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102 絶対的な有利

 ロードリウスが鎧に守られた腕を素早く動かす。それだけで私のダブル突糸は呆気なく弾かれて、解ける。いや解けることはこちらの設定通りなのだが、けれど相手に命中していないせいで肝心の絡め取る段階へと移行できなくなってしまった。


 そして、水壁を突き破ったいくつかの魔弾がロードリウスに着弾。片手分の防御ならカザリちゃんの攻撃を完全には防げない、というのも狙い通りではあったけれど、でも想定とは違ってロードリウスは無防備じゃない。魔弾は確かに彼を捉えたがその身を覆う鎧までは突破することができなかった。


 闇と光の魔力が弾けて舞い散る残光。それを振り払うロードリウスは、どう見ても無事。大きな痛手を与えられると確信していた挟撃が凌がれてしまった。という事実に私は歯噛みせざるを得なかった。


 くっそ、まさかこんな受け方をするなんて思いもしなかった。混合魔弾の連射は高火力だけど、さすがに水壁を貫いた上であの頑丈そうな鎧まで破壊するのは無茶だったか──そう予想したからこそロードリウスも最大水壁or片手水壁二個ではなく、水壁+水鎧を選んだんだろう。


 そうすれば私の突糸も直接触れずに叩き落とすことができるし、魔弾も食らわずに済む。どちらに対しても最大限の効果を発揮する守り方だ。これは要するにロードリウスの抜け目のなさを表している……と思う。

 カザリちゃんだけ認める口振りで私のことは依然として侮っているような態度を取っておきながらその実、奴は私の糸を決して軽視していない。何かしら仕込みがあるかもしれないと、そう用心していなきゃあんな念入りな防ぎ方はしないよね。


 魔弾だけにかかずらってくれるならたとえ鎧があっても糸の拘束は効いたのだ。命中さえすれば、鎧の上からでも縛ることができる。まあその場合でも縛った部位の鎧をパージすることで脱せられる可能性がアリアリだとは思うので、結局のところ私の冴えた策はまったく冴えちゃいなかった……というよりも私の機転以上にロードリウスの思考力が上なんだな。


 よくもそんな涼しい顔で連携攻撃を片付けてくれるよ。と、頭部もしっかりと水鎧で覆いつつも顔は隠していないロードリウスを睨んでやれば。


「ふふふ……まるで想像だにしていなかった、といった表情だな。私のこの姿がそんなに意外かね?」


 半身のまま、右に私を、左にカザリちゃんを置いてその両方を油断なく見据えながら──特定の物だけに視線をやらず全体を見る「俯瞰の目」というやつだ──ロードリウスは得意そうに言う。


「いや何、お察しの通りに私は君たちで言うところの魔術師タイプ。自らの肉体を頼りに戦うのはじゃない。そこは認めるとも。とてもとても、スタンギルのような野牛めいた戦い方を取っては彼に及ぶべくもない……が、それでも私は魔族なのだ。人間などとは生来の作りが違うのだよ」


 わかるかね? と彼は問う。けれど私たちから返答がないと見るや、特にそれに気を悪くした様子もなく続ける。


「たとえ君たちが勇者という選ばれし存在であったとしても種族的な性能差までは覆せない。それは私に絶対的な有利をもたらしているということだよ──このように!」

「!」


 離れた位置にいたロードリウスが一瞬で間を詰めて、私の目の前にいる。速い!? 魔力を全開にして動体視力も反射速度も限界まで高めているのに防御が間に合わない。それはロードリウスがここまで素早く動けるとは思えていなかった私の油断が招いた自業自得でもあった。


「ぐげっ!」


 なすすべなく食らう。服の下には鎧糸を巻いているが、ロードリウスの拳は容赦なく私の顔面を打った。ビリリと衝撃。だけどそれは直に拳が当たったそれではなくて、またしても防魔の首飾りによってオートガードが働いたことで打撃の威力が散らされた証だった。


 殴られた感触はある、けど分厚いゴム越しに押されたくらいのものだ。それでも私はたたらを踏みかけたけど、足元は地面じゃなくミニちゃん。咄嗟に頭の中で指示を下すとミニちゃんは上手に意を汲んでくれて私がひっくり返らないように重心の支え方を工夫しながら後退してくれた。


 あ、危ない。もしも無様にミニちゃんの上から転げ落ちたりしていたら確実に追撃を受けていた。防魔の首飾りが作動するほどの拳を何発も食らったりしたらさすがにアウトだ。あっという間にオートガードの守りがなくなって私自身の拙い魔力防御でどうにかしなくてはいけなくなるが、もちろんどうにかなるはずもなく、全身ボッコボコにされるところだった。


「今の感触は……ふむ。君には何か特殊な守りが働いているようだな。術、ではないな。魔道具か? だとしても私の知覚にここまで反応がないのは奇妙なことだ。実に高機能、だがそれ故に無尽蔵とはいくまい。もう数発も与えてやれば種は切れると見た」


 げ。オートガードを嗅ぎつかれた。それも残りの防御可能数の見立てまでバッチリに。……首から下がっているこのネックレスが元凶とまでは看破できなかったみたいだけど、ここまで正確にアイテムの効力を見抜いてくるのはこいつが初だ。


 やはりこの男は言動からナルシストぶりが透けていてかなりバカっぽく見えるのに反して、頭の回りは決して悪くない。っていうかすこぶるに良い部類のようだ。接敵の前にまず不意打ちから入ったことや、私たちの力を探るような戦い方をしていることからも、ロードリウスの慎重さと思慮深さがよく窺える。


 スタンギルとはまったく方向性の異なる、でも同格の強者。それがよーく実感できてきた。


「おっと?」


 勢いよく飛んできた魔弾を、まるで後ろに目でもついてるかのようにひょいとロードリウスが躱す。やっぱ速い。軽い動きにしか見えないのに一瞬、たったの一歩で射撃範囲から逃れてみせた。硬質化させた水を全身に着込んでいるとは思えない機動力だ。


 だけどこの速さ、なんだか引っ掛かるものもある気が──。


「いっ!?」


 なんて考えている場合じゃなかった! ロードリウスが避けてしまったので魔弾はそのまま真っ直ぐ進み、進行方向先にいる私へと迫ってきている! 


 やっばい、おそらくは弾数に重点を置かれているそれらの中に一際強力な混合魔弾は混ざっていないが、単独属性でも私からすれば十二分に凶悪な代物。一発二発くらいならともかくこんな数に当たったら死ねる。


 だけど今から弾の通る範囲から逃れようとしても間に合わない。回避のための半端な姿勢で一発でも食らってしまったら立て直せないままなし崩しに他の弾も食らうことになる。だったら下手に動こうとはせず、このままじっとして耐えを選ぶほうがいい。


 被弾面積をなるべく小さくして、弾を浴びても地蔵のように不動を貫く……! という私の選択は結果的に大正解だったようで。


「あれ?」


 弾の群れが左右に別れていき、私の横を通り過ぎていく。


 進路が変わった? いやそうだ、バロッサさんへの成果披露でもカザリちゃんは魔弾の軌道を精密に操っていたじゃないか。そのためには撃ち出す段階で(つまり術式イメージの構築において)一捻りがいるみたいなこともどこかでコマレちゃんあたりが言っていた気もする……ってことはカザリちゃんは、背後からの攻撃でもロードリウスが躱すだろうと予測していたんだ!


 それを予測できていたからには、弾が曲がっていく先は当然。


「……!」


 逃げたロードリウスを追いかける軌道だ。



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