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139 ハグしてやんよ!

 勢いづく二体のメタルハルコ。それはシズキちゃんが勢いづいていることの表れでもある。突糸の防ぎ方がわかり、私は両手を使った技が不発に終わった直後。となれば当然。


「このまま──」

「抑えにかかる、よね」

「!」


 それを待っていた。硬くしたまま突っ込んでくるこの瞬間は、不定形の不規則さが何も怖くない絶好の反撃チャンス。AだけでなくBまで一緒に近づいて来てくれたのは僥倖だ、ここで叩き込む!


「変形蹴り! &槍糸!」


 実のところこれ見よがしに放った十連突糸にはまったく期待なんてしていなかったんだよ。いかにも必殺っぽく撃ったけど、そんなのはガワだけ。私の本命はまさにこれだ。


 変形蹴り。妹からもお墨付きを貰っている「本気の蹴り」にミギちゃんの高速変形を組み合わせた真の必殺。魔蓄の指輪による魔力ブーストも忘れずに乗せたそれをメタルハルコAにぶつけながら、Aに弾かれてあらぬ方向へ逸れた左手の五本の糸を瞬時に絡め合って一本の太い糸にして、突糸の上位版である槍糸をメタルハルコBに向かって放つ。


 糸五本分、つまりは片腕で一発しか撃てない都合上、出の速さでは突糸に劣るものの弾速や威力では軽々と突糸を上回る現在の私のメインの遠距離攻撃となる技、槍糸。その名の通りに突撃槍さながらの貫通力を持つそれは、突糸から変化させたことである程度発射までの溜めを短縮した成果もあってしかとBに命中。先ほど私を刺そうとしてきたお返しができた。


 変形蹴りも槍糸も、突糸に対応するため半端に硬度を高めた状態でいるショーちゃんへの効力は十二分だった。メギッシィ、みたいな生物からは到底出ない音を立てて二体のメタリックな私は腰から激しく折れ曲がり、それだけに留まらず胴体が真っ二つに別たれた。


「ぃよしっ!」

「そんな!?」


 糸を回収しつつ変形した足を元通りに。でも魔力ブーストは切らないでおく。ショーちゃんが形を取り戻す前にさっさと横を通り抜けてシズキちゃんの下へ向かわないと。そのためにはまた全速力で駆けねばならない──と、踏み出しかけた足を止める。止めざるを得なかった。踏み出そうとしたその先に、崩れたメタルハルコの腕が溶けるようにして広がってきていたから。


 むう、これは。


「確かに形を壊されたら修復しなくちゃいけません……でも、ショーちゃんには元々決まった形なんてない。だから修復の仕方だって、自由なんです!」


 崩れた二体のショーちゃんは形を戻す前に、膨張。私の進路を塞ぐように四方八方にボディを広げて、その中心部で少しずつ形成させている。元通りのメタルハルコへと、隙を生まないままに戻っていこうとしている。


 く、こんなやり方で私の出足を潰してくるとは予想外だった。ここまで淀みがないってことはあらかじめ織り込んでいたんだろうな。シズキちゃんの中ではショーちゃんがまとめて無力化された場合もシミュレート済みだったんだ。だから我が身を守りながらショーちゃんを修復、いやさちゃんと動かせるように回復させるまでの時間を確保できた。そうでないと私が動き出すよりも早くこんな真似はできないだろう。だからこれも読みの力だし、シズキちゃんの成長の証だ。


 それと同時にショーちゃんを一時でも抑え込めるだろうっていう私への信頼の厚さも窺えて、ちょっとこそばゆくもあるんだけど……そんなことで喜んではいられないね。この状況はかなりマズいぞ。


 メタルハルコはAもBも元通りだ。私が腰をぶち折ったのなんてなかったことになってしまった。そして今まで同様、Aが前でBがやや後方という布陣を変えようとはしない。シチュエーションまで完全に元通り……だけど、必殺技二種類の同時撃ちというアクロバティックな戦法を潰されてしまったことで私だけが一方的に損をしている形だ。


