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134 曲芸

「ちぃっ!」


 着地前、空中にいる無防備を狙って飛びかかってくるミニちゃん! その数は三体! どうやらショーちゃん一体+ミニちゃん三体が無理なく操れる範囲でのシズキちゃんの最大戦力のようだ。


 キャパオーバーするとショーちゃんたちを操れなくなるばかりか自分すら動けなくなってしまうとのことなので、これ以上数が増えはしないと思うが──一+三体でも敵側としちゃ厄介この上ない!


 どうにかして回避しないといけない。ここでミニちゃんに捕まってはせっかくやり過ごしたショーちゃんに追いつかれて背中から打たれることになる。それだけは絶対に避けなくてはいけないので、私に求められているのは空中での機動。それも糸を伸ばす暇がないからには生身の力でやらなくてはならない。


「攻魔の腕輪! オン!」


 生身の力で、とは言っても私の身には私以外の力も備わっている。その内のひとつが功魔の腕輪! あまりに威力が高いこれは直接シズキちゃんへ向けてはいけないというルールになっているが(というか私が自分からそう縛った)、その他の用途については自由だ。


 撃ち放ったそれが捉えたのは地面。直下に向けて放出させた闇の魔力のレーザーの反動によって落下を始めていた私の身体はもう一度推進力を得て、放物線の軌道を変えることに成功。一体目のミニちゃんをひらりと躱し──っぐ、二体目がすぐ目の前だ。これはマズい、糸繰りどころかレーザーの二発目を撃つ余裕もないぞ。


 だったら!


「ミギちゃん!」


 呼び終わる前に私は動いていたし、ミギちゃんもそれに応えてくれていた。右足が急激に形を変え、重心を極端に偏らせる。それと同時に私自身も大きく足を振り上げる。蹴りは得意技だ。見えない何かを思い切り蹴り抜くつもりでぶんと振った足の勢いと重みで私の身体が流れ、空中にいながら体勢が入れ替わる。それによって再び軌道も変わり、二体目のミニちゃんは元々の私が辿るはずだった先へと飛び込んでいったために何も捕まえられなかった。


 さて、ぐるぐる回ったがもう地面も近い。いよいよ着地だが……どうやら三体目のミニちゃんは後詰めみたいだ。私が接地するその瞬間を狩るべくして待ち構えている。そこを突かれちゃ曲芸じゃどうしようもない。


 接触はもう避けられない。なら、必要なのはミニちゃんを振り払えるだけのパワー。


「魔蓄の指輪、全開!」


 地に足がつく、かどうかというところでしっかりと襲ってきたミニちゃんを蹴りつける。もちろん私はまだ地面と空中の境い目にいる。体勢は着地するためのそれ。こんな状態で腰を入れて力のある蹴りなんて繰り出せるわけもない。けれどミギちゃんと魔蓄の指輪があればそういう常識も引っ繰り返る。


 今の曲芸で掴んだ要領でミギちゃんへ重心を持っていく。ただし今度は姿勢制御ではなく蹴りつけることが目的なので大袈裟な変形はなしで、元の足の形から逸脱し過ぎない程度に留める。そして自前の魔力に加えて魔蓄の指輪による魔力ブーストをオンにして、蹴りの威力を最大まで高める。


 魔力全乗せのミギちゃんキック。今の私に出せるおそらくは最大火力──そこまで行けばもはやタイミングも体勢も大した問題にはならない。


「どっせい!!」


 ギィン、と鍔ぜり合うような硬い高音を私の右足とミニちゃんが立てる。向こうもミギちゃんと同じ素材なんだから硬いのは当然で、衝突によるビリビリした感触が私にも返ってきたけど、力負けはしなかった。蹴り抜くことでミニちゃんは吹っ飛び、私は無事に地面へ戻ることができた。節約のために魔蓄の指輪をすぐ切ってひと息。


