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128 第三大陸のへそ

「うむ、なるほど……いいだろう」


 ロゴンさんの目にも理解の色が宿った。私と同じくカザリちゃんが何を訊きたがっているのか見当がついたんだろうな。彼は声を張り上げて言った。


「ほれほれ、聞こえたろう! お前たちがおってはおちおち話もできんということだ! さっさと出て行かんか! まさか勇者様の邪魔をする不届き者はおらんだろうな!?」


 見物人を退かす大義名分を得たとばかりに退室を促すロゴンさんに、立ち見のドワーフたち──さっきの会話からして各部署(?)に所属する若手と思われる──は渋々といった様子でぶつくさ言いながら部屋を後にする。これは、勇者から希望したことじゃなかったらなんだかんだとまだ居座ったに違いない。ロゴンさんの怒声にはかなりの迫力があって、直接向けられたわけじゃない私でも縮み上がりそうになったっていうのに、よくもまああれだけ反抗できるものだ。


 ドワーフっていう人種がそういうもの、なんだろうなおそらく。胆力があるというか心臓に毛が生えているというか、とにかく良くも悪くも肝っ玉がデカくて小さなことは気にしないタイプの人たちばかりなんだと思われる。職人としては小さなことも気にかけられるほうがいいんじゃなかろうか? 


 まあ、物作り中と普段とでは多少なりとも変わるのかな。そうでないとモルウッドみたいな華美な街をこの人たち中心で作れるとはとても思えないし……なんて言っちゃうのは失礼にあたるかしら。


「えっと、自分は……」

「バーミンちゃんはいていいんじゃない? だってほら、エルフタウンでは托生紋のこととかも聞いてるわけだし」


 ロウジアの時点ではタジアさんに言われて大陸魔法陣の話題を耳にしないようにと席を外したバーミンちゃんだけど、その後に事情が変わってるからね。ルールスさんが施した托生紋という対抗策は魔族が迂闊に番人へ手を出すことを許さない。ただしそれは魔族に──魔王に大陸魔法陣の存在について知られているからこそ打たなきゃいけない策だったわけで。


 以前は勇者の案内人であっても秘密を少しでも漏らさないようにするために明かさないのが吉だったんだろうが、今となってはむしろ私たちと密接な関係にあるバーミンちゃんが何も知らないほうが問題になりかねない。そう判断したからこそルールスさんも挨拶の場にバーミンちゃんの同伴を許したんだろうし……だったら「ドワーフタウンの番人が誰か」っていう情報だって共有したって構わないはずだ。


 ね、と確かめればコマレちゃんを始め皆も頷く。それでもバーミンちゃんはちょっと迷っていたようだけど、結局は部屋に残ると決めたようだった。


「ふう、ようやく部屋が広くなったわい。これで落ち着いて話せる」


 若手ドワーフたちがいなくなって、確かに部屋は一気に広くなったし涼しくもなった。やっぱさっきまでのムシムシ感はあれだけ人数がいたからだったんだ。そしてすっきりした顔をしているロゴンさんはバーミンちゃんが残っていることに何も言わない。ってことは私たちの判断に任せてくれるつもりと見ていいのかな? いんだろうな。そう思っておく。


「──して、勇者様のお一人、カザリ殿よ。あんたが気になるというのは番人に関してで間違いないかね」

「そう」

「やはりか。ならば人払いは正しい配慮だったな。無論、うちに大陸魔法陣の秘密を知ったからといってそれを魔族に漏らすような粗忽者や腑抜けはおらんが……長耳から魔族の術は奇怪なものであると聞く。知る者が少ないほうがいいのは確かだろうて」


「長耳?」

「うん? ああ、エルフタウンの長であるルールスのことよ。奴とはわしの祖父の代から続く付き合いがあってな」


 おー、ロゴンさんはルールスさんと友達なのね。言い方からして単純な友人関係でもなさそうだけど、仲が悪そうな口振りでもないからきっとそうに違いない。性格も年齢もまったく違う二人だけど、なんとなく話し相手としての相性は悪くなさそうにも思えるし。


