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122 国一番の美しさ

 いけないいけない。私ってば右足を失くしてから少しセンチメンタルになってるかもしれない。


 命懸けの戦いをしている身で、死線だって何度も潜り抜けておきながらいまさらどうしたと思われるかもしれないが、いくら勇者としての覚悟を決めたと言っても私の中身はただの女子中学生だってことを忘れないでほしい。足の一本くらいがどうした、なんて歴戦の兵士みたいなメンタルにはなれないのよ。というかなったら終わりだよ色んな意味で。


 一生を戦いに費やすのなら早いとこそうなったほうがいいだろうけど、私はこの世界を救ったら帰るのだ。戦いではなく、平和な日常に戻る。そのためには足を失くしても私らしさまで失くすわけにはいかない。ゴリゴリの戦場マインドのままだと絶対に支障が出るからね。家族にも心配……されるかどうかは微妙なラインだけど、私のほうが今まで通りの接し方をできなくなっちゃうのも嫌だ。とくればやっぱりなるべく明るく、能天気でいたいよね。


 なんと言っても元気なことだけが私の取り柄みたいなものだし? 自分で言っててちと悲しいが。


「今日はここで休むっすよー」


 一旦は右足のことを忘れ、努めてメンタルをリセットしていつも通りに景色を楽しみながら馬車に揺られること半日、魔物との遭遇みたいなトラブルに見舞われることもなく予定通りの時刻に目指していた街に辿り着けた。


 ここはドワーフタウンの手前の街。昨日のロードリウスの一件がなければ今日中にドワーフタウン入りしていたはずだが、ちょっとそれではかなり無理が出る──真夜中という危険な時間に馬車を走らせなきゃならない──ので、仕方なく明日に持ち越しだ。


 エルフタウンとは違ってドワーフタウンには馬車組合が置かれているみたいだからここから徒歩、みたいなこともないのでその点は楽でいいね。最寄りの街から地味にけっこう歩いたからねぇ、エルフタウンまで。別に苦ではなかったけどさ。


「あ、すごい。皆見て見て、立派な水槽があるよ」

「わぁ、キレイだね~」


 本日の宿に選ばれたホテルのロビーには大きな水槽がででんと鎮座していて、光る水中を煌びやかなウロコを持つ何匹もの魚が優雅に泳いでいる。その様子はなんとも幻想的で、ナゴミちゃんの言う通りめちゃくちゃ綺麗だった。


 これまでに見てきた大自然の雄大な景色とはまた違う感動を味わう。いいねー、こういうのって心を癒してくれるよね。


「水槽だけじゃありませんね。全体的に装飾が凝っているように思えます」


 受付のお姉さんに印書を見せて手続きを終えた(スルーさせたとも言う)コマレちゃんがロビーを見渡しながらそう言った。おお、言われてみれば確かにすごいのは水槽ばかりじゃないな。置かれているイスやテーブルだとか、壁とか柱、窓枠の模様とか造りがいちいち華やかというか精彩というか。


 王宮に次ぐくらい……いや、数とか派手さで言えば劣るけどそれ以外では互角以上まである、とんでもなく高級感のあるホテルだ。落ち着いた雰囲気だからぱっと見ではそうは思わないけどよくよく観察したらそれがわかる。


「もしかしてここ、すんごいお高い宿だったり……?」

「いや、勇者様を泊めるからにはそりゃー立派な宿を選んでるっすけど。でもここが相場より跳び抜けて高価たかいってことはないっすよ」

「え、そうなんだ? でもこの内装のレベルは明らかに……」

「これまで通りの価格相場とは思えませんよね」


 ねー、とコマレちゃん・ナゴミちゃんと息を合わせて言えば、バーミンちゃんはニコニコと笑いながら答えた。


「暗くなってるし宿ここに直行したからあんまし印象にも残ってないと思う吸うけど、実は宿だけじゃあないんすよ。装飾が凝っているのはこの街全体の特徴でもあるっす。んでもってその理由は、この街がドワーフタウンの最寄りだってところにあるっす!」

