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130 更なる高みへと

 全体的な印象は濃い藍色のローブ。その随所に同じ色味をしたプレートというかアーマーというか、とにかく頑丈そうなパーツが付いている。ローブの下もそんな感じで、カザリちゃんの身体をアーマーが覆っている。ただし防御力に重点を置いたものというよりも、機動力も確保された軽やかなものだ。


「見た目に反して守りは万全じゃぞ。エオリグはいくつもの魔石に精錬を重ねた後に製錬し圧縮、という工程を何度となく繰り返すことで出来上がったまさにドワーフタウンでなければ完成し得ない逸品よ。言わば純魔防具じゃな! 一番工の職人たち総出で協力させてもたった四つぽっち作るのに九十日もかかったわい」


 後にも先にもこれほど手間と資材を費やす道具作りはないじゃろう、とエオリグを纏ったカザリちゃんを見ながら彼は満足そうに言う。かくいう私も、そして皆も一瞬で勇者感マシマシになった彼女の姿に興奮を隠せなかった。


「ねえねえカザっち、どんな着心地なの?」

「悪くない。私の体型に完全にフィットしている」

「使用者の想定はしていなかったはずですから、自動調節機能があるのでしょうね」

「どうよ、強くなった感じとかする?」

「……する」

「おー!」


 カザリちゃんの肯定にますますテンションが上がる。やっぱりね、魔石から作られているとあってはただの防具ってこたーないよね。でも具体的にはこれを着込むことで何がどう変わったんだろうか?


「そいつは魔術師向けのエオリグ、魔力が術へと変換されるのを手助けする上にその途上で魔力に反応し、防御力が高まる! 素の強度が低い魔術師の隙をカバーする装備っちゅうわけじゃな。それだけじゃなく、動きのほうも多少は鎧が補助するぞい」


 ほほー! ロードリウスが水の鎧でやってたみたいなことをエオリグもできるんだ。パワードスーツね、パワードスーツ。超いいじゃん。確かに魔闘士ほど頑丈じゃないしキビキビも動けない魔術師タイプには垂涎ものの装備だね。何せ術を使っている間に勝手に守ってくれるし勝手に動けるようにしてくれるってんだから。


「お次は魔闘士向けのこいつも試してみい」


 橙色のバングルが滑ってくるのを、ナゴミちゃんがキャッチ。そして私たちに顔を向けるけど、このパーティで魔闘士と言えばそれはナゴミちゃんのことだ。どうぞどうぞと装備を促せば彼女はカザリちゃんと同じように左手にバングルを嵌めて──変身。


「わあ……!」


 ローブじゃない、こっちは本当に鎧って感じ。でも一般的な鎧というより、どことなく生物的でマッシブな造りをしている。例えるならそう、特撮作品のヒーローなんかが近いかな。全体的にカザリちゃんよりごついけど、それでも全身鎧とかとは比較にならないくらいスマートで、こっちも機動力が確保されているのが見た目だけでもわかる。


「魔闘士は優れていればいるほど装備も相応でなければ本当に体一つで戦わねばならんという悩みが付き物……しかもそれでいて道具っちゅうのは消耗品じゃからのう、出費も馬鹿にならん。選兵団がいざというとき以外にわしらの作った装備を身に付けんのもそれが理由じゃ。ただしエオリグそいつにそんな悩みは無用じゃぞ! そいつはお前さんが生きている限り絶対にお前さんより先に壊れたりはせん!」


 熱の入った彼の説明によると、魔闘士向けのエオリグは魔術師向けよりも魔力との親和性・・・が高くなるように作られていて、魔闘士が自身の肉体を強化するのとまったく変わらない効率と倍率でエオリグも強化できるんだとか。これは選兵団の専用鎧でも……いや、それに限らず他のどんな装備品でも普通なら実現できないことだと彼は言う。


