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100 斬って斬って斬りまくる

 いや、待てよ。と思いつく。


 締め技による窒息や拘束、そして狙撃用の突糸が効かないからといって糸繰り自体がまったく通用しないとは限らない。

 糸を使った直接的な攻撃手段は、突糸だけじゃあないんだから……!


「斬糸!」


 細さと硬さに重点を置いた糸を、鋭く振るってしならせる。空間を走って狙い通りの箇所を横切った糸は、その途上でしっかりと一体の水人間の腕を切り裂いてくれた。


「──よし!」


 ばしゃりと水音。斬り落とされた腕が地面に落ちて形をなくしたのだ。どうやら切り離された末端部分はもう戻せないらしい。


 なるほど? 人間のような急所こそなくてもまったくのルール無用ってわけでもないみたいだね。スライムみたいにどこかにコアとなる何かがあるのか、それとも胴体か頭あたりが「中心」に設定されているのか。もしも頭が主要部なのだとすれば首を落とせば無力化できそうだ。


「やってみますか、っと!」


 陸上ボードになってくれているミニちゃんとの意思疎通は完璧だ。水人間の進路に合わせて囲まれないようにこっちも逃げる方向を変えつつ、斬糸を連続で放っていく。一体には運悪く上げていた刃状の腕に防がれてしまったが、もう一体の首はちゃんと落とせた。──けど、ダメだな。頭部を失くしても水人間は動いている。だったら危ない腕から落としたほうがいいな。


 だけど凶器攻撃は出来なくなったとしても水人間は近寄らせたくない。覆い被さられて顔でも塞がれてしまったらそれだけで呼吸ができなくて私は死んでしまう。そうじゃなくても──今のところその兆候は見られないが──他のどこかが武器化しないとも言い切れないし。


「とにかく斬って斬って斬りまくる。それしかないね」


 首さえ切り離せば終わってくれるってんなら楽だったんだけど、そうはいかなかったからには水人間を完全に無力化させるには四肢の全てを切り落とすしかない。そのためには斬糸を放ちまくるしかない。それもやたらめったらに数を稼ぐんじゃなくて一撃一撃を丁寧に、正確に部位を狙ってだ。


 体力も神経もそれなりにすり減らされはするけど、ロードリウスだってこの数の水人間を作り出すのには少なくない魔力を支払っているはず。今だって忙しなく両腕を動かして水人間の操作に精を出しているし、奴にとってもこれは大技ないしはそれなり以上に神経を使う技なんだろう。だったらそれを攻略することには大きな意味がある。


 無為な消耗ではない。ってことで気合を入れていこう!


 両腕に残糸用の糸を垂らし、ダブルで斬糸を放てるようにする。この糸を放棄でもしない限りは糸繰りにおける魔力の消費はこれ以上ない。糸繰りという技術の長所は魔力総量に優れない私を大いに助けてくれている。そう実感しながら水人間の合間をミニちゃんで駆け抜けていく。


「ほれほれほれほれほれぃっ!」


 ぶんぶんと腕を振りまくって斬糸をあっちにもこっちにもそっちにも休む間もなく繰り出していく。ヤケクソめいてるように見えるだろうけどこれでも精度はばっちしだ。我ながら的確に水人間の四肢を狙い撃てている。まずは動作性を少しでも悪くさせるために足を、そして這いずるしかなくなったところで腕を斬っていく。


 ここまで狙い通りにいくのはやっぱりミニちゃんが回避の負担を担ってくれているのがデカいね。自分の足で逃げ回りながらだったらこう順調な退治とはいかなかったろう……けど、対処の目途が立って余裕も出てきたのでチラチラとカザリちゃんのほうの様子も確かめてみたら、彼女は回避も迎撃も一人であっさりとこなせてしまっている。


 ていうかそもそもあんまり逃げるようなこともしてないな。近づいてきた順から闇と光の魔術を同時にぶつけて爆発四散させて片付けている。すごい殲滅速度だ、当初は私の二倍から三倍くらいはいたはずの水人間がもう残り数体にまで減っている。これは私も急がねば……!


