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13 どっちつかず

 ナゴミちゃんがしてくれたアドバイスが効いたのか、翌日の昼頃にはどうにか魔力を操る感覚っていうものを掴むことができた。


 と言っても、ナゴミちゃんのようにすぐ高レベルな芸当ができたりはしてないんだけど。

 バロッサさんにも追いつこうとするなら先は長いよと言われてしまった……でも昨日までとは見違えたとも言ってくれたので、私も悪くはないんだろう。そう思っておく。うん。


 という流れを経て、それから日にちが過ぎた。今は訓練四日目。私は皆の訓練風景を眺めている。今日から彼女たちは二人組を組んでより高度な段階に進むとのことだったので、いったいどんなことをしているのか気になったのだ。


「コマレも、とりあえずひとつの属性に絞って練度を高めていくのがいいんじゃないかと思ったんですが、バロッサさんが言うには扱える属性は満遍なく練習を重ねたほうがいいとのことでした。そのほうがひとつずつよりも習熟が早い、と」


「私は逆に、ひとまずは闇に専念して力を伸ばしていけと言われた」

「本当に逆ですね。これはコマレたちの扱える属性の違いからくるものなんでしょうか」

「基本属性と呼ばれているコマレの四つと、私の光と闇。充分にあり得る」


「ちなみにコマレは特に属性で得意不得意はないのですが、カザリさんはどうです?」

「光のほうが扱いやすい。でも、出力は闇が上」

「差があるんですね! コマレたちを組ませたことといい、バロッサさんは何か気付きを与えようとしている気がします。もう少し考察に付き合っていただけますか? 実践訓練はそのあとということで……」

「構わない。私も、コマレと魔術について認識の擦り合わせをやっておきたかった」

「ありがとうございます。それでは、魔力が人の持つエネルギー……生命力の一環だという点に着目して気になったことが──」


 わーお。カザリちゃんとコマレちゃんは練習もそっちのけでなんだか高度な議論を重ねている。

 訓練四日目のぺーぺーとは思えないよね。私からすれば二人とも既に立派な魔術師だよ。何言ってるのかもさっぱりだったしさ。


 これ以上見ていてもあまり意味はなさそうなので、私はその場を離れて裏庭の別の一角へ移動する。次はナゴミちゃんとシズキちゃんのコンビの練習風景を覗いてみよう。


「いいよ~、ばっちこぉいシズっちー」

「い、いきます……えい」


 距離を置いて向かい合った二人が何をするのかと思えば……シズキちゃんがえいって感じに腕を伸ばす。するとそれに合わせて傍に浮かぶ「ショーちゃん」こと例の黒い物体がその一部を槍状に変えて、勢いよくナゴミちゃんに向けて伸ばしていくではないか。


 シズキちゃんが気絶したときにもやっていたあの攻撃だ。あぶなっ、と思わず飛び出しかけたけど、ナゴミちゃんは見るからに平気そう。槍はしっかりと彼女の胸あたりに命中しているけど、微動だにしていない。


 えっ、すごいんだけど。


「つ、次いきます……えいっ」


 槍が引っ込められた。と思えばすぐに射出された。今度は二本。仁王立ちするナゴミちゃんの右肩と左膝に命中。でも、ナゴミちゃんはへっちゃらだ。そんな感じで本数と狙う箇所を変えつつシズキちゃんの攻めは続く。……ははーん、わかってきたぞ。


 これ、アレだな。ナゴミちゃんは被弾箇所だけを守ってるんだな。瞬間的な判断で必要な部位のみへ魔力を纏わせる訓練なんだろう。攻撃役をシズキちゃんが担うことで、ショーちゃんを自在に操作するいい訓練になっているわけだ。


 うーむ、なんというか、えらく実戦的だよねこのやり方。これは確かに高度だわ。

 私じゃ逆立ちしたってできないね。攻撃側も防御側も。


 ショーちゃんの槍はあの日と遜色ない……いやもっと速いようにも思える。威力は控え目にしているかもしれないけど、それでも見た感じはまともに受けて平気でいられるようなものじゃないと思う。

