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120 ビックリどころではないですよ

「どうなってるんですか、その足は」

「それさっきも訊いたし、説明もしたよね……?」

「訊きましたし聞きましたけど! それだけじゃ理解が足りなさそうだから訊ね直してるんですよ!」


 気炎を吐くようにコマレちゃんが叫ぶ。その迫力に私はたじたじだった。さっきの戦闘で考えなしに変形させちゃったせいで新調したばかりのハイソックスと靴がまたしてもダメになってしまって、おかげで明らかに人肌のそれではない輝きが曝け出されている私の右足。を、指し示しながらコマレちゃんは続けた。


「足の代わりになっている、どころの話じゃないように見受けられましたよ? 気のせいでないなら糸繰りにも変化があるようでした! いったいあなたの身に何が起こっているのかもっと詳しく説明しておいてください──コマレたちはそれをちゃんと知っておく権利と、知らねばならない義務があります! そうですよね、シズキさん!」


 ものすごい勢いのパスを受け取った形だけど……普段のシズキちゃんならボールを取りこぼしてあたふたすること間違いなしだったはずだけど、今回ばかりは彼女もしっかりとキラーパスをキャッチして、真っ直ぐに私に向けて投げかけてきた。


「はい。知りたい、です。ハルコさんのことをちゃんとわかっておきたい……ので、どうか教えてください。おねがいします」


 これまたものすごい重いパスだぜ。落っことしたら足の指とか折れちゃいそうなくらいずっしりとしたボールだ。となれば私もそれに負けないくらいどっしりとした構えでキャッチしないといけないな。


 って言っても、参っちゃうのは別に何も隠し立てしているわけじゃないってところだよ。どうもコマレちゃんとシズキちゃんは、それに直接問いかけてこそこないけどカザリちゃんやナゴミちゃんも、さっきのバーゲストとの戦いぶりを見て私が先の質問にあえて答えなかった部分があると……つまり仲間に対して何かを隠そうとしているのだと疑っているみたいだけど、それは純然たる誤解ってやつである。


 そりゃあ信じられないのもわかるよ? 糸も足もあまりに今までの私とは違ったし、そんでもって私は──我ながらこんなことを言うのもナルシーっぽくて恥ずいんだけども──そんな急激な変化にも振り回されることなく、割と上手に戦えていた。それこそそういう変化が起こっていると自覚した上で、それをちゃんと操って危なげなく勝利した。皆からはそんな感じにしか見えなかっただろうとは、よくわかるんだけどね?


 でも違うんだよぉ、戸惑いは私にもあったんだって。てかむしろ私こそが絶対に誰より戸惑ってたって。自分が自分じゃないみたいな感覚だったもん。誰かもっと強い人の体を借りて戦ってるような気までした。それくらいの戸惑いもありつつ、けどそれ以上にテンションが上がっていたからなんとかなっただけっていうか。戦闘前から感じていたワクワク感だけで押し切ったってのが正直なとこなんだよね。


 テンション任せの弊害だってしっかり出ていたと思う。そもそもぜんぜん危なげなくはなかったしね。安全第一に勝つなら戦法を糸だけに徹してバーゲストが近づく前に全滅させれば良かったんだけど、欲目が出てこの足を直にぶつけてみたくなった。今までにはできなかった足技もできるはずだっていう予感が本当かどうか、確かめてみたくなってしまった。そしてその欲求に忠実に従ったせいで、ちょっと危うい場面も出てきた。


 ま、私自身はあれを危ないとはちっとも思っていなかったし、余裕綽々に対処したものだから皆も危機に陥ったとは見做していないようだけど。でも調子に乗って敵の牙を間近に迫らせたのは事実なんだから、そこはちょびっと反省だ。今回は糸繰りの実験だけで充分だった。足技は足技でまた別の機会に試せばそれで良かったんだから少しばかり焦り過ぎたね。


 とはいえロードリウスの襲撃からも学習したように、悠長に「次でいい」なんて言っていられる立場でもないので……早い内に確認できたのもそれはそれでいいことだろうさ。別に逸った言い訳とかじゃなく本心からそう思っている。


 ってそんなことより、今はどう説明したものか頭を悩ませなくっちゃ。


「えーっとね、まずはひとつ訂正。重い以外は特に何も変わらないって言ったけどあれ違ったや。なんか色々とけっこー違う。戦っててそれがわかったよ」


 暗にさっきまでは本当にわかっていなかったんだってことを強調しつつ、自分でもうまく纏めきれていないままに対バーゲスト戦で得られた所見や感想、新たな感覚というものを言葉にしていく。


 まずはそう、ミニちゃんのぶんの感覚まで一緒になっているおかげでいつもより視野が広く感じたし、冷静になれてる気がしたっていう点。それとこれもなんとなくでしかないが、ミニちゃんパワーで何ができて何ができないかを体で理解できているっぽいのも大きい。糸繰りにいつも以上の自信があったのも、バーゲストに接近を許してもまったく感情が波立たなかったことも、全てこの「なんとなく」によるものだ。


 ミニちゃんと私は想像以上に一体化している。しかも想像以上にいい形で。それがこんなにも私を変えた。私の強度を──物理的な意味でも、勇者という戦う者としての意味でも、飛躍的に引き上げた。


 バーゲストとの戦いが余裕に見えたのはそういうことであって、私自身も驚いている最中だ……と自分なりに丁寧に説明したつもりなんだけど、ちゃんと伝わってるかしら。


「そ、そこまでの変化が起きたというんですか? 合体によって?」

「そー、ビックリだよね」

「ビックリどころではないですよ。だって元々はシズキさんの異能ちからの一部なわけじゃないですか。確かに今はハルコさんとひとつになっていますけど、言ってしまえばただ足の代わりになっているだけ……なのにまるで、話の印象からすると」


 他人の力を自分の物にしている。その上でまったくの「別物」にしている。そうとしか思えない、ってことがコマレちゃんは言いたいらしい。割と正しい表現かもしれない。ミニちゃんは今までだって充分に私を助けてくれていたけど、それを完全に飛び越えちゃってるもんね。


 でも、だとしたらどういう理屈で私は人様の力を我が物顔で扱えているのかっていう疑問が浮かぶわけだけど──。


「やはりハルコの体質が原因……としか考えられない。魔力だって他人の力。それを武器にできるんだから、異能力ユニークもその対象だとしてもおかしくはない」

「確かにそうかも~。魔力とは別の力だってだけで、シズっちの異能力ショーちゃんも女神様から貰ったものなんだから、それをハルっちが自分のものにしちゃえるのも理屈としては通ってるんじゃないかなぁ?」


 通っている、んだろうか? でもミニちゃんの変わり様からするとそれくらいしか理由が思い浮かばないのも事実ではある。ってことはやっぱり『健康で丈夫な体』という女神から与えられた才能が今回もいい具合に作用してくれたと考えるべきなのか。むむむ、喜ぶべきなのはわかるけどなんか複雑でもある。


 だってさぁ、この足。今はいいんだよ? 戦う上では生身よりもプラスまであって決して悪くない。だけどその後はどうなる? 元の世界に帰って、日常生活に戻るってなって、でも足はこのまま? それともそこで才能ははく奪されて、私は片足になるのを余儀なくされるんだろうか? ……とまあ、そういう目先のこととはまた別の不安だってあるのだ。


 だから素直に喜んでばかりもいられない。そして何より、こうして何かあるたびに女神の圧倒的な説明不足に改めて腹が立つんだよね。


 次会ったらぶっ飛ばすのを再チャレンジする。その決意は変わってないぞ。



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