「よいやっさぁ!」


 慣れてくると一振りで二本の腕を落としたりもできるようになってきた。何気にこれ斬糸のいい練習になってるわ。私のお掃除スピードも上がってきた、のはいいが、気付けばもう最後の一体だ。せっかくエンジンがかかってきたところだが在庫切れじゃ仕方ないか。この熱はロードリウス本人へプレゼントしてやるとしよう。


 ラストの一撃を決めて、本当にただ地面を這いずるしかできなくなった水人間たちをミニちゃんでまとめて轢き潰していく。やってる側が言うのもなんだけどかなり残酷な絵面だ。まあ、飛び散るのが血潮とか脳漿じゃなく色の付いた水でしかないから、全部潰しちゃえばただの水遊び跡でしかないけどね。


 てなわけでお片付け完了。当然カザリちゃんのほうももう終わっている。ふう、ごちゃごちゃしていたのがスッキリしたぜ。


「一人寂しくなっちゃったねぇ、ロードリウスさん?」

「寂しい? いやいや、君も随分と楽しそうだった。彼らは充分に役目を果たしてくれたとも。満足のいく結果だ」


 けっ、何も楽しかねーやい。そりゃ傍から見ればミニちゃん乗り回して暴れ回って、まるではしゃいでる子どもみたいになってたかもしれんが。すげー必死だったっつーの。


 というかこいつ、水人間を全滅させられてもちっとも痛くも痒くもなさそうなんだが。強がってるのか? なんて自分に都合よく捉えたかったけど、溢れ出すロードリウスの魔力がそれを間違いだと知らしめてくる。


 っく、迫力がさっきと比べてもまったく落ちていない。本当に、なんてことはないんだな。あれだけの大技でもこいつにとっては攻略されて何も惜しくない、マジでただの遊びだったってことだ。ヤんなっちゃうね。


「そちらのお嬢さんには少々刺激が足りなかったかもしれないな」

「…………」

「ふふ、やはり。同じ勇者と言えど違うものだ」


 無言のカザリちゃんに対して勝手に一人で納得しているロードリウス。カザリちゃんの力を認めたってことだろうか? そしてその裏で私をそこはかとなくバカにしている感じもする。


 や、そりゃーカザリちゃんとは雲泥の差ですとも。でもだからってこいつに見下されて当然だなんて思えるほど私は人間ができちゃいないのだ。


 この戦いの終わりには必ず私があんたの上に立つ……! と意気込みを固めたところ、またロードリウスの両手から水が溢れる。それに応じてカザリちゃんも闇と光をそれぞれ片手に、私もいつでも糸を出せるように身構える。


「しかし謎は解けんな。ザリークによれば最も警戒すべき勇者はハルコ、君であるはずだ。これは奴だけなく魔王様の御言葉でもある。だというのに君からはまったくもって脅威というものが感じられない……戦う姿を見ても尚、だ。これはとても奇妙なことだよ」


 ……そんなこと言われてもね。なんて返せばいいのよ? 別に私は擬態も何もしちゃいないぞ。


 強者の気配に敏感だとかいう特技(?)を持っていたらしいスタンギルにもノールと見分けがつかないみたいなことを言われたし……ちょっと四災将ども私に対して失礼が過ぎないか。


 で、自分の目で見るととても強そうには見えない私が魔王──アンちゃんから評価されているのが不思議って話? いやそれは私も不思議だわ。なんでザリークと意見を共有させているのかもわかんないし。


 アンちゃんと直接戦り合ったのは勇者の中で私だけではあるが、それだけで私が一番警戒すべき勇者ってことにはならないだろう。だってアンちゃんは他四人の実力を目にしてないんだから、そんな評価は下しようがない。


 なのに思いもかけない強敵認定をされているってことは。


「それなりの理由があるのだろう。私はそれが知りたい」


 ロードリウスがそう言い終わると同時、見えない何かが私に着弾した。



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