 そんなものを魔力越しとはいえ何発も受けて笑顔のままでいるナゴミちゃんは化け物か? 私が同じことをしようもんなら一分後には穴だらけのチーズになってそう。


 てか、シズキちゃんもすごいな。異能力ユニークだったっけ? 理屈がわからないだけに一番苦労しそうな立場だったのに、もうあんなにショーちゃんを操れるようになってるんだなぁ。


「ナゴミは魔闘士というスタイル上、近距離が主戦場になる。身一つで敵陣にだって飛び込む危険な役目を負うからには最初に覚えるべきは防御だ。攻撃の技術はそれについてくるものでもあるからね」


「バロッサさん」

「で、問題はあんたのスタイルだ。休憩はもういいね」

「うっす!」


 お呼びがかかったのでまた移動。私専用の訓練場所となったログハウス近くの定位置に戻って、バロッサさんからお言葉をいただく。


「これまでにわかったことを改めてまとめようか。まず、あんたは魔術師タイプでもなければ魔闘士タイプでもない。そのちょうど中間といった立ち位置にいる。魔力を放つのにも留めるのにも同程度の素質があったからには、そう判断するしかない」


 同程度の素質、というのはバロッサさんなりの優しい表現だ。

 実際にはどっちも大した才能がなかったっぽいんだけど、私自身がそれを卑下してもしょーもないのでとりあえず「はい」と頷いておく。


「そして適性属性だが……あんたにはそれもない。強いて言うなら無属性に適性がある、ってところかね」


 無属性とは、火とか水みたいな特定の属性に含まれない魔術全般を指すものだ。魔力による身体強化も無属性扱い。あとは他にも、物を動かしたりだとか遠くを見たりだとか、そういうことも無属性はできるらしい。


 まあ無属性がすごいって話じゃなくてあくまで他の属性に分類できないものがひとまとめにされているだけで、私がそれらを使えるようになるかはまた別問題なんだけどね。


 そういえば、ついさっき知ったんだけどナゴミちゃんの適性は土属性、シズキちゃんは水属性なんだって。

 土は魔闘士に最も適している属性のひとつのようだ。シズキちゃんのほうは魔力や適性属性といった資質の全てがショーちゃんに注がれているようで、おそらく魔術を使うことはできない……できたとしてもショーちゃんを十全以上に操れるようになって以降のことになるだろう、ともバロッサさんは言っていた。


「どっちつかずのタイプに属性魔術への適性なし。クアドラプルや光と闇のダブルほどじゃあないが、あんたはあんたで微妙な珍しさで固まってるねぇ。指南者泣かせもいいとこだ」

「へへ、それほどでも」

「称賛に聞こえたのかい。都合のいい耳をしているね、まったく」


 だがまあ、とバロッサさんは口角を上げて。


「教え甲斐はあるってもんだね。他の四人は一を教えれば勝手に五でも十でも習得しちまうもんだから張り合いがない。あんたみたいなのも一人はいたほうがいいだろうさ」


「覚えが悪い子ほどかわいいってやつっすか。照れますね」

「自分で言うかい……ま、それも否定はしないがね。だけどあたしが言ってんのはそういうことじゃなく──いや、なんでもない。とにかくあんたの今後の訓練についてだが」


 むむ、思いっきり話を逸らしたぞ。こういうことされると何を言いかけてたのか気になってしょうがないんだよなー。

 でも指導中に茶々や軽口を入れようもんなら鬼教官であるバロッサさんは本気で怒るので掘り返すことはしない。したら死ぬ。


「生憎と適性を持たない子を見た経験はあたしにもなくてね。だからここは、あたしの師匠に倣おうと思う」

「バロッサさんの……師匠?」

「ああ、あたしの親代わりでもあった人さ。もうとっくに亡くっているが、あの人もあんたと同じ、無属性にこそ強い変わった魔術師だったんだ。そして前回の魔王期を前線で生き抜いた凄腕でもあった。あの人の戦い方を、教えてやろう」


 ごくり、と私の喉が鳴った。



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