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124 勇者としての私

 これまでミギちゃんのケアはシズキちゃんに任せ切り。純魔道具の魔力が切れたらコマレちゃんたちに預けて復活を待つみたいに、一アイテムとしてミギちゃんを扱ってきた私だけど、これからはそうはいかない。


 もはや身に着けているとかそういう話ではなく、文字通りの一身になっているんだからミギちゃんの不調は私の不調。他人レベルの関係性になってしまったシズキちゃんに頼るのではなく、もしも何かあれば自分でどうにかしなくてはいけなくなった。


 それを預け直しの手間がない、つまりは片足生活を余儀なくされる期間がなくてラッキーだと捉えるか、シズキちゃんに任せておけば安心だったのがそうじゃなくなったというアンラッキーだと捉えるかは、ちょっと判断に迷うところだけど。まあどちらにしたって外部からの手が加えられない、自分次第──いや自分とミギちゃん次第になったことを受け入れる以外にはないわけで。良くも悪くも今後の私はそういう状況に慣れなきゃいけない。


 パワー手袋と聴力強化イヤリングとお別れして、代わりにミニちゃんがミギちゃんになって。戦力的にはむしろ増していると言っていいだろう。それだけに、その新たに得た力をどうするか。十全に戦闘で役立たせられるかどうかで一人の勇者としての私の価値は大きく左右される。


 この変化を強みとして扱えなかったらむしろ私は以前より弱くなってしまう……なんて言ってもバーゲスト戦での手応えからしてそんな心配は実のところそこまでしていなかったりするんだけど、たった一戦じゃハッキリしたことまでは言えないからね。何ひとつとして問題なし、などと言い切れはしない。


 相手がバーゲスト以外だったら? 一戦ではなく二戦、三戦と連続したら? ミギちゃんを活かすためにこれまでとは違った集中力や体力を使うんだからあらゆるシチュエーションにおいて「これまで通り」はあり得ない。その差異を意識的に埋めていく作業は必須だろう……妹の練習に付き合わされるときも、怪我の有無で体の動かし方や戦い方はちゃんと変えなきゃならなかった。これもそれと一緒。怪我どころじゃない変化が起きているってことを考えたらもっと慎重に、それでいて大胆な自己改革が求められる。


 妹との組手がとんでもなくシビアだっただけにそこら辺の感覚は磨かれているし、最近はあまり大きな怪我をしていなかった(これは後に引き摺るような後遺症がなかったって意味でね)と言ってもまだ錆び付いていないとは思うが、さてどうかね。


 私はちゃんとミギちゃんを使ってあげられるのか。それができたとして……魔物はともかく、魔族にも通用するのか。四災将には、魔王にはどうか。


 ううん、大丈夫だ。足技が増えただけじゃなく、ミギちゃんのおかげで糸だって強化されているんだから。新しい私にできることは蹴るだけじゃないんだ。スタンギルやロードリウスと戦った経験上、強化された糸なら四災将にだって間違いなく通じる。きっとアンちゃんだって苦しめる。少なくともパワー手袋に頼っても力負けしていた以前よりはずっとマシに戦えるはずだ。


 だから結局は自分次第。そこに戻ってくるんだよな。強くなりたい、そう願った通りに私は──望む形とはだいぶ違ったけれど──ぐっと強くなった。その強さを上手に操れるか。敵へぶつけられるかを、今後はもっと意識していかなくっちゃ。


 ただひたすらに、我武者羅に戦う時期は終わったってことだね。


「どうかしたのハルっちー? むずかしー顔してるけど~」


 通り過ぎる大きな湖に皆が視線を奪われている中で、隣のナゴミちゃんからそんな風に声をかけられた。


 モルウッドの華美なホテルで一晩を明かした私たちは、ドワーフタウンがもうすぐだってことで……つまりは別に早朝から慌ただしく出発しなくていいってことで、久しぶりに朝方をゆっくり過ごせた。昨日もまあ目覚めから準備からゆっくりと言えばゆっくりだったけど、皆して病み上がりならぬり上がりだったものだからノーカンだ。時間的にはゆっくりでも心情的にのんびりしていたわけじゃないから私の中ではノーカンったらノーカンなのだ。


