのためならなんでもする。そうすることが魔族流の美学。だからと言って一から十までザリークの言い付け通りにするのに不満がないわけでもなさそうだっけど──この点はロードリウスだけでなくスタンギルからも同じものを感じた──けれど区別はハッキリと付けていた。


 勇者を倒す。連合国を潰し、他の大陸にまで攻め込み、今度こそ魔族が勝利する。それ以外に四災将が見ているものは何もないんだ。


「──とはいえ。手段を選び見てくれを取り繕いながらあなたたち勇者が四災将を下してきたのも事実。現状はあなたたちも正しい。私たちに負けて死ななければ、正しいままでいられるわ。生き残った者が事実を語り、真実を作る。これもまた絶対のルールだもの」

「……つまり、どっちが間違ってるかを証明するってことだ」

「ええ、その通り。楽しみましょう、勇者のお嬢ちゃん。踊るためのBGMもバッチリよ?」


 BGM? なんて疑問に思う間もなかった。衝撃と振動、大きな音が体育館の外から響いてくる。それもいくつも、色んな方向から。これは……!


「驚くことではないはずですよ。二対五で勇者を相手取るのですからドワーフタウンを壊滅させるに人手・・が必須なのは自明の理。無論のこと、ここを訪れているのはわたくしとキャンディ姉さまだけではありません」

「ざっと『百人』ばかし連れて来ているわ! 乗り物の子が遅くって私たちだけ先行したんだけどようやく追いついてくれたみたいね。もう始まっているわよ、ドワーフの街の殲滅作戦が」

「な……!」


 ひゃ、百人だと!? 魔族が数人現れるだけでも一大事だっていうのに、それが百人もドワーフタウンに攻め込んできているっての!?


 どうやってそんな人数で乗り込んできたのか。乗り物の子ってのはなんなのか。そもそも魔族がっていうのは誤解なのか。気になることは多々あれど、気にしたって仕方のないことばかり。


 今ここで私が負う「役割」はやはりただひとつ。


 この悪辣な姉妹を倒す。勇者として!



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