 で、それはともかくとして……ちゃんとカザリちゃんの意図を解して若いドワーフたちを下がらせたロゴンさんが言葉を濁すこともなく大陸魔法陣について言及したからには、残ったドワーフたち。頭領会のメンバーは全員が秘密の共有者だってことがわかる。実際、顔付きからしてロゴンさんのセリフに疑問を感じているような人は誰もいなかった。


 や、皆さんあまりに髭が豊か過ぎるものだから(それこそ長髭だったルールスさんを一人の例外もなく遥かに超えているくらいだ)、顔付きの見極めはめっさ難しいんだけどね? まーそれでも目付きとか居住まいとかでなんとなーくはわかるってものだ。


「番人を紹介しよう。あそこだ」


 そう言ってロゴンさんが指差したのは……窓。の、外だ。会合場であるこの建物から見える景色。そこには一面の崖肌が覗いているだけで、当然ながら番人らしい誰かの姿なんてない。


 どゆこと? と訝しむ私たちにロゴンさんはからからと笑って。


「見ての通りだ勇者様らよ。ここから見えるあの山。漲る命の鉱山こと『ロウ・クシュベル』こそがドワーフタウンの番人なのだ」

「は? ……や、山が番人? ですか?」


 意味がわからない。そう言っているも同然の疑問符だらけのコマレちゃんに、口々に応じたのはロゴンさんではなく頭領会の人たちだった。


「そうとも、あれはそれだけ特別な山なのだ!」

「クシュベルは生きておる! 魔石を何度掘り尽くそうと時間と共に復活するのはあの山くらいのものだ!」

「第三大陸のへそ・・っちゅーわけじゃな! 地脈が集う特異地点! その力が大陸魔法陣にも組み込まれておる!」

「さほど質の高くないものであれば無限に等しく魔石が掘れるスポットもいくらかあるがの。高品質の魔石が湧いて出るのはまさにクシュベルが生命力に溢れておるからよ」

「これも慈母の女神様の加護によるものじゃろう! 過酷な運命を背負う第三大陸、それを守る連合国の民への贈り物じゃ!」

「違いない。だからこそ大陸全土に届く魔法陣などという大掛かりに過ぎる魔法も成功したのだ。決して人の力のみに拠るものではなし」

「この地に住まう我らは本国のドワーフよりも恵まれとる! 第二大陸のへそでもここまで力強い山はないようだからな!」

「ほんに素晴らしい山よ、クシュベル! そして我らがドワーフタウン! こうも掘り甲斐があり作り甲斐のある環境が他にあるか!?」


 いいやない! と口を揃えて言い放った彼らは今度は一斉にがはははと笑った。いやホント、元気いっぱいだねドワーフさんたち。圧倒されっ放しだよ。クシュベルよりもよっぽどエネルギッシュなんじゃない?


「あ、あのすみません。ロウ・クシュベルが地理的にも鉱山としても特別なのはわかりましたが……その、それでもどうやって番人を担っているのかが疑問で。たとえば托生紋などはどうなっているんでしょうか」


「ルールスの例の術に関しても無論のこと、他の番人と同様にクシュベルへ施されておる。誰か一人でも命を落とせば共に末路を辿るという点も当然に同じよ」

「え、それでは……」

「うむ。そうなればクシュベルは鉱山として死ぬ。溢れる生命力の全てを捧げ、その後は大陸魔法陣存続のための要点としてのみの機能を保つことになる。大陸そのものが沈みでもせん限りは──否、たとえそうなろうとも魔法陣は維持されるだろうて」


 重々しくそう言ったロゴンさん。それに対して他のドワーフからも何かしら声が上がるかと思えば……そうなったときのことを想像でもしているのか、全員が一様に神妙な様子で黙り込んでいた。



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