 とにかく先を急ぐのがデフォルトになっていてもうなんとも思わなくなっていたけど、ホテルの部屋で落ち着いてモーニングを頂くのはやっぱいいなぁ。贅沢な時間を過ごしてるって感じで癒される。久しぶりなだけに余計に身に染みた。


 ああいう過ごし方を楽しめるのって、なんか大人だよね。ちっちゃな頃は親に付き合ってカフェとかに入っても楽しくもなんともなかった覚えがある。めっちゃ退屈してた。でも今はもう違う……いやまあ、今でも一人だとカフェでそう長くは落ち着けないだろうとは思うけど、それはそれとして。そういう時間が退屈なだけのものじゃないと知っているってだけでほら、大人じゃん? レディの余裕ってものがあるじゃん?


 んで、素晴らしい朝を堪能して優雅にホテルを出て、またいつものバーミンちゃんの駆る爆走馬車に乗っているわけだけど、やっぱ皆の雰囲気もいいよね。モルウッドの景観の良さとかにも助けられてロードリウス襲撃でのあれこれが全てリセットされているように思う。私もだいぶリフレッシュできてる自覚があった。


 湖面を泳ぐ大きな青い鳥を見ながらコマレちゃんたちが楽しそうに話しているのを微笑ましく眺めて……いつの間にか思考が深く、重くなり始めていたのをナゴミちゃんに察知されてしまったらしい。こういうとこ、のほほんとしているようでかなり鋭いんだよなーナゴミちゃん。


 言葉数の少ないシズキちゃんの内面をいつもうまくキャッチしている印象があるし、コマレちゃんやカザリちゃんみたいな頭脳担当でこそないけど、大事な場面での判断を間違えない。そういう安心感を持たせてくれる子だ。


 そのバリバリの感受性は私に対しても遺憾なく発揮されるってわけだね。……それとも度々指摘されてるみたいに、単に私が顔に出し過ぎてる可能性もなくはないけど。そこはもうナゴミちゃんが鋭いんだってことにしておこう。それでいいじゃん。ね?


 おっとと閑話休題だ。さーてナゴミちゃんの問いかけにどう(誤魔化して)答えたものか。


「んーと、ちょっと考え事をね」

「考えごとってどんなこと~?」

「ミギちゃんを活かした新技について!」


 少しだけ悩んで出した答えは、的外れでこそないもののちょっとだけズレた内容のそれ。楽しい時間に水を差さないために不安を口にはしない。でも下手に隠そうとしてもナゴミちゃんには簡単にバレちゃいそうだから、ギリギリ嘘とは言えないラインでなるべくポジティブな方向へ持っていく。


 その工夫が功を奏したか、ナゴミちゃんはこてりと首を傾げながら。


「新技―? でも昨日、バーゲストにこわーいキックしてたよね?」


 よしよし、特に追及なし。安心して私は笑う。


「変形させながらの蹴りでしょ? まあアレも新技だし強いんだけど、なにせ単純だからねぇ。私としてはもっとこう、ババンとした派手な技が欲しいわけよ。ミギちゃんならできると思うんだよね、そういうのも」


 何かアイディアとかない? と逆にナゴミちゃんへ問いかけて考えてもらう。もちろんそれは話題を完全にそっち方面へ持っていくための方便的な質問だったんだけど、ナゴミちゃんは腕を組んで真剣に考え込むことしばらく。


「あ、じゃあさ~」

「うんうん」

「すっごい大きくして踏み潰すのはどうかなぁ。それなら派手だし、強くない?」

「ほほー……前から思ってたけどナゴミちゃんってけっこう脳筋だよね」


 シズキちゃんへのアドバイスで巨大ハンマーへの変形を教えたときと何も変わらない、パワー全振りの提案に呆れるやら感心するやら。でも実現できたらマジで強そうじゃんそれ。


 いいね、採用。頑張ってできるようになろう。


 え、本気ですか。まあやれって言うならやってみますけど……みたいな反応がミギちゃんからはありました。



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