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119 悪くないね

 ロードリウスの魔弾ごと奴をぶっ飛ばし、トドメまで刺したこの足だけど、あれはただ普段通りに蹴っただけ。自前の足でもできることではあった。


 もちろん言っておくと、魔弾を防げたのは……そしていくらロードリウスが防御に魔力を回していなかった(しかもカザリちゃんにやられてボロボロでもあった)とはいえ素の肉体からして頑丈な魔族であるあいつに痛打を与えられたのは、ミニちゃんが足になってくれたから。


 その点に関しては自前の足じゃどう足掻いたって再現不可能なのは前提として──でも蹴り方自体は至って普通。右足がただの足じゃないことを活かしてはいない。まあ当然だわな、だってあの時点じゃミニちゃんとの合体が「こういうもの」だってまったくわかっていなかったんだから。


 自分でも把握できていないものを活用するもクソもない。それにあのときの私は死にかけの窮地から命からがらに脱したばかりで、ロードリウスに負けず劣らず……むしろ大勝できるくらいにボロボロだった。頭もとにかく一刻も早くあいつを倒すっていう一本化されたシンプルな考えでいっぱいで、それ以外が割って入る余地なんてなかった。そういう意味では把握できていなくて良かったかも。下手に新しい足を活躍させようとあれこれ考えていたら結果も変わっていた気がする。


 小難しい思考を介するぶんだけ一手遅れて、一歩届かなくて。ロードリウスに逆利用されたりして体勢を立て直す余裕を与えてしまっていたかもしれない。とにかく即断即決で蹴りかかったのは正解だったと思う。あいつには決して余裕なんてものあげちゃいけないからね。


 とまあ、あのときはそれで良くて、結果オーライの万々歳だったとしても、これからはそうもいかない。ちゃんと把握しなきゃいけないし考えなくちゃいけない。新しい足を最大限に活かしていくつもりでなきゃいけないだろう。強くなるにはそうするしかない。


 最悪、この足の馴染みが悪いようならミニちゃんには普通の右足に務めてもらって、何もチャレンジせずに今まで通りの素足と変わらない戦い方で行く……ってこともできはするけどね。重量とか肌触りの違いさえ無視すればいいんだから。だけど今のところ私はこの足に対して思うところなんて一切ない。悪い意味での違和感なんてほんの小さなものさえも抱いていないのだ。


 だったらやるべきはひとつ。合体によって変化した糸繰りと同様に、変化した足そのものも大いに役立てていくべきだ。変わったことを前面に押し出していく、それが可能か否かで私のこれから先も大きく変わる。そんな予感がするからさ。


 だって私は蹴りが一番の武器。あの妹にだってこれだけは筋がいいとお墨付きを頂いているくらいなんだから。


「お願いね、ミニちゃん」


 大元であるショーちゃんみたいに「ぎぃ!」とは返事してくれないけども。でも確かに応じる気持ちみたいなものが伝わってきた。それに笑みを零しながら私は足を突き出す。水平蹴り。バーゲストは近づいて来ているもののまだ牙や爪が届く至近の距離ではないし、だったら私の蹴りだって届かない。足の長さ以上の場所にいる敵に蹴りは当たりっこない──なんていう常識とは昨日限りでおさらばだ。


「ギャウッ!」


 右足が伸びる・・・。先を尖らせて勢いよく。それが的にならないようにとジグザグ走行をしている二匹のバーゲスト、その片割れを的確に撃ち抜いて胴体を貫通した。


 よし、これは言わば足版の突糸。ミニちゃんが本来は不定形であるからには充分に実現可能だろうと思ったけど、思った以上にいいねこれ。デカくて重量があるぶん突糸より単発威力が高いな。でも片足を使うからそう気軽に連発したりはできなさそうなんで、取り回しの良さでは突糸に軍配が上がるかな。


 もうひとつ突糸に及ばない点として、射程も短めだ。あえてバーゲストの位置に拘らず蹴り抜いてみたけど五メートル先くらいまで足は伸びている……けど、本当にただ伸びてるだけって感じ。有効射程で言えば三メートルちょっとってところだろうか? 遠距離攻撃と見做すにはちょっとビミョーな長さだ。