「! なるほど、そういうことですか」


 おん? 何がなるほどなんだろうか。いつものごとくコマレちゃんの理解力についていけない私は首を傾げたが、横ではナゴミちゃんも同じようにしていた。傾けた首の角度まで瓜二つ。強固な仲間意識の芽生えに私たちは「いえーい」とハイタッチをする。急に仲間外れになったのが面白くなかったのか、ちょっとだけむすっとした顔をしながらコマレちゃんは「いいですか」と講義モードに入って。


「つまりこの街にはドワーフタウン製の物がたくさん出回っている、ということですよ。察するにこのホテルなんかは建設からしてドワーフが携わっているのではありませんか?」

「ご明察っす、コマレさん!」


 ほーん、ドワーフ印の製品で溢れている街ってことね。装備品を始めドワーフが作る物はすごい、ってのはこれまでに散々聞かされてきている。王宮にもドワーフ製の家具はいっぱいあったっぽいしね。選兵団の剣や鎧だけじゃないのだ。


 王宮を飾るだけあって通常のドワーフ製品よりもやっぱり王宮のアイテムたちは上質な物が揃っていたのかもしれないけど、煌びやかさ以外で言えばこのホテルの家具や装飾品も同水準って考えたら、私が受けた印象もあながち的外れじゃなかったことになる。


 すごいね、良いものが作られる産地とお隣ってだけで街が豪華になってるのか。しかもただ商品を卸しているのみならず建物の建設にまで力を貸しているとなると、ドワーフの行う「物作り」は私が想像していた以上の範囲に渡っているみたいだね。


「でもそれだけじゃないっすよ、そもそもこの街の成り立ちからしてドワーフタウンと他の各街との橋渡し役になることだったんすよ。だーかーらー、なんと! ここモルウッドはドワーフにお願いして建ててもらった街として有名なんす!」

「ドワーフに建ててもらった街!?」


 街灯だとか石畳とか、景観に関わる部分や一部の建物だけかと思いきや……街そのものがドワーフ製だとはおったまげだ。もはや物作りどころじゃないじゃんそれ。ドワーフに作れないものはない、それくらいに思っていたほうがいいのかもしれない。


 さすが、魔術に精通した種族として名を馳せているエルフと並んで連合国の大事な要とされているだけはあるね。こんだけすごい技術があるなら納得しかない。手に職持ちまくりだ。


「おそよこのモルウッドでドワーフの手が入っていない箇所はない、って言われてるっす。街並みは他の追随を許さない国一番の美しさなもんで他所から観光目的で訪れる人も多いんすよ」


 自分は今日初めて来たっすけどね、とここまでの知識が全て受け売りであることをちょっと恥ずかしそうにしながら明かすバーミンちゃんだったけど、いやむしろ実体験じゃないのにちゃんと説明できるのが立派だよ。このホテルにも負けないくらい立派。彼女の知識は孤児院時代からずっとしてきたという勉強の成果だもんね。


 で、興味深い内容に感心した私だけど少し引っ掛かったところもあって。


「一番美しいのがモルウッド?」

「はい、そう評判っすよ」

「じゃあドワーフタウンは?」


 そこがドワーフの本拠地なんだからモルウッド以上に込んだ手が入っていてもおかしくない、っていうかそうでなきゃおかしそうなものなんだけど。という私の疑問を汲み取ったバーミンちゃんが笑いながら答えてくれた。


「それが肝心のドワーフタウンは見た目に拘られてないんすよね。機能性最優先で出来がった街なんすよ。ドワーフにとっての機能性っすからエルフタウンみたいに異国情緒って意味での魅力もあるらしいっすけど、出入りのほとんどはやっぱり製品の商売関係みたいなんで……まあ、一歩手前のモルウッドのほうがのんびりしていて滞在にも向いてるって話っす」


 ドワーフタウンはあくまで実利の目的ありきで行くところ。そういう認識が連合国の国民にはあるのだと彼女は言った。



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