 一度見せたからには大ジャンプと同じでもう突破のための手段としては頼れない。やったとしてもまず間違いなく対処されてしまう。そもそも突糸を誘い水に反撃のチャンスを得るっていうやり口が何度も通じるはずもない以上、同時撃ちをやる機会なんてまず巡ってもこないだろうからどのみちのことではあるんだけど……で、どうしたもんかね。


 さすがにもう冴えたアイディアも浮かばないんだけど……なんて決めつけず、一旦ちょっと冷静に考えてみようか。魔蓄の指輪も切っとこ。少しでも節約節約。と落ち着いたのが良かったか、閃くものがあった。私の手札の中にまだ試していない一枚があることに気付いたのだ。


 これならもしかするとショーちゃんの厄介さの半分くらいを封殺できるかもしれない。でも正直言って上手くいかどうかは五分五分ってところだ。それもだいぶ自分に甘く見積もっての五分五分ね。


 また博打になっちゃうかぁ……けどまあいいや。博打に打って出ることもできないような追い込まれ方をするよりは、薄くても光明が見えているほうがいい。あとは恐れず挑むだけ。ギャンブルってのは絶対に勝つっていう気概がなくちゃやっちゃいけないし、それさえあれば意外となんとかなるものだ。と、私は両親から教わっている。


 今こそ我が家の教えを活かすとき! 再びじりじりと寄ってくるメタルハルコからこちらもじりじりと下がることで近づき過ぎないようにしつつ、その間にこっそりと仕込みを終えて──今! 仕掛けるときにはできるだけ迅速かつ苛烈に、だ! これは妹の教えね!


「!?」


 糸の用意なしのステゴロで飛びかかる私に、シズキちゃんも驚いたようだ。表情こそ鉄仮面なもののぎくりとした気配がメタルハルコから伝わってくる。でもさすが、今日の覚悟ガン決まりのシズキちゃんは呆気に取られて後手に回るようなのんびりさんではない。すぐさま反応を見せ、私を迎撃する構えをメタルハルコに取らせた。


 受けの姿勢、というよりも積極的に殴られようとしている。両腕を広げて私の素通りを許さないようにしつつメタルハルコも接近してくるのは、まず確実に接触を狙ってのもの。当然だ、殴られようがなんだろうがそれを機に不定形ボディに取り込んでしまえばそれでいいんだから防御の必要なんてない。


 私自身が近づいてくるなら硬度を上げたり下げたりすることもなくただくっ付くことを狙うに決まってる。相手からしたらそれがベストなんだから──そこにこそ新たに付け入るべき隙が生じる。


「そんなに私とくっ付きたいならお望み通り! ハグしてやんよ!」


 殴りかかる、ように見せかけてクリンチ。ボクサーが対戦相手の勢いを止めたり休憩のためにやる戦術的なそれ、っていうよりも友人同士でやるような、ただ本当に抱き着いただけ。そういうハグをした私にシズキちゃんだけじゃなくこの場にいる全員が驚愕した気配が発せられる。感度ビンビンの今の私にはそれさえもわかる──ってか、それだけ皆が本気でビックリしてるってことかも。


 ショーちゃんに迂闊に触るっていうのがどういうことかは皆よくわかっているし、それをよく存じていないロゴンさんやドードンさんだって私の戦い方からして何かしらそうしちゃいけない理由があるってことは察しているだろう。なのにいきなり迂闊どころの話じゃないこんな馬鹿な行為に出ればそりゃおったまげるってものだよね。そしてその衝撃は、ずっと私を捕まえようとしていたシズキちゃん当人こそが一番大きいだろう。


 だからいいんだ。馬鹿げたことをしている、そうとしか思えないからこそ、私は捕まらずに済む。


「えっ──」

「残念だったね」


 拘束できた。何はともあれ私の自由を奪ったと信じたであろうシズキちゃんは、べりべりと私の体から剥がれる「何か」に目を見開く。これぞ新技、私なりの変わり身の術!


「鎧糸・擬態バージョン!」



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