 危なかったけどどうにかなった──が、うかうかとはしていられない。背後も含めて私の周辺にはショーちゃんとミニちゃんが散らばっていて、捕まりこそしなかったが囲まれているのだ。さすがにまた一斉にかかってこられたら対処できるか怪しい。


 ミニちゃんまで攻撃に回すのはシズキちゃんにとっても身の守りを失うリスクを背負っていて、そこはまさにコマレちゃんが言っていた突くべき部分なんだろうけど、その前に私が有効打を貰ってはなんにもならない。


「頼むよミギちゃん」


 このままシズキちゃんへと突進して一か八か。自分が二発受けるよりも先に彼女へ有効打二発を与えることに賭けてみるか? というあまりに前のめりな考えも浮かんだには浮かんだけど、後ろから迫るショーちゃんがもう思いの外に近いことに気付いて大人しくそれは却下する。


 地味にショーちゃんの機動力も上がっているな。私がイメージしていたよりも数段は速いし、フレキシブルだ。単に最高速が上がったってだけじゃなく、素早さもあるってことね。


 私が戦いを通して糸繰りや魔力の質を高めている間にシズキちゃんも成長していたんだな。それはきっと他の皆も同じなんだろうけど、私としてはやっぱりシズキちゃんの変化が一番目につくかな。最初は能力を暴走させて何がなんだかまったくわかっていなかった子が、今ではこんなに堂々とその力を自分の物として操っているんだから……人ごとながら我がことのように感慨深い。


 なんて勝負中には相応しくない思考に浸りながらも私の身体はちゃんと動いている。背中から伸びてきた触手をミギちゃん仕込みのステップで優雅かつ華麗に避けて(あくあまで私の主観なんで見ている皆がどう思ったかは知らない)、しかしその間にも散らばったミニちゃんたちがそれとなく私の死角へ回り込んできていることを警戒して、ふと思い至る。


 なんか私、めっちゃ視野が広がってない? それも著しく広く、三百六十度のレベルで。


 バーゲストの群れと戦ったときもこう、敵の数が多い割にはよく見えていると自分でも思っていたんだけど。あれはあくまで新しい力を手にしたことでの落ち着きとか、バーゲスト程度には負けるはずがないって本能で理解しているが故の安心感がそうさせているんだとそこまで真剣に考えたりせずに結論を下していたんだけど──どうやらそれは間違っていたようだ。

 や、完全なる間違いではなく、正確にはそれだけが原因なかった。つまりは見落としていたものがあったって感じかね。


 あのときは一応、数はいても全てのバーゲストが視界内に収まっていたから気付きようがなかったのだ。だから一体一体の行動がつぶさに見えていても一応は何もおかしくなかった。でも今は違う。私は今、ショーちゃんが後ろから伸ばしてきた何本もの触手をちゃんと振り向いて確認することもなく躱し始めた上に、その最中に見えない立ち位置へ移ったミニちゃんたちを──これまた視線を向けることなく──きちんと把握して、その動きを追っていた。


 ここまでくるといくらなんでも、落ち着きやら安心感やらで岡目八目のような視野の広さを獲得している、なんて説明では説明がつかない。だって目の届かないところまでしっかりと見えてしまっているんだからそれでは理屈に沿わない。


 ならば何が理由なのか、と考え込むのも一瞬。すぐに閃くものがあった。


 これはきっと私の視界ではなく、ミギちゃんの視界なのだと。


 ミギちゃんが見ている、あるいは感じているものが肉体を共有している私へとフィードバックされているに違いない。だからショーちゃんだけに向き直っているこの状態でもミニちゃんを見失っておらず、なんならそのもっと向こうのシズキちゃんにまで意識が及んでいるんだ。


 さすがに場外の審判たちやセコンドのコマレちゃんたちまでは「見えない」けど、ひょっとしたらいずれは、ミギちゃんとの繋がりがもっと強固になれば、私の視野は更なる広がりを見せるかもしれない。


 そう思うと、なんかワクワクしてきた!



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