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123 ミギちゃん

 私たちを待ち構えるドワーフタウン。その実態に関しての説明を聞いたことで私のテンションは上がる。


 自分たちの住む街には過度な装飾を施していない、ってことはつまり依頼でもされない限りドワーフにとって飾りは不要なものなのかしら? 物の機能性、実利を追求するのが種族的な特徴なのかも。自分の手で作る製品とか商品にはね。


 いいじゃないか、職人って感じで。そんな種族が作る勇者専用の装備品……いったいどんなものが貰えるのかますます楽しみになってきたよ。


 と言っても受け取りは今すぐじゃない。ドワーフタウンに踏み入るのは明日なのだ。今日はもうゆっくりと休むだけ。ということでいつものようにバーミンちゃんリサーチのおすすめスポットで食事を済ませて(泊まるホテルはモーニングしか出してないタイプだった)、モルウッドのちょっとした名物だという有名なお風呂屋さん(ル・ローデル・スパとかいうおしゃれな響きの施設だ)で汗を流し、ちょっと夜の街での散歩を楽しんでから(言うだけあって確かに街並みはどこもかしこも綺麗だった。私たちと同じ目的でぶらついているであろう人たちも大勢いて賑やかでもあった)、ホテルに戻ってバーミンちゃんは個室へ、私たちは十人でも止まれそうなとんでもなく広い一等室へ。


 それから就寝……なんだけど、その前に私はミニちゃんにお願いして擬態を解いてもらうことにする。


「気ぃ張って疲れたっしょ。ミニちゃんも休んでちょうだいな」


 ぜんぜんまだまだ! みたいな意思が伝わってきたけど、私の厚意を無下にするつもりもないようでミニちゃんは大人しく元の色に戻った。なんだったら寝ている間くらいは私の足から離れてくれてもいいんだけど、そもそもそれはできないっぽかった。やろうと思ってももう分離は不可能なのね。本当に一体化しているんだなぁとしみじみ思う。改めてすごいことになっちゃってるな、と。


「ミニちゃん、どうかしたんですか……?」

「ああシズキちゃん。だいじょーぶ、別に何かあったわけじゃないよ。ずっと変装させてたら疲れが溜まる一方になりそうだから休ませてんの」


 銭湯に入るときには生足と着ている状態とを反復させたりもしたしね。色を塗り替えるいい訓練にもなったなあれは。そして無理をさせていると勝手に思っていたけど、この感じからすると私が想像していたよりもずっとミニちゃんの疲労の蓄積は少ないようだ。いつかはぶっ通しで変装させ続けてもなんともなくなるかもしれないな。


 なんて考えながらシズキちゃんと一緒に右足のミニちゃんに触れていると、ふと思いつく。


「右足になったミニちゃんってことで、ミギちゃんはどうだろう」

「え?」

「この子の新しい呼び名だよ。ほら、シズキちゃんもこの子はもうショーちゃんの分体ミニじゃなくなってるって言ったじゃん? 区別の意味も込めて名前を変えようかなって」


 右とミニを合わせて、ミギちゃん。我ながら単純、でもわかりやすいし呼びやすいしで割といいネーミングなんじゃないかと思う。一応の相談としてシズキちゃんにも意見を頼んだけど、名前を分けるのは名案だと言ってくれた。ミギちゃんの元の持ち主としても(私としては、実情はともかくとして名義はまだシズキちゃんのものだと思っているけど)他の個体ミニちゃんと私に移った個体とで名称を変えるのは大事に感じる、とのことだったので決定だ。


 私はこれからこの子をミギちゃんと呼ぶ! 自分の右足にそんな名前をつけて呼びかけるって傍から見たらだいぶエキセントリックな人だけども。ちゃんと意味があるんだからそこはまあ、できるだけ堂々としておこう。


 ……ん、よく考えたらシズキちゃん、アイディアそのものは褒めてくれたけど「ミギちゃん」っていうネーミングに関しては褒めてなかった、というか完全にスルーしていたな? そこんとこはどう感じているんだろう。とは気になったけどわざわざ問い質すほどのことじゃないか。なんとなく訊いても私が不幸になるだけな気もひしひしとするし。うん、流しと流しとこ。


「で、当人さんはいいのかな? 名前を変えちゃっても」


 ミニちゃん改めミギちゃんとこれから呼称されることについて本人がどう思っているかも重要だ。まーなんて答えが返ってくるかは大方の予想もつくけれど、確認はしておいて損もないので確かめておく。すると案の定、オールオッケー。大変気に入ったという返答があった。そう喋ったってことじゃなくて、感覚としてそういう意思みたいなのが伝わってきたってことね。


 これまでの彼の私に対する態度からしてケチをつけてくることはないだろうと思っていたけど、まさか(シズキちゃんからは貰えなかった)名前自体へのお褒めの言葉まで頂けるとは。お世辞か? それとも本心で? どっちにしろ情緒がすごいよね。普通の生き物みたいに頭なんてないし脳みそだって持っていないのに、いったいどこでどうやってそんな風に考えたり判断を下したりしているんだろうか。


 シズキちゃんとは異なるリアクションをしているからには、生みの親である彼女の思考とか性格をトレースしているってわけでもなさそうだし……うーん、謎だ。さすがはこの超常溢れる異世界においても何も解明されていないに等しいという異能力ユニーク、あまりに謎だらけだ。


 なら私がいくら頭を悩ませたって何もわかるはずもない。ってことで思考は放棄。なんにせよ本人からの許諾も得られたからには心置きなく呼べるね。


「これからもよろしく。ミギちゃん」


 今まで以上に一蓮托生の相棒的存在になったのだ。私の口調も自然とそれに相応しい親密さを持つことになる。言い方はちょっとあれだけど、借り物だったのが自分の物になったっていう実感があるから。ミギちゃんとの間にはそういう繋がりが確かにある。


 ミギちゃんも同じものを感じているのがわかるし、ミギちゃんのほうにも私の感覚は伝わっているだろう。なんてったって一心同体になってるんだからね。溌剌と──あくまでそう感じたってだけね──「こちらこそよろしく!」と返事するミギちゃんはやっぱり今までよりもずっと元気というか、活き活きとしているように思える。その張り切っている感じが微笑ましいし、こっちまで頑張ろうって気になる。うん、私たちいい関係になれそうだ。


「……もう、その子の調整は必要なさそう、ですね」

「シズキちゃん?」


 私とミギちゃんの語らい? を黙って見ていたシズキちゃんがぽつりと言う。調整が必要ないって、どういうことだろう。私はこれまで通り時折ミギちゃんの様子をシズキちゃんに見てもらって、アンちゃん戦のときみたく疲労がひどいようなら預け直すつもりだったんだけど……その間は片足で過ごす覚悟もしていたんだけど、でもそれは無用なものだと彼女は断言した。


「わたしとじゃなくて、その子は……ミギちゃんは、ハルコさんと繋がっている。ハルコさんが無事ならミギちゃんも無事で、ハルコさんに何かあればミギちゃんも不調になる。そう、思っていてください」


 ほほう? 名前をつけたことが切っ掛けになったのか、シズキちゃんの中で今度こそ完全にミギちゃんとの繋がりは薄く、もはや親戚レベルですらなくなったようだった。例えるなら昔近所に住んでいた顔見知りくらい? 一応の血縁関係さえなくなっちゃったよ。


「でも、その。何かあったら言ってください。わたし、なんでも相談に乗りますから」


 ショーちゃんの取り扱いに関して学んできているシズキちゃんの言葉が、とても頼もしかった。



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