でもまあ、元がただの蹴り……本当なら大きく踏み込んだとしても精々二メートル以内が射程だってことを踏まえればとっても嬉しい強化だ。


 一撃で魔物一体を仕留められる力強さも付いてくるし、なんとお得だろう。やっぱり新しい足、悪くないね。


 ちょっとテンションを上げつつ右足の変形を解除。膝から下が元通りの足の形に戻る。……もしこれが膝下じゃなく、太ももの根本から脚が丸々なくなっていたらミニちゃんの占める割合も大きくなって、この伸びる蹴りの射程や威力ももっと上だったんだろうか? だとしたらまあ、そっちもそっちで私は喜んでいただろうな。


 まあ膝上がせめて残ってくれているのが嬉しくはあるから、そっちのほうが良かったとかはぜんぜん思わないけども。根本から千切れていたらもっと出血も酷くてガチで死んでたかもしれないし。


「おっと」


 性能を確かめるためにじっくりとやり過ぎていたらしい。足を引き戻したときには最後の一匹になったバーゲストがもう間近にいた。さては仲間が足に撃ち抜かれたのを好機と捉えて一気に加速してきたな? カザリちゃん並みに冷静冷徹なバーゲストだな。仲間の犠牲に動揺しないどころかむしろ利用するあたり、彼女の持つクールさとは根本から違うものだけどね。


 とにかく対処だ。と言ってもこの至近距離、牙を剥き出しにして組み付こうとしてくる相手にできることはそう多くない。急所だけでもガードするか、反対にこちらも攻撃で迎え撃つか。そっちはもちろん被弾覚悟だ。バリバリに狙われている首を差し出してでも相手に致命傷を与える、っていうのも無しではない。深い首の傷でもコマレちゃんなら治せるって実証済みだからね。仲間の治療を当てに差し違えるのは策としてアリだろう。


 なーんてもっともらしく言っといてなんだけど、そんなことするつもりはさらさらないよ。だって死なないにしたって私は瀕死になるわけだし、それを治療するためにコマレちゃんにまで大変な思いをさせちゃうしね。二人も動けなくなるんじゃ他の皆にも多大な迷惑をかけることになる。もっと追い詰められているってんならともかくこの場面で選ぶような策じゃないっすわ。


 そう、ちっとも追い詰められちゃいないのだ。こんなゼロ距離でも私には──この右足になった私なら、やれることがもっとあるから。


「ほっ!」


 軽い掛け声と共に膝を突き出す。体重を乗せていない膝蹴り。そんなものはただのジャブと一緒で、牽制くらいにはなっても本命の一打にはなり得ない。たとえそんなものを食らったところでバーゲストの勢いは止まらず、何も気にせず首へ牙を突き立ててくるだろう。だが、そうはならない。


 ドスゥ、と。鈍くも軽快な音を立ててバーゲストに突き刺さったのは私の膝から伸びた棘だ。


 攻撃には加速が必要。速度が乗っていなければ打撃だろうと斬撃だろうと大した脅威にはならない。だから密接した状態じゃパンチもキックも有効打にならないわけだけど、ミニちゃんには変形がある。変形が加速を生む。ゼロ距離からでも有効打を作り出せる。それによってバーゲストの顎下から脳天までをぶち抜いてやったのだ。


 生やした棘を引っ込める。崩れ落ちたバーゲストは当然ながらもう動かない。死んでいる。辺りを見渡せば、死屍累々。さっきまで元気に殺意を振り撒いて走り回っていたバーゲストの群れが全滅している光景が広がっている。


 僅か一分。それくらいの時間で倒せてしまった。なんの苦労もなく、トロールにも劣らないくらいの危険度の相手をだ。


「うん。全体的にいい感じじゃん」


 ポンと元の形に戻った右足に触れてみれば、私が抱いたのと同じ感想がそこから返ってくるようだった。



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