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129 勇者装甲

 あ、やっぱり……クシュベルの死は彼らにとっては想像するだけでも辛いことなんだ?


 そりゃあそうだよね、あれだけ口々に褒めていた特別な鉱山が、鉱山としての力(っていう表現でいいんだろうか)を失っちゃうとなれば、クシュベルに支えられているドワーフタウンの住人としては悲しいだろうし、歓迎できるはずもない。


 ただ、そういう地元民としての悲しみを別にしてもクシュベルが死んじゃうのはヤバいことなんじゃ? と、そう感じたのは私だけじゃなかったようで。


「地脈においても重要な地点だというのなら、クシュベルから特別な力が消え去るのは……何かしら良くないことを引き起こすのではありませんか?」


 そうそれ、私もそれが訊きたかったのよ。楔の永続化でクシュベルが永遠の番人になって、この地がずーっと要点として機能し続けるとしても……でもそれだと肝心の、クシュベルが番人に選ばれた理由である地脈の集中がなくなっちゃって、第三大陸全体にとって良くない影響が出そうだ。と、素人考えではそうとしか思えないんだけど、ロゴンさんは首を振ってそれを否定した。


「そうはならん。大陸魔法陣自体が地脈に沿ったもの、楔の永続化が起こっても地脈の流れは変わらんよ。クシュベルが失うのはあくまでも、地脈の結集がクシュベルの内部にて煮詰まり魔石へ変換されるという『鉱山としての価値』のみ。それ以外には何も影響など出んとも」


 鉱山としての死を迎えたとしても大陸のへそであることには変わりはない、ということらしい。ここら辺はちょっと私たちには理解が難しいけど、けど誰より山とか大地の力に密接なドワーフがそう言うからには間違いないんだろう。


 なんでも地脈パワーに満ち溢れたクシュベルの内部はとっても危険で、彼らのような熟達のドワーフでなければ道を通したり埋め直したりできないようだ。だからこそクシュベルの足元がドワーフタウンになったってことだね。せっかくの第三大陸屈指の魔石スポットでも他の人種じゃ手を出せず、それだと宝の持ち腐れでしかないんだから。


「でも、じゃあクシュベルが鉱山でなくなっちゃったとしたらロゴンさんたちはどうするんですか? ドワーフタウンがドワーフタウンでなくなっちゃいますよね」


 これは大陸魔法陣とは関係のないことだけど、純粋な疑問として気になったので訊ねてみた。あるいは彼らが見せた先ほどの神妙な雰囲気がそうさせたのかもしれない。


 ドワーフたちはクシュベルが特別な山だからここにいる。その特別さに惚れ込んでいるからだ。もちろんドワーフタウンはエルフタウンと同じく魔王期への支援としてドワーフの本国から人材や技術が流れてきたことで成り立った街ではあるが、その設立にクシュベルが大きく寄与しているのは確かなはず。


 だとしたらクシュベルを失った彼らは、最悪の場合この国を出て行ってしまおうとする可能性もあるんじゃなかろうか──。


「これこれ勇者のお嬢ちゃん、わしらをそう見縊らんどくれ。クシュベルを失くせども本分を見失ったりはせん」

「うむ! わしらがこの地におる理由は魔族に抗う戦士たちのためよ!」

「生憎とわしらは力こそあっても戦場での振るい方を知らんのでな」

「その代わり、武具や防具をわしらの力として選兵団を始めとした人間や獣人の戦う者たちへ送っているのだ!」

「そしてその筆頭が──勇者様らよ! 他ならぬおぬしらであることを忘れんでもらいたい!」


 断固とした口調で彼らは言い、他の面々も深く首肯している。そしてその意思を統一するようにロゴンさんが深い声音で言う。


「この通り、わしらの在り方もまた変わらないとも。永続化が為ればクシュベルの膝元からは離れることになるだろうが……そうなればわしらの生み出せる魔武具や魔防具も大きく数を減らすことにはなろうが、だとしてもじゃ。わしらのすべきことはただひとつ、この国の支えとなることじゃよ」