「どれだけ魔力と馴染みのいい装備だろうと我が身ではない以上は取りこぼしも必ず出る。じゃが、エオリグは前魔王期の終結からこっち、選りすぐってきた最高の魔石を惜しみなく使い現ドワーフタウンの持ち得る知識と技術を余さず振るって完成した、過去の遍くを凌駕するハイエンド品……! 必ずやおぬしら勇者を更なる高みへと連れていくじゃろうて」


 その言葉に、実際に装備しているカザリちゃんとナゴミちゃんは納得しているようだった。実戦で試すまでもなく既にエオリグの力の確かさがわかっているんだ。いやあ、本当にすごい装備なんだなぁ。


 まとめると魔術師向けのエオリグは非力かつ術を使うとき無防備になりがちな術師を守るためのもので、魔闘士向けのエオリグは強化効率を最大化させて闘士がもっと攻めやすくなるためのものってことだな。欠点のカバーと、長所を伸ばすのと。方向性は違えどどっちも有用極まりないね。


「もしもこれが量産できたら魔王期も余裕で乗り越えられちゃうんじゃ?」


 私がふと思い付いたままに漏らした誰にともなくの問いに、ぬははとドワーフの面々は可笑しそうに笑った。


「そりゃあ確かにそこらの魔族なんて目じゃなくなるな」

「ああ、問題は時間も材料もとんでもなくかかるっちゅーのと」

「そもそも装備できるもんがおらんって点だな!」

「それさえ解決できるなら魔王期だって怖かないな、がっはは!」


 うむ? 装備できる人がいないって……何故に?


 私の疑問に、おそらくはエオリグ制作を主導したであろう風呂敷のドワーフが顎のあたりをぼりぼりと掻きながら答えてくれた。


「それがのう、最高品質の魔石を数え切れんほど費やして作られたエオリグにはそれそものに力が宿っておるからに……おいそれと身に着けては危険なんじゃよ。生半な実力しか持たん者ではしまうもんでな」


「え。食われてしまう……というと?」


「言葉通りではないぞ、魔力との馴染みが良すぎる上に、質の良さまで欲するからのう……わしらがそうなるように作ったんじゃが。要は半端者では身に着けただけで動けなくなる。ましてや稼働させようとすれば最悪は命にもかかわるじゃろう」


 えぇ……そんなあぶねーもんを気軽に渡した上に使わせたの? と私たちがドン引きしていることに気付いてか、慌てたように彼は続けて。


「ゆ、勇者ともなれば当然にそんな心配はない! そうとわかっていたから使わせたんじゃよ。慈母の女神様からお前さんらに装備を作るようにと仰せつかった際にも確かに言われたからのう。勇者であればどのような装備であっても使いこなせるから、何も気にせず最上の物を作り上げるようにと」


「お告げで、ですか」


「うむ。そのお言葉通りにしたとも。故にこその勇者装甲エオリグ! お前さんら以外にそいつを装備できる者はともすれば世界中を探したって見つからんかもしれん。まずもって女神の加護なくしては扱えるような代物ではないからの」


 うぬぬ、また女神のお世話様ってか。そりゃそんだけ特別な装備を貰えるってのはありがたいことなんだけど、私たちからすれば女神はただ過酷な戦いを押し付けてきているだけの誘拐犯でしかないからね。こんな風にさすがは女神様じゃ……みたいな顔で感じ入るようにされても微妙なリアクションしかできないんだよなぁ。話している彼だけじゃなく、頭領会の全員が同じようにうんうん頷いているし。はーやだやだ。


「しかし問題は、見ての通りに魔術師向けがふたつに魔闘士向けがふたつ。この四つまでしか作れなかったことじゃ。材料である一等品の魔石がちょうど尽きてしまってな」


 一人だけエオリグを装備できないことになるが、どうする? と、少しだけ決まりが悪そうにしながら訊ねてくる彼に、私たちは返答よりも先にまずお互いの顔を見合わせることになった。


 これはちょっと、揉めそうな予感……。



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