 それを見誤ることはない、と一際に力強くロゴンさんは断言した。それから。


「そも、志を忘れて我欲に飲まれるようでは遥か昔にこの国へ渡った偉大なる先祖様へ申し訳が立たん! 我らドワーフは誇り高き種族、多人種と共に人類を守る使命を背負っている以上、道を違るようなことは決してない! あんた方もそう信じてくれるかね」

「う、うっす! 信じます。失礼なこと訊いちゃってすいませんでした」


 若手ドワーフたちを叱りつけていたときとはまた違う迫力に満ちたロゴンさんを見れば、その言葉に嘘があるだなんて疑えるはずもない。いらない質問をしてしまったと私が頭を下げれば、けれどロゴンさんを含めて頭領会の人たちはまたがははと笑って。


「なーに気にするな、それもおんしが国と人々を想ってこそのもの!」

「そうだそうだ、勇者ならば問わねばならん問いだろう」

「わしも逆の立場なら信用なんからのう、こんな昼間から赤ら顔をしてるような奴がいる頭領会などと!」

「なにぃ、それはわしのことを言っておるのか? この鼻は子どもの時分に炉で焼いたのが原因だと何度も!」

「ひっひひ、誰も信じとらんとわしも何度も言うとるぞ!」

「左様、火傷の見分けくらいつく。どうせ仕事中にも酒を飲むための言い訳だろうて」

「待て待て、本人の言い分では火傷ではなく火の赤みが移ったとのことではなかったか?」

「それこそあり得ん! どんな絶妙な火加減ならそうなる!?」


 あちゃあ、またワイワイガヤガヤが始まっちゃったよ。しかもめちゃくちゃ脱線しとる……なんてその切っ掛けを作った私が呆れちゃダメだな。責任を取ってここはちょっと、無理やりでもいいから話題を本線へと戻そうか。


「あの! それでその、私たち用に作ってくれたっていう装備なんですけど」

「おお! そうだったそうだった、それを渡すのが目的だったな! すっかり頭から抜け取ったわい!」


 ロゴンさんとは別の一人が自分の足元から風呂敷みたいなのを取り出してテーブルの上に置いた。風呂敷は、そう大きくない。その膨らみもだ。これが例の装備だとすると相当小さいってことになるけど……あれ? もしかして貰える物って魔道具なんだっけ? 私はてっきり、選兵団の人たちの本気装備みたいな感じですごい鎧とか武器が出てくるものだと思っていたんだけど。


 はて、と思いながらも見守っていれば結び目を解かれた風呂敷がぱらりと広がり、その中身がお目見えとなった。あ、やっぱりそうだ。そこにあったのはバングル。つまりは腕輪、それが四個。その内のふたつが藍色に輝いており、もうふたつが橙色に輝いている。


 色味は私の持っているものとだいぶ違うけど、継ぎ目とか異素材が見受けられないこの外観からしておそらくは純魔道具だろう。それはいいんだけど……またしても私たちの頭数と個数が合ってないね。


「名付けて勇者装甲『エオリグ』! お前さんらのためだけに一から誂えた専用装備じゃよ。わしらの持ち得る全てがこれに注がれていると思ってくれていい」

「勇者装甲……?」


 腕輪を指して装甲というネーミングに引っ掛かりを覚えたのだろう、カザリちゃんのその呟きに、ニヤリと笑って彼は言った。


「お前さんは魔術師か、魔闘士か?」

「魔術師」

「ならこいつを嵌めてみい」

「…………」


 テーブルの上を滑ってくる藍色のバングル。それをカザリちゃんがさらりとキャッチして、無言のままに自分の左手首へと装着。


「そして念じてみい、そいつの力が自身へ行き渡るようにの」

「……! これは」


 変化は劇的だった。バングルが光ったかと思えば次の瞬間、カザリちゃんの出で立ちは丸っきり変わっていた……!



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